コントロール不能
魔法説明回
モンスター狩ろう
モンスター狩ろう
モンスター狩ろう
眠れば頭の中で英雄様が普段の倍しつこく誘ってくる。
煩くて半ば無理矢理目を開ければスチュワートが隣で椅子に座り私を見下ろしていた。
この人はずっと起きていたのか?
寝ないのか?
…きっと今晩は寝ないのだろう。
まあ、勝手に起きていればいい。
朝、目が覚めた時一番最初に見るものは、たとえどこにいようともスチュワートであればそれでいいのだから…
なんて思ったような?
はて?
なんか一瞬目を覚ましスチュワートの無表情で見下ろす様を見てそんな事を思ったような気もするがそのまま再び眠ってしまい、記憶があやふやだ。
そもそも目を覚ましたかどうかさえ覚束ない。
「おはようございます。お嬢様。
お身体の具合はいかがでしょうか?」
「…普通?」
私が寝ている間もこの大きな箱は稼働し続け血液から魔力を濾過し続けていたようだ。
「お食事はいかがされます?」
「普通に食べれるわ。」
「畏まりました。では頼んで参ります。」
言ってスチュワートは席を外す。
一人になった。
はて…。
おかしい。
私は一人万歳主義である。
少なくても溺れた後はそうだった。
なのに今は妙に心細い。
こんな感覚は初めてだ。
……あれか、病気をすると弱気になるっていうアレ。
今まで風邪くらいしかひいたことがなくてそんな感覚覚えたことがなかった。
そんな事を言う人を内心馬鹿にしていた。
だけど、今自分の身に降りかかりつくづく思う。
心細いって結構精神にくるっ!
なんかこう…心が波立つのだ。
不安とはこういう感覚なのだろう。
そこに足音が聞こえてきた。
はっとして耳を澄ませれば…スチュワート…ではない。
規則正しくないし、何より静か。
この足音はリュド様だ。
「やあ、おはよう。」
「おはようございます。」
「…ちょっと!なんで魔力量が上がってるの!?」
「へ?」
「昨日最後に見た時は安定していたのに!」
箱をみながらぶちぶち文句を言う。
「一体何が原因でストレスが溜まるのかな!?
君、寝てるだけでしょ!?」
目を釣り上げてリュド様が言い募る。
「そ、そういえばストレスと魔力量に何か関係が?」
「今話を逸らしたね?…まあ、いい。
魔力は精神…もっと言えば感情に左右されて増減する。
ストレスで感情が乱高下すれば魔力の血中濃度は高まるし、一度高まった魔力濃度は精神が安定した後も元には戻らない。」
「…つまり一度高まった魔力は排出しない限りずっと高まったまま…」
「そう。」
「魔力ってどこから生まれるんですかね?」
「それは魔法使い最大の謎だね。
それがわかれば魔力暴走ってのも減るだろうし、魔法使いももっと増える。」
「逆に辞めたい人間も辞めることが出来る。」
「辞めたい人間などいないと思うけど」
ここにいますよ。
魔法使いを辞めるというのは現状不可能なのか。
そして今、私の魔力は…心細さひとつであっさり増加するという厄介さをもっているということ。
「失礼します。お嬢様、お食事をお持ちしました。」
「ありがとう!」
私は上半身をゆっくり起こして、食事を受け取る。
スチュワートがベッドに付属されている机を手前に持ってきてくれた。
うん、管が邪魔で食べづらいが、まあ食べれる。
「………食べれちゃいますか。」
「ん?食欲は普通にあるよ?」
「それは何より。」
あ、美味しい。
私はオートミールを食べる。
「ところで、アーミオン侯爵様はもうお帰りに?」
「うん、先程帰ってきた。今荷物置いてるから間も無くこっちに来るよ。」
「うっ!こんな格好でお会いするのは恥ずかしい…」
お風呂に入ってないし、服装もネグリジェだ。
「大丈夫、母上の方が酷いから。」
「?」
きっぱりとリュド様が言った直後リュド様の頭上に桶が落ちてきた。
「ーーーー!」
「な、なんで桶が!?」
「は、母上……!」
「聞こえたわよ…?リュド??」
さらに一拍遅れてこの場に現れたのはアーミオン侯爵だった。
…え?
アーミオン侯爵様…だよね?
アーミオン侯爵様は上院議員の紅一点、妖艶な美女である。
それが私のイメージであり、動くことのない事実である。
しかし。
目の下に隈。
髪の艶は無い。
化粧は完全にはげ落ちていた。
黒のドレスもヨレヨレだ。
転移魔法で現れた侯爵様はいつもの美女っぷりをどこに置いてきてしまったのか?
「誰が酷いって?うん?」
「な、なんでもありません…」
「わかればいいのよ、わかれば。」
鼻息をふんっと吐いてこちらを見た。
「おはよう!可愛いお姫様!」
「あ、おはようございます!」
「あー、お肌つやつや…髪もきれー…羨ましいわぁ…」
私を撫でくりまわしてくる。
「失礼します、侯爵。その辺でお嬢様をお離しください?」
「あ、いたの?スチュワート。」
「…?知り合い?」
「ええ。」
こくりと頷くアーミオン侯爵様。
どこをどうやったらこの二人が知り合えるのか謎である。
「それより、お嬢様の魔力コントロールを。」
「そうだったわね?チョーカーは?」
「この通り粉々です。」
「あらまぁ。」
アーミオン侯爵様が例のチョーカーを見る。
「この宝石は?」
「チョーカーに元々くっついてました。」
「特注品?」
侯爵様が首を傾げる。
「いえ、リュド様にも言いましたが私は神官長からお借りしたものをそのまま使ってるだけなのですが。」
「貸与品にしては豪華だなって思わなかったの?」
「思いましたが貴族専用と聞いたので…」
こんなもんかなーって思いました。
「本来はこんな豪華な作りじゃないわ。
こんなの首につけてたら賊に狙われるでょう。」
「…言われてみれば…」
「大体魔力暴走にマジックアイテムが耐えられないなか無事なこの宝石!
絶対これただのルビーじゃないから。」
「普通の宝石じゃない…ってじゃあ、何でしょう?」
「正直わからないわ…。鑑定課に回せばわかるとは思うけど…。」
「借りた神官長に聞いた方が早そうですね。」
「教えてくれるかはわからないけどね。」
アーミオン侯爵様は肩を竦めた。
「それより、濾過はまだ終わらないの?」
「それがまた不安定になってまして。」
「寝てただけで何故…?」
「さ、さあ?」
笑ってごまかす。
心細くてなんて言えない。
「まあ、この程度なら…濾過装置を外しても大丈夫でしょう。」
「本当に平気なんでしょうね」
無表情に問い詰めるスチュワート。
「こらっ!侯爵様になんてことを!」
「いえいえいいのよ。大事なお嬢様の事ですもの、そりゃ心配よね?」
くすっと笑いながらアーミオン侯爵様は言う。
「大丈夫ならいいんですよ。しかし万一の時は…」
「私がいるのよ。万一の時は止められるわ。
……私も命が惜しいし…」
「?」
後半は呟くように言ってたけど、命が惜しいってなんだろう?
「とりあえず、外すわね。」
私の腕から管が取り除かれた。
おー、自由だ。
「では早速…」
「待って!スチュワート!!」
スチュワートが言うより早く私は待ったをかける。」
「せめてご飯を食べてから!」
「…」
スチュワート、無言で私を見つめないでください。
結局オートミールを始めとした朝食を全て平らげたあと、スチュワートが自宅から持ってきてくれたドレスに着替えて侯爵様の自室に向かった。
なお、お風呂は諦めた。
「失礼します」
私は部屋に入る。
「どうぞ。」
部屋に入って驚いた。
魔法使い、それも国一番の魔法使いでもある魔法師団長の自室である。
さぞや魔法的何かに溢れていると思っていたのに。
ファンシーーーー!
レースとピンクに溢れた乙女な部屋であった。
魔法使い的な要素ひとつもない。
侯爵様も先程まで着ていた黒のマーメイドドレスではなくてピンクのフリフリドレスに着替えていた。
…妖艶な美女はどこいった。
人間何かしら秘密を抱えて生きているものなんだな…。
しみじみと思いしった。
「さあ、始めるわよ?」
私を部屋に招き入れて椅子….これも猫足の乙女チックな奴…に座らせて彼女は言った。
「魔力コントロールについて話すわ」
言われて私は姿勢を正す。
命がかかっているのだ。緊張くらいする。
「まず、知ってほしいのは魔力は常に体内で生成されているってこと。」
言って侯爵様はコップを取り出す。
これまた妙に細工が凝った一品だ。
そこにスポイトで一滴二滴と水を入れる。
底に僅かに溜まる水。
「これは魔法使いならば絶対の摂理。
24時間365日魔力は生まれ血液を通して体内を循環する。」
ふむふむ。
「平常時、体内で作られる魔力量は少ない。
しかし、精神状態の乱高下によってその魔力量は増減する。
…通常時より減る事もあるけど、大抵は上がる。」
彼女は言いながらスポイトを置き別のコップから水を注ぐ。
一気にコップの中の水が増えて縁ギリギリになる。
「一度増えた魔力は排出しない限り減らないからこの状態のまま平常に戻っても暴走の危険度は変わらない。」
再びスポイトで水を垂らす。
表面張力ギリギリのライン。
「魔力コントロールとは、まず精神状態を平常に保つこと。」
「それが出来れば…」
ストレスが多い生活しているので…。
「ストレスで感情が高ぶる→怒る→魔力量増加。」
「あー…」
確かにストレス溜まって怒りに任せて叫んだ結果チョーカーの色が変わったことがあったな。
「喜怒哀楽。これ全てが魔力を増大させる原因。」
「ええ!?」
怒りだけならまだなんとかなるだろう。
しかし、喜怒哀楽全てがだめ?
人間生きてりゃ喜びもするし悲しくもなるわ!
「魔力コントロールってかなり難しいし、実は私も苦手。」
言って彼女は舌打ちひとつ。
「使えない魔法使い、文句ばかり言う上院議員ども、脳筋騎士団、溜まる一方で減らない仕事。
ストレスが溜まる一方だし、ストレス発散で買いためたファンシーグッズがどんどん増えてくの。」
ふふふっと笑う侯爵様。
あ、ストレスに押しつぶされてる仲間がここにも!
「では、どうしていらっしゃるので?」
「感情を平坦にできないならば、適時魔力を排出させればいい。」
「排出?」
「魔法を使うのよ。」
「魔法を使う…!?」
私は驚く。
私は魔法使いだけど魔法を使うつもりが全くなかったので、それは純粋な驚きだった。
「魔法使いが、やたら魔法を使うのは別に自慢でもなんでもなく、使わないといずれは魔力が溜まって暴走してしまうから。
どんなに魔力コントロールがうまくて感情を押し殺し精神を一定に保っても使わなければいずれは暴走するからね。」
「…リュド様ってそんな魔法使ってましたっけ?」
「あの子は看破の瞳を常時発動させてるし、用もないのに伝達魔法を発動させてくるわ。」
「看破の瞳って加護じゃないんですか?」
「加護だけど、使うには魔力が必要なのよ。
これは全ての加護にいえるけどね。」
「…ってことは加護持ちだけど魔法使いではない殿下は…」
「いつか魔力が発生するのではと思い定期的に魔力検査をしているけどね…」
遠い目で侯爵様が言った。
現状意味のない加護ということか。
「私も出勤には転移魔法を使用するし、街灯を灯す魔力提供には進んで協力しているわ。」
「成る程。」
「それに、魔法を使えないくらい忙しい時は魔石を利用する。」
「魔石?」
「魔力を込めてある石よ。ほら、マジックアイテムには必ずくっついているでしょ?」
「ああ!」
私はぽんと手を打つ。
伝達魔法のピアスにもくっついていた石。
地味なあれだ。
「魔法使いじゃない人でも使えるマジックアイテムには魔石に込められた魔力を利用して魔法を発動させているわけだけど、その魔力はどこから来てるかといえば、私達魔法使いからの切羽詰まった魔力提供ってわけ。」
「そんな事情が…」
「まあ、需要があるからうちの師団ではいい小遣い稼ぎとして定着してるんだけどね。」
「成る程…」
「だから、簡単な魔法を覚えるのが魔力コントロールの真髄ね。」
「覚えられるんですか?」
「魔法は魔力さえあれば呪文を唱えれば必ず発動する。
簡単な魔法は呪文を丸暗記すればオッケーよ。」
「…こんな簡単なことを何故私は待たされたんですかね?」
はっきり言って呪文を書いた書類一枚送ってくれれば話は終わりだ。
「魔法協会ってお役所仕事だからね。
夕方5時ぴったりに窓口がしまるの。
目の前にお客さんがいるのに明日きてくださいって言うの!
書類の不備は絶対に許さないし、その癖書類はマジわかりづらいし!
どんなに切羽詰まった状態でも動かない!
貴女公爵令嬢なんだからこれを機にテコ入れして頂戴!」
「是非!」
必要なら潰す。
私を恐怖に陥れてくれた落とし前は必ずつける。
「では、まず『明かり』『伝達』を覚えましょう。
呪文は…」
「まってください、伝達は必要ないので覚えたくありません。」
「便利よ?」
「受信するたびに心臓に悪くてそれがストレスです。」
「そんなの慣れれば気にならなくなるわよ…?」
「いえ、他の魔法でお願いします。」
「そうね…『魔力量確認』は?」
「自分の魔力量を確認できる。」
「それ必須!」
常に発動させて自分の魔力量を確認したい。
「じゃあ呪文を教えるわね。」
こうして高々明かりを灯すだけで唱えなくてはならいことに驚くのだった。
これ、マジックアイテム使った方が絶対楽チンだ。
…と思ったのは秘密だ。
長い呪文だが二つ丸暗記するのに15分程度で終わった。
そして発動させてみる。
「『明かり』!」
手のひらで光が一瞬迸った!
うわっ!
「ちょっ!?」
私達は目を押さえる。
完全に目潰しだ。
い、イメージと違う….
「魔力全てを込めない。魔力加減で光量が変わるから。」
「は、はい!もう一度…『明かり』!」
かなり眩しい光が手のひらで灯った。
先ほどよりかはましである。
「うん、魔力の込め加減は要練習ね。
…それじゃ魔力量確認してみて。」
「はい。…『魔力量確認』!」
瞬間私の目にバーが映る。
真っ赤なバーだが、先っちょほんの一ミリ程度が白い。
「どう映る?」
「赤いバーが…」
「白い部分は?」
「先っちょ一ミリ?」
「魔力が減らないわね…」
「ええっと?」
つまり、赤い部分が私の中にある魔力で白い部分が使った状態ってことか?
…もしそうなら明かり程度の魔法じゃ百万回打ち込んでも半分も減らないんじゃ?
「元々貴女溜め込める魔力量が多いんじゃないかしら?
街灯を昨日一晩一人で照らして問題ないんでしょ?」
「ええ全く問題ないです。」
「人によって体内で循環させても問題ない魔力量は違うけど貴女ほど多いと普通に無属性魔法を適時発動くらいじゃ暴走は抑えられないかもね。」
「ええっ!?」
それは困る!
つまり私はコップが大きいということか。
コップが大きければ精神が平坦なら簡単には暴走しないだろう。
しかし私は精神乱高下が激しい。
常に魔力暴走の危険度マックスだ。
「魔力量が多い人にはよくある話よ。
そういう場合はさらに上の魔法を使うことになるわね。」
「上?」
「属性魔法よ。貴女は闇だったかしら?」
瞬間、頭の中で英雄様が笑った気がした。
「え、ええ。」
「簡単な闇魔法を教えるわ。
幸い闇魔法は誰かを殺めたり傷つけたりはしないから発動に関しては比較的安全よ。」
「そ、そうですか。」
「ええ、一番簡単な『盲目』『沈黙』『難聴』これを覚えましょう。」
「はい!」
「これも丸暗記でいくわよ。呪文は…」
明かりや魔力量確認の比ではなく長い呪文だった。
「これ誰もいないところで発動するんですか?」
「対象がいないとつまらないわね。リュド連れてくる?」
「あ、お願いします。」
侯爵の酷い一言に迷わず頷く私。
その言葉に侯爵様は転移でその場を離れて僅かな間で戻ってきた。
リュド様ではなくスチュワートを連れて。
え?
「リュドを連れてこようとしたら、スチュワートが志願したからこっちでもいいかなって。」
「ええ!?」
立場的にそれはちょっと。
てか、志願しないで!
「お嬢様の魔法で状態異常。そんなごほう…
もとい事態を侯爵子息たるお方にさせるわけには参りません。」
今なんか不穏な言葉を言わなかった?
「………魔法かけてあげて………」
疲れたように侯爵様が言う。
「まあ、それで問題がないなら…『盲目』」
瞬間、彼の瞳に光が消えた。
「暗い!見えない!!」
無表情だけど、どことなく嬉しそうにスチュワートは言う。
「さらに、『沈黙』」
口をパクパクさせるスチュワート。
「続けて『難聴』」
スチュワートが耳を押さえた。
どうやら発動したようだ。
「因みにこの三つをひとつの魔法で発動させるのがかの有名なブラックアウトね。」
「スチュワートは混乱しないですね。」
「寧ろなんだか楽しそうね….」
侯爵様も困惑気味で言う。
長い付き合いだけど、まだまだ知らない事もあるんだな…。
「肝心の魔力量は?」
「えっと…」
バーの白いところが一センチくらいになった。
でも全体の九割は赤い。
「…一センチくらいに白い部分がなりました。」
「貴女どんだけ魔力量が多いの」
呆れたように彼女は言う。
そして私をジロジロと見る。
「貴女実は加護持ちだったりしない?」
「ま、まさか!」
私は首をブンブン横に降る。
「そう?加護持ちは魔力量が多く減りにくいってことがままあるんだけど…」
「参考までに!」
私は被せ気味に言う。
「そんな加護持ちはどうやって魔力排出するんですか!?」
「加護持ちなら簡単よ?」
言って侯爵様が肩を竦めた。
「どうすればいいのか加護者が教えてくれるからね。」
瞬間、私の頭の中でモンスター狩ろうとうるさい英雄様が、楽しげにはしゃぎだした。




