遂に言った!
「ご協力感謝します。」
私は微笑んだ。
「アリスがいける伯爵家に当てはあるのか?」
「いえ、しかしスチュワートに探させてます。」
「執事が?大丈夫なの?」
「私の我儘に応えて10年のベテラン執事ですよ?
お二方の執事より優秀と自負しております。」
私は胸を張る。
そんな私の様子に二人は顔を見合わせた。
「なら、そちらは任せよう。」
「次に王妃教育だね。」
「そちらは王城に行けばいい教育係がいます。」
「アリスを一流の王妃に出来るくらい優秀なの?」
「仮にも王家に仕えている教育係ですよ?
私を見ればいかに優秀かわかるでしょう?」
「お前を見てるから不安なんだよ。」
「ザック様それはどういう意味で?」
私は胡乱な目つきでザック様を見る。
こう見えて王妃教育での成績は良い方なのだ。
教育係曰く『我儘さえ言わなければ完璧』との事。
全く失礼な評価だ。
今の教育係に行きつくまで10人程クビにしただけで我儘とか頭おかしいと思う。
「まあ、それはともかく、教育係が優秀でも卒業まで後二年。
婚約期間は最低でも一年は欲しいぞ。」
「つまり、逆算して考えると一年以内に結果を出して婚約をもぎ取らないとって事ですわね。」
「時間がないな。」
丸二年ないのは痛い。
「卒業後すぐに拘らなくてもいいのでは?」
「王太子のご成婚が遅れるなどあり得ないです。」
「何か問題があったのかと諸国に勘ぐられる。」
実際問題があったわけでその問題を突っついてくるのが目に見える。
我が国の利益を掻っ攫うためなら諸国の外交官たちはなんでもやるのだ。
王妃がアキレス腱の国などいいカモだろう。
「ならば早急に王妃教育に着手…可能なら寮から出て王城に住み込みでやるべきだな。」
「ザック!お前いい事いう!」
「まさしくですわ!」
私とリュド様がザック様を手放しで褒める。
泊まり込みでとは考えてなかったが時間がないのだ、それくらいはやらないと。
「でも名目がないね。」
「確かに…現状婚約者でもなんでもない彼女が王妃教育を受ける理由すらないのにさらには泊まり込み…」
「醜聞を招くだけだな。」
『…』
私達は黙りこくる。
まずい、なんとかして王妃教育を受けさせる土台を作らねば。
「……そこは私が考えます。」
私は天井を仰いでそう言葉を吐き出した。
私が悪役をやればなんとでもなろう。
しかし、なんで他人の結婚にこんなに尽力せねばならぬのか。
それは長い目でみて自分の為でもあるからだ。
そうとわかっていても虚しいものが胸に込み上げてくる。
あー!
大衆小説みたく愛し合うだけで結婚出来ればいいのに!!
面倒くさい!!!
不意に鐘がなった。
ランチタイム終了の鐘の音だ。
「しまった、食事をし損ねたな。」
ザック様が言って思い出した。
個室に置きっ放しでしたよ、パスタ。
一口も食べてない!
ぐきゅー
そう気づくとお腹が減るもので私のお腹が鳴った。
「あははは!」
ザック様が豪快に笑い私は羞恥のあまり赤くなって俯く。
「ははは!いや悪い!笑ってすまない!」
そう謝っているが目元には薄っすら涙が浮かんでいる。
泣くほど面白かったか、この野郎!
思わずきっと睨みつける。
しかし、まだ腹を抱えて笑っている為まったく効いてない。
まるで子供のような屈託のない笑顔だ。
普段仏頂面なのでこうしている方が魅力的だと思った。
普段の大雑把な性格とは裏腹に銀髪をオールバックにきちんと整えられた髪が窓から入ってきた光に反射して煌めく。
あまりに楽しげに笑うので私は毒気を抜かれる。
「はあ…もうこの人は放っておきましょう。」
「そうだね。」
「ちょっと待てって!ほら!!これやるから機嫌直せって!」
言われて渡されたのはビスケット。
え!?ポケットにビスケット常備!?
思わず彼をみてしまう。
「授業の合間に食べるのに重宝するんだよ。」
「ザックは燃費悪いからね。」
「はあ…甘党なんですの?」
「まあ嫌いじゃないな。」
「いやいや、例のマンゴープリン。
それだけ食べにカフェテリアに足繁く通ってたの知ってるからね?」
「なっ!?貴様何を…!?」
ザック様が顔色を赤く染めてリュド様に食ってかかる。
「まあまあ。ザック様ありがとうございます。
それより、授業が始まりますし、急ぎましょう。」
「確か次は共通科目だったな。」
「課題がまだ終わってないよ。」
「課題?なんの話ですの?」
そんなたわいのない話をしながら廊下を曲がる。
「ミハルバーさまぁぁぁぁ!」
「ひっ!?」
真っ正面から全速力で走ってくる女子生徒…っていうかルナ嬢。
フリルたっぷりの重たいドレスなんのそので走ってくる様は恐怖の対象でしかない。
一瞬逃げる事を視野に入れるがどうせクラスが同じだし、あのスピードでは逃げ切れるとは思えない。
そう逡巡している間に目の前に彼女はやってくる。
「ミハルバー様!大変です!!あの男爵令嬢と殿下が西棟と東棟を繋ぐ渡り廊下でいちゃついてます!」
『!?』
思わず私達三人は顔を見合わせた。
カフェテリアの個室に置いてきたのにどうしてそうなった!?
いちゃつくのはいいが、人目を憚れ!
「と、とりあえず向かいましょう!」
言って走る…いや、私の場合は競歩だ。
必然彼らと距離があく。
先に行くルナ嬢とリュド様に対して足を止めるザック様。
「お前遅い!」
イラついたようにザック様が怒鳴る。
「私はドレス!無理!」
「彼女は走ったぞ!」
「あれは特殊です!一緒にしないでください!」
私はイラつきながら言う。
ドレスであの速さって特殊技術の域だから。
「っち!」
あからさまな舌打ちひとつ。
先ほどの魅力的なお顔はどこにいってしまったのでしょうか?
「お先に行ってください。私は後からまいります。」
私は彼をシッシと手で追い払う。
しかしザック様は先に行くどころかこちらに戻ってきた。
目の前に立った彼が不意にしゃがむ。
「失礼。」
「は?……ええ!?」
私は思わず声をあげた。
よ、よ、横抱き!?
あれだ、正式名称『お姫様抱っこ』!!
淑女の憧れのあれだ!
私も溺れる前は殿下にやってもらいたくて密かにダイエットをしていたのだ!!
「な、何を!?」
「暴れるな、首に掴まれ、走るぞ!」
「へ?…きゃーーー!」
言うが早いかザック様は走りだした!
ちょっとまって!?
なんでこんなに早いの!?
運動着で走った私の全速力より絶対早い!
私は彼に言われるまでもなく首に手を回しぎゅっと抱きつく!
「お、お前!?」
「何よ!?」
何!?何かあるなら早く言って!!
私の必死の声に彼は口を噤んだかと思ったがすぐに目を大きく広がる。
「お、おい!お前のチョーカー青く点滅…」
「いやぁぁあ!!!」
私の絶叫をよそに彼は階段を駆け上がり三階へ到達。
階段あがってすぐの所にある窓に大勢の人間が集まっていた。
その後方部に先に行ったリュド様とルナ嬢がいた。
人混みがすごくて何も見えない!
「あ、ミハルバーさまぁ!」
彼女は私の到着ににぱっと笑う。
その笑顔を横目に私はザック様におろして貰う。
ザック様の顔色が赤い。
やはりあの速さ、かなり無理していたのか。
そしてその声に私達に気づいたリュド様が振り返り…
「おい?顔色が悪いが大丈夫か?」
「……羞恥と恐怖の狭間の顔です。」
「は?」
リュド様が間抜けな声をあげる。
「あーん!ミハルバーさまぁ!小虫がうざくてよく見えないんですぅ!
なんとかしてくださーーーい!」
そんなリュド様を押しのけてルナ嬢が言う。
ルナ嬢、今押しのけた人、侯爵子息ってわかってる?
いや、それはともかく、確かにうざい。
「ったく…!」
内心舌打ちをかます。
この小判鮫の願いを聞届けるようで不快だ。
「ちょっと!皆様方!」
私の凛とした声がこだまする。
先程までガヤガヤしていた集団がぴたっと止まった。
まるで時が止まったかのようだ。
「間も無く授業が始まりましてよ?
あれは見世物ではないのです、すぐさま教室にお戻りなさい!」
私の高圧的な物言いに生徒達がバツの悪そうな顔をして一人二人と去って行く。
そしてついには私達以外誰もいなくなった。
「さっっっすがミハルバー様ですぅ!」
くねくねと揉み手で言ってくるルナ嬢。
「あんたも教室に帰りなさい!」
「ああん、殺生な!」
しかし、彼女を無視してくるりと強制的に方向転換させて背中を押す。
基本彼女は私の言うことを聞くので、それだけで彼女はとぼとぼと教室に戻った。
時々ちらっとこちらを振りむいていたけど。
「…で?」
私は窓に近づく。
この窓からは渡り廊下がよく見える。
確かにその渡り廊下のど真ん中に二人がいた。
「…見えるだけで声は聞こえないわね。
リュド様、なんとかしてください。」
「あのさ、当然のようにこき使うのやめて貰える?」
「あんな小虫ひとつ蹴散らせない男が何いうか。
少しは役に立ってください。」
負けじと言い返す私。
やや不利と悟ったか彼は魔法を使う。
「隠密/拡声」
『まってくれ!』
殿下の声が辺り一帯に響いた。
『まってくれ!逃げないでくれ!』
『だ、だって殿下がへ、変な事を言うから!』
『変な事じゃない!前から…君と出会った時からずっと思っていたことだ!』
『え!?』
『初めて会った時、君は僕に言ってくれた!
愛してもいない人と義務で結婚するのはおかしいと!』
ここでちらっとザック様とリュド様が私を見てくる。
『私…いや、俺はその言葉に救われたのだ!』
ちょろいな。
なんで私の周りはちょろい男しかいないのか。
『俺はいずれ国を継ぐ身だ!国の為心身を磨耗する日々が学園卒業後まっているだろう!』
そこまで酷くはないと思うが?
『そんな俺を癒してくれるのは君しかいない!』
アリスが口元に両手をあてる。
『アリス!俺と結婚してくれ!』
おっしゃあああ!よく言ったぁぁぁ!!
私は両手をぐっと握った。
両隣から憐れむような視線を感じたがきっと気のせいだ。
だって憐れむ要素が何ひとつとしてない。
『あ……でも……私では殿下に相応しく…』
そこで殿下は一歩踏み込みアリスの手を引き自身の腕の中に閉じ込めた!
『!?』
アリスの動揺がここまで伝わってくるかのよう。
『相応しくないなどというな!この俺がお前がいいと言ってるのだ!
文句を言う奴はこの俺が黙らせてみせる!
だからお前はただ頷くだけでいい!』
おー!
俺様なところ、アリスにはポイント高いんじゃない?
予想通り、アリスは暫し逡巡した後。
『殿下…!わ、私も、殿下に相応しい淑女になれるよう努力します…!』
そう言ってアリスは殿下の背中に手を回したのだった…!




