魔力暴走と新たな規格外ぶり
英雄様が語りかける。
モンスター狩ろう!
モンスター狩ろう!!
モンスター狩ろう!!!
「だぁぁぁぁ!うっさいわぁぁぁ!」
がばっと身を起こした私。
暫し肩で息をする。
あれ?
私は漸く自分が自分の家にいないことを悟った。
やたら眩しいここはどこ?
中々の豪邸ぽいけど…。
無駄に眩しい。至る所で魔法の明かりが灯ってる。
それになんだ、これは?
私の両腕には管が刺さっていた。
右腕の管の中を血液が通っていた。
その血液は大きな箱の中を通り抜け左腕の管を通って体の中に戻っていた。
「お嬢様!ご無事で!?」
すぐ横から声をかけられ私は振り向く。
相変わらず無表情、なのに声には安堵の色を滲ませてスチュワートがらしくない大声を出していた。
えーっと何があったんだっけ?
まず、スチュワートがナイフで手のひらを刺して…って記憶の初っぱなから飛ばしてるんだけど!?
いや、それの是非は置いておくとしてだな、その後私は彼に洗いざらいぶちまけて、ついでに八つ当たりして…。
あれ?
その後の記憶が…??
「申し訳ありません、お嬢様。お止めする際、加減が出来ず…跡がついてしまいました。」
「跡?」
「はい」
言って彼は私に鏡を手渡す。
すぐに首に目がいった。
「…手形がくっきり…」
私は顔を引きつらせた。
明らかに首を絞められた跡です。
「申し訳ありません、しかしお止めするにはこうする他なく…」
「止める?」
「はい、お嬢様の魔力が暴走したのです。」
「え!?全く記憶にない!」
「…辛い記憶が無くて何よりです。」
言われて私は再度思い出そうと頑張ってみる。
しかし、やはりスチュワートに八つ当たりしたあたりからの記憶がない。
「お嬢様のチョーカーは破損しました。」
言って手渡された物はかつてチョーカーだったもの。
粉々になっているなかルビーと思しき宝石だけが傷ひとつなく燦然と輝いていた。
「私は生きてる…?」
「ええ、確かに生きてますよ。」
よかった!とりあえず今は生きてる!
「スチュワートが止めてくれたのね!?ありがとう!」
私は嬉しくて子供のようなお礼を言ってしまう。
「…」
無表情で黙りこくってしまった。
あっと、そうか、ちゃんとお礼を言わないと。
私はベットから起き上がれない。
管が邪魔だ。
これは一体なんなのだろう。
それに…。
「ここはどこなの?」
「アーミオン侯爵家です。」
「なるほどっておい!」
まじか!?でもなんで!?
「明日…いえ、もう今日ですね、午前中には魔力コントロールを習うとおっしゃっていたので…」
「助けてくれると踏んだわけね。」
「はい。」
「アーミオン侯爵は?」
お礼を言わなくては…。
「いえ、侯爵は不在でして。」
「え?じゃあ…」
「暴走を止めたのはこの僕。」
言って部屋に入ってきたのは少し寛いだ格好をしたリュド様だった。
「リュド様!」
私は慌てて佇まいを直そうとして失敗する。
だから管が邪魔なんだってば!
「全く。どうして後半日持たせられなかったの?」
「あはは…面目無い。」
「ったく。また近いうちにお宅にご飯食べに行くからね。」
「コックに命じて最高のおもてなしをさせていただきます。恩人様。」
「やめてよ!大体恩人という観点で言えばそれは君の執事。
暴走した瞬間迷わず意識を飛ばしてくれたから最小限のダメージで済んだんだ。」
私はスチュワートを見る。
ああ、もう彼に鞭打ちとか出来ない。
なんなら私が下僕になろう。
「私、スチュワートの言うことなんでも聞く!」
「なんでも?」
私の決意にすぐさま返答があった。
このタイミング…何か望みがあるのか?
「私が叶えられることならなんでも言って!
お金でも爵位でも!」
「私の望みはそんなチャチなものではないのですが…」
「私に出来ることでお願いね…?」
さすがに世界征服とかは無理。
「世界中探しても私の望みはお嬢様しか叶えられませんよ?」
「そうなの!?よかった、恩は返せる!」
「二人とも。根本的解決はしてないからね。」
「え?」
「今は応急処置して暴走を食い止めているだけ。」
「応急処置?」
「魔力の排出。」
「…?」
「魔力は血液に溶け込んでいる。魔力の暴走は突き詰めれば魔力の血中濃度が異常に高まった状態を指す。
だから、血液を取り出してこの装置で濾過して再度体に戻すというのをやってるんだ。」
「…濾過されて残った魔力ってどうなるんですか?」
やたら眩しい部屋が私を不安にさせる。
「君のせいで夜なのに眩しいったらありゃしない。」
やっぱり!
確かにこの部屋眩しいですが私のせいだったんですね!?
「最初は残留物である魔力は魔石に込めていたんですが、それでは追いつかず、苦肉の策でこの屋敷中を魔法の明かりで照らし続けているんです。」
おおう…。
「それだけでは足りず王都の街灯も今日は君の魔力で光を灯してる。」
おおう…。
王都にある街灯の数は確か千を超えていた。
その全ての明かりを灯しているだと?
何か悪い冗談を聞いているようだ。
「王都の街灯は毎晩魔法使い十数人分の魔力を集めて灯している国家プロジェクトだ。
それを一人で賄ってまだ有り余るその魔力は最早人間の枠を超えている。」
「私は人間です!」
即突っ込んだ。
全属性プラス未発見属性プラス二種類の加護に加えて非常識レベルの巨大魔力って…
私に何をさせたいんだ、神様は。
それは勿論モンスター狩りっ!
英雄様を頭の中で仕留める。
「でもねぇ。これだけやってギリギリ持ちこたえてるんだよ?
早く母上に帰ってきて貰わないと…。
僕ではこれが限界。王都の街灯使用許可が降りなかったら君死んでたよ。」
ひっ!
「因みに使用許可を取ったのも君の忠犬。」
私は思わずスチュワートを見た。
やだもう、彼に足を向けて寝れない!
「ほんっと重ね重ね…」
「いえ…」
ふいっと視線を外された。
あ、これ怒ってるやつだ。
色々秘密をにぎにぎされているのだ、なんとかしなくては!
「お願いスチュワート!捨てないで!」
「はいっ!?」
横で聞いてたリュド様が変な声をだす。
「お願い!捨てられたら私の未来はお先真っ暗!
私マジで死ぬか亡命かの選択肢しかなくなる!」
私はスチュワートの服の裾を掴む。
主人と従者の関係だけど、秘密を洗いざらいぶちまけた時から実質立場は逆転している。
もうなりふり構っていられない。
対するスチュワートは無表情。
本当何考えているのかわからない。
「もう鞭打ちとかしないし我儘も言わないから!」
「それは困ります!」
『え?』
私とリュド様の声がハモった。
今何言った?
「こほん、お嬢様はお嬢様のままでいいんですよ。」
「…?そ、そう…?」
「そうですとも。」
「捨てない?」
「私が捨てられる事はあっても逆はないでしょう。」
「私も捨てない!」
捨てられない!
「じゃあ……………死ぬまで一緒ですね………」
後半は呟くような独り言のような小さな声だった。
だけど私には聞こえた!
言質とったからな!?
「あの….」
すぐ横でリュド様が声をかけてくる。
「君達の関係には言及しないけど、ヤルなら他所でやってね?
うちは宿屋じゃないから。」
「何を言ってるんです?」
どうしてここで宿屋が出てくる?
やるって何を?
「ところで、アーミオン侯爵様はいつお戻りに?」
「予定では明け方。」
「そんな遅くまでお仕事なんですか….」
「君の父上だって忙しいはずだよ?」
言われて首を捻る。
「確かにセバスの帰りが遅いとは思っておりましたが…」
「あ、そうなの?」
「君、親の仕事ぶりとか気にならないの?」
「ははは…」
自分のことで手一杯です。
「近頃孤児が増えててその関係でね。」
「孤児が…?」
はて、どこかで同じような事を聞いたような。
……あ、あの守銭奴神官長が言ってた!
「そう。僕やザックも時々駆り出されるんだ。
実に迷惑。」
「なんでまた…」
「ああ、これ以上は機密で話せない。」
「ふーん。」
まあ、どうでもいいや。
「まあ、そんな話はともかく。
そのままおとなしく寝ていなさい。
魔力が再び暴走したら次は止められないよ。」
「は、はい!」
私は力一杯返事をしたのだった。




