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謁見2

「はい!」

笑顔で答えたのは空気を読めないアリスだった。

発言の許可も得ず陛下と殿下との会話に割って入るとは!

不敬のオンパレードすぎてどこから手をつければいいのかわからない。

「学園のお庭に咲いていたのです。」

「何故それを頭に?」

「勿論綺麗だからです!」

言って彼女はアーミオン侯爵と私を見た。

「あちらの女性が頭につけている黄金のコサージュもリナさんがつけてる真珠のカチューシャも素敵だとは思うんです。

でも真実美しいのは自然。

本物のお花には敵わないと思うんです。

私はお金がないのでドレスも買えないからお二人みたく着飾るこないけれど、真実美しいものが一つあればいいと思い花飾りを髪につけたんです!

お金はかけなくても美しいのものはあるって王様にも知って貰いたいんです!」

〈フォロー!!!〉

〈無理!!!〉

メッセージが飛び交う。

タブーを犯しただけに飽き足らず、アーミオン侯爵を侮辱し、さらには陛下に物を教えると上から目線!

この場で処刑されても文句は言えない。

いや、議会制度が確立された我が国ではいかに不敬といえども王の一言で処刑はないけれども。

「ランバルト、この娘の言ってることをどう思う?」

「素晴らしいと思います!宝石の類にしか美を認めない醜悪な心を持つ貴族令嬢もいるのに、彼女は素朴なものの良さを感じる優れた感性の持ち主です!」

「では、ランバルト、これがタブーと知っているのか?」

きた!

私はびくっとする。

アリスはえ?タブー??って顔をしている。

〈もしかしてアリスは知らなかったの!?〉

〈指摘する前に殿下が絶賛したから言うタイミングを逃した!〉

〈全て殿下が悪い!〉

私は殿下に責任を押し付ける事にした。

「勿論知っております。しかし、タブーをタブーのままにしてはならないと思いました。

事実タブーを犯したからこそ自然が生み出した真の美を陛下にお見せできたと思っております!」

堂々と悪びれもなく殿下は言い放った。

真の美、真の美言ってるけど、彼女の頭に刺さっているのは雑草とひとくくりにしても問題ない取るに足らない小花だ。

まあ、高価な薔薇や百合ならいいかと言えば答えはノーだが。

「ランバルト、何故生花がタブーかわかるか?」

「勿論わかっております。

生花は死んだ生き物と同列に扱われ縁起が悪いからです。」

そう、生花は生きた花と書くが実際は茎を切られた時点で死んでいる。

生きているように見えるのは目の錯覚でしかない。

例え花瓶にいけようとも死体が美しい姿のまま長持ちするだけなのだ。

また、花を切るは王家を切るとも取られ反逆を意味する。

これをタブーと言わずになんと言うのか。

知らなかったでは済ませられないものがある。

「しかし、所詮はただの花です。

犬や猫、人間の死体を持ち込んだ訳ではありません。

なのに、死体があるだの縁起が悪いだのは言い過ぎだと常々思っておりました!

そして、彼女は私の心を読んだかのように今日、可憐な小花を髪に飾ってきたのです。」

その言葉を聞いて陛下は天を仰いだ。

そして妃殿下と顔を見合わせる。

呆れかえっているのだ。

しかし、殿下は言うべきことは言ったと満足げだ。

「…ミハルバー公爵令嬢。」

「は」

名前を呼ばれて私は返事をする。

「………苦労をかける」

「いえ…」

とんでもありませんとは社交辞令でも言いたくなかった。

「陛下発言の許可を」

「許す。」

殿下が発言の許可をとった。

「陛下、先程述べたのはアリスリーザ嬢の良いところのほんの一部です。

ここでは語り尽くせぬほど彼女は愛らしく、優しさと慈愛に満ちた素晴らしい女性なのです。

私は彼女と生涯を共に生きていきたいとかんがえております。」

議員がざわめいた。

しかし、ほんの一瞬でありすぐに静まる。

「お前には国が決めた婚約者がいるだろう。」

「お言葉ですが、陛下。この女はアリスリーザ嬢とは違い醜悪な心の持ち主です。」

「醜悪なとは?」

「学園で彼女の衣服を切り裂いたことがございました。

礼儀作法に疎い彼女を事あるごとに馬鹿にしておりました。

学力を向上させるべく努力する彼女を嘲笑っておりました。

極め付けは先日アリスリーザ嬢を学園の裏にある池に突き落とし殺害を目論みました!

私は人を平気で殺めようとする女とは結婚などしたくはありません。

どうぞ、破棄の許可とアリスリーザ嬢との婚約を結ぶ採決を頂きたく存じます。」

この場にいる全ての人間に聞こえる大声で私を糾弾しアリスとの婚約を願い出たランバルト殿下。

殿下とアリスは手を取り合って陛下を見つめる。

「ミハルバー公爵令嬢」

「は」

「其方の最大の過ちがわかるか?」

優しく陛下はおっしゃるが私の最大の過ちの為実際はかなりのお怒りのご様子。

「は、私の最大の過ち。それは……」

アリスの殺害を目論んだ事ではない。

「それはアリスリーザ嬢の最期を看取れなかった事でございます。」

「なんだと!此の期に及んで…」

「黙れランバルト!」

殿下の怒りの言葉を陛下が遮る。

しかし、殿下は止まらない。

「陛下お聞きになられたでしょう!

人一人殺めようとしただけで罪は重いというのに、更にはそれに対して反省もしていない!

このような悪鬼にも劣る女との婚姻など王家として許す訳にはいきません!

どうかご判断をお願いします!!」

殿下は力強く訴えた。

それに対して陛下は妃殿下を見る。

「のう、妃よ。」

「なんでしょうか、陛下」

「ちと聞くが、もしわしが其方という者がおりながら半分平民という卑しい身分の者と関係を持ったらどうする?」

「そうですわね…」

しばし、妃殿下は考える。

彼女も陛下と同い年なのだが、とても愛らしい女性であり陛下より若く見える。

「まずはちょん切ります」

『ひっ!?』

議員達が呻いて前かがみになった。

ごめんなさい妃殿下、私はそこまで思った事なかったです。

「……で、その後その女は人づてに頼んで適切に処理します。」

「だ、そうだ、ランバルト。お前ちょん切られなかっただけミハルバー公爵令嬢は優しいと言えるぞ。

よかったじゃないか、浮気しても男を責めず女だけを悪者にしてくれる素晴らしい女性が婚約者で。」

「妃殿下!場をわきまえてください!

今は冗談を言っていい場面ではありません。」

「ほう、妃よ、今のは冗談か?」

「いいえ、本気です。と、いうかちょん切る以外はやりましたよ。

…ほら、貴方この間もメイドの1人に手をつけたでしょう?」

「あー、最近見ないのは…」

「処分済みです」

ふふふと可愛らしく笑う妃殿下。

処分ってクビにしたって意味…ではないのだろうな…

私は顔も名前も知らないメイドに合掌する。

「わかったか、ランバルト。公爵令嬢の行いは正しい。

王妃教育の賜物だ。」

「正しい!?そんな人を殺す行為が正しいはずが…」

「お前には王家の血が流れている。

みだりに種を蒔かれては困るのだ。

ミハルバー公爵令嬢は不要な苗床の処分をしようとしたに過ぎぬ。」

「そんな!しかし私はこの女と結婚をする気はありません!

結婚は愛している唯一の女性としたいのです!」

「王様お願いです!どうか私達の愛を認めてください!」

「戯け!」

陛下の一括が降りた。

まさに雷である。

「このような無作法な、しかも半分は確実に平民の血とわかっている小娘が国母になどなれるか!

現実的に考えよ!」

謁見の間が静まりかえる。

「ひ、酷い…!」

瞳を潤ませ陛下を睨みつけるアリス。

ここまで言われてまだ自分に非はないと思えるその心は凄い。

ってか、このまま飲まれてはダメだ!

このままじゃ、私の婚約は揺るがないねで終わってしまう!

私は意を決した。

「陛下、発言の許可を」

「おう、可愛い娘。構わぬぞ?」

私は陛下を見る。

「この度はアリスリーザ嬢の処理に失敗したせいで陛下のお手を煩わせて申し訳ありません。」

「うむ、構わぬ。時間ならこの後にでもたっぷりあるのだからな。」

つまりこの後殺せよってことだ。

次は失敗など許されない。

陛下の言葉の意味に気づき顔色が悪くなる殿下。

「しかしながら陛下。殿下はどうやら心からアリスリーザ嬢を王家に入れる事を望んでいるご様子。

私は一考の価値ありと判断致します。」

「それは何故?」

「殿下はおそらくこれが初恋なのです。

ですからのぼせ上がっているのです。

これこそ運命の出会い、運命の恋だと。」

「そのようだな。」

「私は他の女性を想う殿方との結婚など望んではおりません。」

「なんと!?」

陛下が初めて慌てた。

まさかの私からの破棄願い。

陛下は私が殿下にベタ惚れなのをよく知っているのだ。

だからこそ驚きもひとしおだろう。

「殿下がそこまで想うのであれば、それは王家の血が彼女を求めているのではないでしょうか。」

「王家の血があのような野蛮な小娘を?」

「はい、血が求めているのであれば一度は考えてみるべきです。」

陛下はちらりと彼女を見た。

「勿論、彼女は野蛮で下賤な身の上です。

おそらくそれに隠れて彼女の本質が見えず陛下には王家の血の求めがわからないのではないでしょうか?」

王家は基本的に国内の貴族を娶る。

しかし、稀に異国の血筋を迎え入れる。

その時、王家は『血が求めた』という表現を使う。

国内の貴族ばかりでは血…それも上位貴族ばかりでは血が濃くなりすぎる。

それを防ぐ為に異国の血を入れ適度に薄めるのだ。

今回は異国の姫ではなく平民なだけですよと言ってみただけである。

「ではどうすればいい?」

「彼女にも教育を与えればいいと想います。」

「この小娘にも王妃教育を施せと?」

「はい、その教育で彼女の野蛮さを押し隠した時、改めて彼女を見れば殿下がなぜアリスリーザのを求めたのか、王家の血が求めたのかがわかるかと存じます。」

「…王妃教育をこの小娘に受けさせるのは構わない。

しかし、黙ってこの女を処分してしまった方がミハルバー公爵令嬢にとっては都合がよかったのでは?」

「確かに無理矢理引き剥がし適切な処分をするのも一つの手でしょう。

しかし、得てして思い出は美化されるものです。

そうなれば私は一生平民ごときに勝てぬということ。

私はそのような事には耐えられません。

ならば生きているうちに可能な限り令嬢として、一人の女として勝負して愛しいお方を手に入れたいと思うのです。」

「素晴らしい!なんと潔い心がけ!」

陛下は手放しで褒め称える。

「では、期限を設けよう。」

「…期限ですか?」

「うむ、来月王城で定例の舞踏会が開かれる。

王妃教育の成果をそこで見て、本当に王家の血がアリスリーザ嬢を求めているか確認しよう。」

「それいかんによっては破棄も念頭に置かれるということですか?」

「うむ。真に血が求めているのであれば、ミハルバー嬢には悪いが破棄とさせてもらおう。

しかし、安心せよ。万一破棄となった暁には我が王家が責任をもって其方の嫁ぎ先を見繕ってみせると余の名において約束する。」

「ありがたき幸せ!」

私は一礼した。

〈やった!褒めて!!〉

私はリュド様にメッセージを送る。

〈すごい、逆転した!〉

〈もっと褒めて!〉

〈正直、アリスは殺されると思った。

僕が匿おうって算段もつけてた。〉

〈悪いけど彼女に死んでもらっちゃ困るのよ。〉

そう、彼女が死ねば王妃が一歩近づく。

今回はなんとか彼女の命を一月伸ばし王妃教育をとりあえず一ヶ月受けさせる確約をとった。

結果いかんによって婚約破棄もあり得る。

私は一発逆転で手に入れたかったもののほぼ全てを手に入れたのだった…!

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