冒険者になる為に。
やっと冒険者になろうとしてくれた!
これでタグ詐欺脱出か?
加護者が教えてくれるのよ
その言葉を聞いた後私は何をどう取り繕ったか忘れたがとにかく自宅に帰ってきた。
モンスター狩ろうと英雄様が煩い。
自室にスチュワートとともに入ってドアを閉めて鍵をかけた。
「お嬢様…」
「ど、どうしよーーー!」
私は頭をかきむしった。
ずぅぅぅっと無視してきたこの声!!
加護者の声って奴で魔力暴走を止める方法を伝えていたのかよ!
「お嬢様も加護持ちでしたね。
魔力排出の術を加護者が教えているのでは?」
「教えてる!確かに教えてくれてる!!」
だけど、それはねーだろーーー!
「お嬢様、落ち着いてください。」
私とは真逆に冷静なスチュワート。
すでに私がかけた魔法効果は切れている。
「具体的になんと仰っているのですか?」
「うっ…」
いうべきか?
一瞬戸惑う。
この何を聞こうと見ようと冷静なスチュワートだが、何事にも限界というものがある。
「お嬢様にこれだけ尽くしている私をまだ信じては頂けないと…」
「そうじゃないけど…!」
「では、教えて頂けますね?」
無表情で圧力をかけてくる。
「……うう……」
私は覚悟を決めた。
「………モンスター狩ろうってさ……」
「……今日狩ります?」
え?そういう反応?
「いかがしましたか?」
「え?いや、気味悪くない?」
「何故?」
「何故って…」
ある日突然魔法が使えるようになり、常識外のオマケがくっついていてさらには大量の魔力。
これだけでも私のキャパは完全にオーバーしているのに、さらにモンスター狩ろうだ。
自分で自分が気味悪い。
他人のスチュワートから見たら化け物ではなかろうか。
「問題は魔力はあれども攻撃魔法をお嬢様は知らないことですかね。」
私の心配をよそに彼は考え込む。
知ってる知ってる!
ほら、この記憶、ぜーんぶぜーんぶ君のもの。
使って使って!
英雄様の記憶で魔法に関するものが展開される。
知らないはずの呪文が脳内を駆け巡る。
6種の属性に限って言えば私はほぼ全てを網羅していた。
「大丈夫…それも加護者が教えてくれる。」
「そうなんですか?…お嬢様に話しかけてくるならば、その加護者が誰か分かるのでは?」
私は視線を外した。
「お嬢様?」
圧力をかけてくる。
「な、なんでそんなに知りたがるの!?」
「お嬢様の事ならなんでも知りたいです。」
「うわー、執事の鑑だねえー」
若干棒読みではあったが言ってみた。
その言葉に彼は少し眉をひそめたがすぐにいつもの無表情に戻る。
「で、誰なのですか?」
「…………………………英雄様」
「ご先祖様?」
「そう。」
「英霊の御霊がお嬢様をお守りしてくださるのは心強いですね。」
そんな一言で片付けてくれた。
彼の懐の深さは尋常ではない。
…もしかしたら、彼はもう一つの加護者も受け入れてしまうのではなかろうか?
……まさかね?
「…モンスター狩ろうって毎日煩いけどね。」
「では、英雄様のおかげで魔法関係の問題は解決となれば、即狩りにいくべきでしょう。」
「うう。他に方法ないのかな?」
「あるかもしれませんが、それを探し当てるまでに再度暴走の危険が生まれるかと。」
「う!」
「とりあえずモンスター狩りつつ他の方法を探すのがよろしいのでは?」
「そうだね…」
私は力なく蹲る。
とりあえず、諦めよう、今回は!今回はぁぁ!
「でも、モンスターってどこにいるの?」
王都の外に広がる『デビの森』なら幾らでもいます。」
「デビの森…」
王都を取り囲むようにして存在する魔の森だ。
王都に行く、或いは地方に行くには必ず通らなくてはならないところ。
王家は建国以来何度か開発を試みるも、そこに存在するモンスターが多すぎていずれも撤退している。
それにこの森、何も悪いことばかりではない。
モンスターの体から採れる素材は私達の生活に根付いており、それを手に入れることが出来る場所が王都近郊にあるのは素晴らしいことでもある。
さらには、王都を取り囲むこの森自体が天然の砦となり外敵の侵入を拒んでもいる。
歴史を紐解けばこの森が敵国の軍隊を退けた逸話は幾つも存在していた。
森は私達王国民にとって味方であり恵みであり、同時に邪魔でもあった。
確かにその森なら探さなくても歩いているだけでモンスターと鉢合わせしそうだ。
しかも近い!
記憶にある飛行魔法を使えば一晩で行って狩って帰ってくるが余裕で出来る!
「でも簡単に入れるの?」
魔法で勝手に入っても気づかれない?
なんか確か…凄く危険な森だから一般人が勝手に入らないよう規制魔法がかかってるって聞いた。
「規制魔法がありますが、規制がかからないようにはできます。」
「どうやって!?」
「お嬢様は冒険者はご存知ですか?」
「痛いほど。」
「ん?…まあ、英雄様の本業ですしね。
彼らには規制がかかりません。
お嬢様、冒険者になればいいんです。」
なーに、言ってんだ、この執事。
胡乱な目で彼を見る。
いたって真面目、いたって本気。
それは間違いなさそうだ。
「……簡単に言うけどなれるの?」
「ちょっと書類を書けば簡単に。」
「なんでそんな事知ってるの…?」
「前の前の仕事で私、冒険者してまして。」
…。
「えええええええ!?」
なんちゅー爆弾発言!
いやいや、ありえない。
「貴方、男爵家の三男でしょ!?どうしてまた!?」
「三男だから、ですね。」
「?」
私は首を傾げる。
「三男が家継げますか?余程の事がない限り無理でしょう。
と、なるとある程度の年齢になれば自立を促されるんですが、当時は誰かに頭下げるのがこの上なく嫌でして。
自由な冒険者に就職したんですよ。
腕がよければ、下手な貴族より稼げますし?」
「えーっと…」
頭を下げたくない?
今の貴方を過去の貴方に見せてあげたい。
鞭打ちされて、不条理な暴力を振るわれる、それが未来の貴方ですと。
「案外いますよ、貴族出身の冒険者。」
「え?」
「私みたいな反骨精神旺盛な予備以下の貴族に、取り潰された元貴族。他には亡命してきた貴族が冒険者やって金を稼いで反旗を翻す準備をしているなんてパターンもありました。」
「そうなんだ…」
「ですからお嬢様が冒険者でもおかしくはないです。」
そうか、なら、冒険者やろうかな?
「まあ、すぐに話題になるでしょうね。」
「待って!」
私は慌てて待ったをかける。
話題になるってなんで!?
「我が国一番の美貌を誇る王太子の婚約者にして王家に次いで古えの血筋であるミハルバーの名を持つご令嬢。
その美貌もさることながら、苛烈な性格は時に平民の口に登るほど。
さらには何度か陛下や妃殿下、王太子について公務を務めた事もおありなお嬢様は平民でもそのお顔を知ってる者が多い。
そのお嬢様が冒険者で魔法使ってモンスター狩ってるなんて話題にならないはずがありません。」
一息で言い切った。
どごぞの令嬢を思い出す。
「それじゃどうする…」
詰んだ。
私は死ぬ。
毎回闇魔法をスチュワートにかけてもあまり減らない魔力。
なのに、少しイラっとくるだけであっさり増える魔力。
うん、私は魔力暴走で死ぬ運命だったんだ。
私の人生なんだったんだろう。
殿下にまとわりついて嫌われて溺れて今度は嫌いになって。
とにかく人間関係には恵まれなかった。
「転生とかがあるなら次は…コミュニケーション能力高めでって神様にお願いしよう。」
そうすれば、嫌いな人間はうまく避け、好きな人間には好かれるよう動ける気がする。
「来世の話は置いておくとして、今世の話をしましょう。
お嬢様の知識の中に変身魔法はないのですか?」
「え?」
「仮面舞踏会では変身魔法を併用する貴族が大半ですよね?」
仮面舞踏会で使う仮面は大抵変身魔法が使えるマジックアイテムだ。
マジックアイテムで出来るなら魔法使いである私にも出来るのではと聞いてきたわけだ。
「出来なければ仮面を被って冒険者…」
「ある!あります!」
仮面被って冒険者ってなにそれ罰ゲーム!?
よかった記憶にあって!
初めて英雄様に感謝した。
「ならば、変身魔法を使って冒険者登録。
そしてモンスター狩って魔力排出。
それが暴走を抑える手立てでしょう。」
「なるほど…」
「そうと決まれば出かけましょう。」
「え?」
「登録自体はすぐにできますが、その際最低限の防具や武器を持ってないといかに誰でもウェルカムな冒険者ギルドでも門前払いされます。」
「ギルド…?」
「冒険者を纏めている組合です。
冒険者登録、仕事の斡旋、素材の買取などを担ってます。」
「へえー。」
さすが元冒険者。よくご存知で。
「ですから、まずは装備を整える。そして登録、モンスター狩り、です。
もう、昼過ぎです。時間は無限ではありません。
急ぎましょう。」
「わかったわ!」
スチュワートに急き立てられ私は立ち上がったのだった。
サンティア王国王都。
国の中枢であり、王家直轄地でもある。
地方出身者から見れば一生に一度は行ってみたい都市であり貴族もここに屋敷を持てたら一目置かれ領地が近ければ上級貴族の証拠とも言われる。
そんな都市だが、私はそこに住んでいるので全くもって珍しくはない。
しかし。
「ふっふっふっ…!」
私は上機嫌であった。
「おじょ…こほん、リズさ…ん、どうされ…どうしましたか?」
問われて私はニタっと笑う。
そう、今の私は平凡な少女リズだ。
どこにでもいる栗色のストレートヘアに同色の瞳。
それに手持ちの運動用のシャツとキュロット、ブーツを合わせて王都を闊歩していた。
そう、歩いているのだ!
公爵令嬢たる私が!
見慣れた町ではあるが、自分の足で歩いて見て回ったことはなかったので凄く楽しい。
さらに…。
私は隣をちらっとみる。
私の隣を歩く長身の美形執事はいつもの執事服を脱ぎ捨てて箪笥の肥やしとなっていたと言うかつての冒険者の装備品であったというスケイルアーマーとロングソードを身につけていた。
それだけでいつもの彼が別人に見えるから不思議だ。
「いや、新鮮だなって。」
「確かにおじょ…リズさんは歩きませんものね。」
…今のは貴方に対して言ったのだけど、まあいいか。
私はこくりと頷く。
「まずはどこへ?」
「防具を揃えに行きましょう。」
「どこに売ってるの?」
「おじょ…リズさんが普段買物をしている中心地から一本裏に回ったところにその手の店があるんです。」
言って彼は道を逸れる。
私もつづいて行けばそこは私の知らない別世界が広がっていた。
「武器屋…防具屋…魔法屋…!」
どれもこれも今まで縁のなかった存在だ。
「ここで防具を揃えましょう。」
「うん!」
言って私は魔法屋の看板を下げてる店に入った。
店の中は雑然としていた。
細々とした商品が多く、また中々売れないのか埃をかぶってる商品も多く存在していた。
「一体何を買えばいいのかしら?」
「私は魔法使いではないので詳しくは知りませんが、かつてパーティを組んでいた魔法使いはローブを纏っていることが多かったですよ。」
「ローブ?」
ローブってなんだ?
そう聞こうとしたら、奥から人が出てきた。
「おや、お客さんかね?何かお探しかな?」
それは腰の曲がったおばあさんだった。
黒のマントを纏い、白髪頭に鷲鼻、しわがれた声とこの雑然とした店の雰囲気によくあっていた。似合いすぎて敢えてそういう格好をしているのではと疑うほどだ。
「ここはプロに聞くのが一番かと?」
スチュワートがそっと耳打ちしてきた。
私は頷く。
「実は冒険者になろうと思って防具を買いに来ましたの。
何がいいか見繕ってくれるかしら?」
「ほうほう、これは随分、毛並みの良い子が来たものだ。
冒険者は時に死ぬ事もある職業じゃよ?」
死ぬ…?
一瞬私は戸惑った。
魔力暴走で死にたくないからモンスターを狩りに行くわけだが、そのモンスターに殺される可能性もあるわけだ。
当たり前の事に私は気づき口ごもるが、そこにスチュワートが答えた。
「問題ありません。」
「そうかねぇ」
「さっさと防具を見繕ってくださればいいのです。」
「はいはい、こっちじゃよ。」
言って老婆は腰が曲がっているとは思えない足さばきで店を練り歩き私達を案内してくれた。
私は老婆に着いていきながら、不安になる。
本当にこれでいいのかな…。
モンスターを狩るなんて言ってるけど、私は鳥すら締めたことがないのだ。
いくら能力的に問題がなくても出来ないのではなかろうか。
そこに、スチュワートが再び耳打ちしてくる。
「大丈夫です、この私がいるのです。
必ずお守りしますので、どうかご安心ください。」
思わず彼を見た。
すぐ目の前に整った顔があった。
相変わらずの無表情ぶりだが、声には私を励ます色と強い決意があった。
私は口元にうっすら笑みを浮かべる。
「よろしくね?」
「おまかせください。」
「おーい、こっちじゃよ。」
老婆の声に私達は足を運ぶ。
そこには防具が揃っていた。
「魔法使いといえばローブじゃな。」
「ローブ」
びらっと一枚のローブなるものを渡された。
外套と違いがあるのか。
しいていえば、丈が長いことか?
「それは魔法的効果が何もない普通のローブじゃ。
代わりに安いぞ。」
「魔法的効果が欲しいわ。」
「なら、これは?」
またもや適当に渡されたローブ。先程より厚手なのに軽い。
「見た目より衝撃に強いぞ。」
「へぇ」
と、しか言えない。
「値段的にも冒険者になろうとする者、或いはなりたてな者はこのローブがもしくはさっき渡した普通のローブを選ぶ。」
「そうなの?因みにこの店で一番いいものは?」
「あれじゃな。」
言って老婆は店の奥にかかってる…と、言うより飾ってあるローブを指差した。
真っ白で汚れが凄く目立ちそう。
「光の精霊の羽を乙姫が織り上げた特級品よ。」
「光の妖精?乙姫?」
「珍しいモンスターで討伐レートはA級。
これは去年あの有名な天才リュドガリオン様がお倒しになった際に手に入れた素材で作ったものよ。
乙姫はマジックアイテムを作る最高の腕を持つ者の通称名で、王都におってな。
顔を誰も見たことがないが、素材と注文書を郵便で指定の住所に送ると作ってくれるんじゃよ。
…不思議な事に無料で。」
「へー…」
リュド様、貴方何してんのさ。
長い付き合いだが、森でモンスター狩ってるなんて知らなかったぞ。
「彼って冒険者だっけ?」
「な、訳無かろう。魔法師団の手伝いで森に入ってるんじゃ。」
「へー」
それはすごい。
「おばあさんよく知ってるね。」
「これでも店を構えて100年は経つからな。」
ひゃくねん!
若く見えると言うべきか?
まじまじとおばあさんを見る。
「なんじゃよ。」
「因みにおいくら?」
「仕立て代はタダじゃが妖精の羽は本当に珍しいのじゃ。
故に大白金貨50枚」
「買います」
最高額硬貨50枚は普通に考えて売る気のない金額設定だと思う。
これだけあれば、そもそも一生遊んで暮らせるのだから。
「は?」
だからおばあさんの間抜けな声は納得出来る。
「ス…」
かっこよくスチュワートと呼ぼうとしてはたと止まる。
ここでスチュワートの名前を呼べばスチュワート経由で私の正体がバレるのでは?
「えっと…ス、スチール?」
「………はい、こちらですね?」
察しのいい執事様は私に革袋を渡してくる。
おばあさんに手渡した。
「これでは足りない…」
「中を見てくださいな。」
「!?」
おばあさんは目を見開いた。
革袋の中身はお金ではない。
宝石だ。
それも上等で大粒なものばかり。
私の宝石箱に入っていた奴を持ってきたのだ。
「鑑定するぞ?」
「どうぞ?」
言っておばあさんは眼鏡をかける。
「これは…!かなりの…!!確かにこれだけあればあのローブは買えるのぅ。」
「じゃ、くださいな!」
「ふむ、仕方ないのぅ。」
少し残念そうにおばあさんは私にローブを渡してくれた。
「ああ、大切に使っておくれよ?これは本当に貴重なものなのだから…」
「そう言われましても。防具って壊れる前提のものでは?」
「まあそうなのじゃが。」
おばあさんは心底残念そうだ。
「仕方ありませんわね?私がもし光の妖精を討伐出来ましたら羽をおばあさんにさしあげますわ。そしたら乙姫でしたか?にまた仕立てて貰えばよくてよ。」
私がローブを着て微笑んだ。
しばしおばあさんが惚けて…
「ガハハ!お嬢ちゃん、言うの!!まあ、期待しておくぞ!」
おばあさんは大笑いしたが、あれだ、ただ魔力暴走を抑える為だけにモンスター狩るより目標があった方が楽しめるってもんだ。
「楽しみにしておきなさい!このリナ…じゃない、リズ様が見事光の妖精を討伐してみせますわ!
ほーっほっほっ!」
何故か高笑いをかましてしまったのだった。




