協力しましょう。
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ありがとうございます。
馬車に揺られて学園へ向かう。
神殿からは然程離れていないのですぐ着くだろう。
「お嬢様、学園に着きましたらカフェテリアへ向かわれますか?」
「到着は何時頃になるのかしら?」
「予定では11時30分頃となります。」
「ふむ…その時間ならあの子達とも被らないわね。
そうして頂戴。」
「畏まりました。」
言ってスチュワートはメッセージを起動する。
「個室席の予約完了しました。」
「ご苦労様。」
別にカフェテリアは予約制ではない。
しかし、お盆をもってどこに座るかウロウロするのは好きではないので時刻が読めるならば予約していた。
「ところでお嬢様。」
「なに?」
「そちらのチョーカーなのですが…」
びくっ
一瞬心臓がばぐって言った。
いや、別に魔法使いとバレてもいいんだよ。
その実情さえバレなければさ。
なのになんでこんなびくっとするのかね?
「な、なに?」
「殿下以外の殿方からの贈り物をこれ見よがしにおつけするのは関係悪化が進むだけかと思われます。」
「………」
あ。
そっか、スチュワートは関係者じゃないからこれが何かはわからないと。
これはあくまで貸与品。
自身で魔力コントロールが出来るようになるまでの代用品にすぎないのだが、それがわからないのだ。
私はチョーカーを指でひっかけてまじまじと見る。
改めて見ると凄い贅沢な作りをしている。
純金製であり、さらには細やかな細工が施してある。
ルビー…?も要所要所に配置されまさに貴族への贈り物として判断して間違いないような代物だ。
これ、貴族専用って言ってたけど、下級から中級でもつけこなすの無理じゃないかな?
幸い私は大丈夫だけど返す時に伝えておこう。
「問題ないわ、これは借り物だから。」
「借り物?お嬢様にはこれより上の宝飾品など山のようにお持ちでしょうに…?
やはり本日の服選びにメイドをお使いになられたから…?」
「メイドは全く関係ないから。」
私はこめかみを抑える。
「ついでだから、今後私の服装はメイドに全権を委任するわ。」
「本気ですか?」
無表情ながら疑いの色味を声にのせて問いかけてくる。
「ええ、本気よ。それとこのチョーカー。
これは魔力暴走を抑えるものよ。」
「……………………は?」
「私、闇の魔法使いらしいわよ。」
「はい?意味がわからないのですが?」
「私も言っててわからないわ。でもそうなの。
昨日魔力の再検査を行い闇属性の魔法使いと判定が出たわ。」
「そ、それは旦那様には?」
「今日帰ったら伝えるわ。」
すっかり忘れてたわ。
また面倒なことが増えた。
「と、なりますとお嬢様の王妃戴冠は不動となりますね?」
どこの国に闇の王妃を戴きたい国民がいるのか…
そう、反論しそうになるがぐっと堪える。
「それに、あの小うるさい魔法使いも黙るでしょう。」
「…小うるさい?…ああ、リュドか。でも黙るって?」
「学園内のヒエラルキーが変わるでしょう。」
…あ!
男爵令嬢と王子の事中心に考えていたからそこまで頭が回ってなかった。
私が通う学園は正式には魔法学園という。
魔法師団が経営母体となり魔法使いの育成に力を入れているが学生の大半は魔力無しの普通の子供だ。
これは魔力ある子だけで運営しようとするとどうしても経営が成り立たないという大人の事情と魔法は例え使えなくても理解するだけで卒業後就職先での扱いが格段に良くなるという平民的事情、さらには有力貴族にはマジックアイテムコレクターが多くいるのでマジックアイテムの目利きが出来るようになると人脈作りに有利に働き領地経営、官僚推薦などの旨味があるという貴族的事情がかみ合わさった結果である。
つまり、この学園でのヒエラルキートップは魔法が使える貴族であるがトップの中にも家柄や使える魔法いかんによって内部格差がある。
現在のトップが小うるさい魔法使いことリュドである。
魔法師団長の息子であり天才の異名を持つ侯爵子息だ。
しかし、そこに私が飛び込むのだ。
間違いなく荒れる。
「うわー、面倒!」
私は頭を抱えた。
これが単なる学園内部で完結すればまだいい。
貴族にとって学園は単なる人脈作りの場でしかない。
つまり学園卒業後もそこで築いた関係は続くのだ。
私とリュドのトップ争いは学園を卒業しても続く…?
勘弁してくれ!
「お嬢様、今一瞬チョーカーが青く染まりましたよ?」
「ふふふ…私の精神状態が如実に現れるわね。」
「はあ?」
落ち着け私。
深呼吸だ深呼吸!!
あれだ、そう、あれ!
リュドとは仲違いしない!
それが一番!
彼がトップ!私下っ端!!それこそジャスティス!
私は新人なのだ、魔法使いの先輩は立てるべきだ。
学園卒業後もリュド一番私下っ端な関係は続くが、派閥のトップに立って永遠権力闘争なんてやってられるか!
それだったら早々に服従を誓った方がいい!!
私は面倒なことが嫌いだし、極力他人とは関わりたくないのだ!
平和主義ともいう。
「いい、スチュワート。私は学園で揉め事を起こすつもりはないわ。
従ってリュド様との敵対はあり得ないと宣言します。」
「何故です。あの男爵令嬢の件もありますし…」
「こら!あの子の事を学園近くでみだりに言わない。」
「申し訳ありません。」
「とにかく、貴方もそのつもりで無意味な喧嘩は売らないように。」
「畏まりました。」
言われて私は大きく息を吐いた。
魔法使いになっただけでやはり面倒ごとが増えた。
まだ本番前だというのにどうしてこうも疲れるのか。
と、いうかなんでこの執事は私に喧嘩ふっかけさせようとするのか。
いつからこの人はそんな好戦的になったのか。
………あ。
私は気づいた。
スチュワート……お前もか。
こいつも男爵令嬢に惚れてる一人か。
彼は確か男爵出身の三男坊。
身分的には一番釣り合いが取れてる。
リュド様ザック様ですらしがない男爵令嬢であるアリスの結婚相手としては格上すぎる。
だけど、スチュワートなら身分的壁は存在しない。
確か…彼と彼女の初対面…。
私が彼を折檻している時だった…。
小さな少女が潤んだ瞳でカタカタ震えながらそれでも彼と私の間に立ち彼を守ろうとしたのだ。
その時なんて言ったっけ…?
えーっと…、そうだ!
『謂れ無い暴力には毅然と立ち向かうべきです!私が貴方の味方になります!』だったか。
その一言で落ちたか、スチュワート。
それ以降、話したところなど見た事なかったが?
私の知らないところで親交を深めたか?
彼としては私が王家に嫁ぐのは万々歳。
王子が目下最大のライバルだから私が貰ってくれたら最高だ。
しかし二番手三番手のリュドとザックは違う。
私が貰って消すことができない相手。
そのうちの一人リュド様を図らずも消せる存在として私が出てきた。
権力闘争で貴族社会から弾きだす。
学園で権力争いに私が勝てば卒業後の彼の未来は暗い。
そんな貴族的に終わったところにアリスは嫁がないだろうという目論見があるのだ。
そうなるとライバルはザック様とお兄様。
個人的見解ではあるが、この三人並べたら私ならスチュワートをとる。
筋肉バカも小動物も私は嫌いだ。
それならおもちゃとして価値があるスチュワートをとる。
まあ、あくまで私ならであってアリスがどうかは知らないが。
案外、落ちぶれたリュド様に流れる可能性もある。
まあ、君たちの恋の闘争に私は関与しない。
「欲しいものは自力で手に入れなさい。」
人に頼るな、スチュワート。
もしくはもっと上手く私を誘導してみろスチュワート!
「畏まりました。」
恭しく頭を下げた時、馬車は学園に到着した。
馬車から降りて私は学園に入る。
スチュワートは学園の生徒ではないので入らない。
従って彼は馬車で待つことになる。
一人で行動出来るって素晴らしい!
誰にも関与せずこのまま生きていたい!
しかし、出会う人出会う人皆頭を下げて挨拶をしてくる。
呼び止めて長話をするほど親しい人はいないがいちいち答えなくてはならないのが億劫だ。
中には勝手についてこようとする小判鮫タイプもいる。
こういう人なんていうんだ?取り巻き?
まあ、雑用係として使えるなら使うけど。
「ミハルバー様!お身体の調子はよろしくて!?」
そうキンキン声で話しかけてきたのは同じクラスの小判鮫、じゃない、取り巻き…の、ルナ子爵令嬢だ。
茶色い髪を三つ編みにしたそばかすだらけの眼鏡っ娘だ。
この子もアリスに劣らないほど身の程をわきまえない子である。
違いは私に服従するかしないかしかない。
「ええ。おかげさまで」
足を全く止めることなく適当に相槌を打つ。
「あ、お鞄お持ちします。」
私の返事を待たずに奪い取る勢いで鞄をひったくる。
一年この子はこれをやってるので、私も色々諦めた。
と、いうかこの子口から生まれたかのようにおしゃべりなので1話すと10返ってくるのだ。
何も話さなくても9は喋ってるが。
「ご存知でしたか?ミハルバー様がお休みの間、あの小賢しい男爵令嬢!
サンティア王太子殿下とウォルコット侯爵子息と
アーミオン侯爵子息を侍らせてそれはそれは楽しげでしたのよ!
全く学園の風紀を乱す行為だと思いませんこと!?
殿下も殿下です!何故ミハルバー様のような完璧なご令嬢と婚約をなさっているのに、あのような山猿をお側におかれるのか…理解に苦しみますわ!」
息継ぎどこでしたのか謎である。
しかも凄い早口で何言ってるかわからない。
特に苗字部分。流れるように言い切ったのは凄い。
彼女の言い分でわかったことは彼女が風紀の名の下に私に男爵令嬢を制裁して欲しいということだけ。
彼女は小判鮫であり、虎の威を借る狐でもある。
あー、帰りたくなってきた。
まだ学園の校舎に入って五分経ってないのに。
「どうしますか!?ミハルバー様!」
「ほっときなさい。」
「そうですね、やっちゃいま…え?」
パチクリと目を瞬かせるルナ嬢。
「え?え?」
「訳あってあの子は私の友人になりました。
下手な手出しは無用です。」
「え?友人?…あ!わかりましたよ!ミハルバー様!」
ニヤニヤした顔を彼女は近づけてくる。
「友人として近づいて油断したところを一思いにってやつですね!
そして、男爵令嬢に近づくことにより殿下にも近づけるという一石二鳥な作戦ですね!?」
私のたった一言で壮大な暗殺計画が立案された。
いくら私でもそんなことしないと言いたいがほんの四日前やったばかりだったので何も言わないでおく。
そんな物騒な話をしているとカフェテリアに到着した。
「今日のメニューはっと…。」
「本日の日替わりメニューが菜の花のパスタで、週替わりメニューがサーモンのムニエル、私のオススメがアラカルトのボアのステーキです。
それ以外にも季節のシチューセット、サンドイッチセット…こちら具材は燻したてのベーコンを本日は使用しているようです。
それと、スイーツですが、本日のスイーツはブルーベリータルトだそうです。
あ、ミハルバー様が以前美味しいと言っていた季節限定マンゴープリン。
あちら尽力の結果常設メニューに加わりました!」
だからどこで息継ぎしてるのか。
そして貴女はカフェの店員か。
そう突っ込もうと隣の彼女を見た瞬間。
「お前、皆が使うカフェでも権力を振りかざしているのか?」
周りの空気を凍らせる冷たい声が響いた。
うわぁ。
口に出さなかった私を誰か褒めてくれ。
ランバルト殿下とアリスを先頭に少し遅れた立ち位置で噂のザック様とリュド様が学園の制服を華麗に身に纏ってご登場である。
「これはこれはランバルト殿下にリュド様、ザック様、アリス様。
ご機嫌麗しく」
私は淑女の礼をする。
隣でついでと言わんばかりにルナ嬢もやっている。
「おはようございます!リナさん!!」
笑顔で挨拶を返すアリス。
「…リナさん?…公爵令嬢をさんづけ?」
ルナ嬢が目を細めて臨戦態勢に移行しようとするが、足をがっつり踏んで黙らせる。
「それで、カフェで権力云々というのは…?」
「白々しい。マンゴープリンを常設メニューにねじ込んだとたったいま自慢していたではないか!
己の好みをメニューに加えるなど言語道断な行いだぞ!」
自慢してない。
あと、そんなことで権力なんて振るわない。
振るった結果がマンゴープリンって恥ずかしいから。
「お言葉ですが殿下。マンゴープリンは季節限定として登場した際、女生徒の人気がとても高かったと聞き及んでおります。
誰もが嫌がる不人気メニューをごり押ししたわけでもなく、一生徒の意見としてカフェテリア側に直訴しただけです。
その言葉をきいて常設化を検討し、加えてくださったのはカフェテリア側のご判断でして、私の感知することではございません。」
「そんなこと!公爵令嬢であるお前が言えば無理が通るに決まっておるだろう!」
「料理は材料が揃わないとできませんから、無理なら無理とカフェテリア側は言ってきます。
ところで、アリス様もマンゴープリンはお好きですよね?」
「はい!とっても美味しかったので常設化は嬉しいです!
リナさん、ありがとうございました!!」
「いえいえ、アリス様のご意向に沿えたようで何よりですわ。」
ニヤリと私は笑う。
私は知ってる。
確か殿下は前にカレーフェアで出たマトンカレーをいたく気に入りカフェテリア側に常設化を依頼したことを。
それをカフェテリア側がカレーは匂いが篭ってしまうので年に一度のフェア限定と回答され意気消沈していたことを。
全く、自分ができなかったことを成し遂げたからって八つ当たりはやめて欲しい。
それよりも。
私は殿下の後ろ手にいるリュド様を見る。
リュド様は私の首をガン見していた。
さすがというか当然というか気づいたようだ。
「リュド様、ご機嫌いかが?」
「は!お前、その首….!」
「昨日から魔法使いになりましたの。
しかし、見ての通りまだ魔力コントロールが出来ない新人でして。
今後、ご指導ご鞭撻のほどお願い致しますね。」
深々と一礼する。
「え?魔法使い??」
アリス様の声が横で聞こえる。
「はい、後天的に魔力に目覚めまして。
まだ何もできませんが魔法使いの端くれになりましたの。」
「うわー!凄いです!私の知り合いで魔法使いはリュドの次で二人目です!」
「あれ?殿下は?確か加護持ちでしたよね?」
ちらっと殿下を見る。
「お前覚えていたのか?」
少し驚いたように彼は言う。
覚えていたのかって言うことはかつて私は彼から加護持ちであることを告白されていたということか。
しかし、全く覚えてない。
しかし、すっかり忘れてました、これは人づてに聞きましたとは言えない。
当然と言ったふうな顔で頷いておく。
「そうか…」
彼は静かに呟いた。
「殿下は加護はあるけど魔法使いではないんだ。」
「へえ?そんなことあるの?」
「ない。世界初だ。」
「世界初!」
私はキラキラした目をランバルト殿下に向ける。
「な、なんだその目は!?」
一歩体を引く殿下。
すみません、世界初と聞いて勝手に親近感が湧きました。
「なんだ、言いたいことがあるなら言えばいいさ。」
「いえ、特にはありません。」
「ふん、貴様がか?そんなわけあるか!
言え!この俺が許す!」
えー?許されても、本当に何もないんだけど?
親近感は湧いたけど、そんなこと言えないし…それに、考えてみればさ、
「…無難で羨ましい…」
「は?」
「いえ、なんでもないです。」
「いや、今無難と言ったろ?どういう意味だ!?」
やばい!なんか地雷踏んだ!
これは加護持ちに優越感持ってた口か!
それでいて魔法が使えないことに劣等感を感じていたな!?
そこを無難なんて言ったらそりゃ切れる。
でも、許すって言ったじゃん!
私に比べりゃ無難じゃねーか!
「えーっと、私のような後天的魔法使いは五感が鋭くなるんです。
私の場合は耳がとてもよくなりまして…
そのせいで煩い話し声がダメになりまして。
日常生活に影響がないだけ無難かなって思いまして。
申し訳ありませんでした、不敬でした。
平にご容赦を。」
私は臣下の礼をとる。
「………良い、最初に許すと言った。」
「寛大な御処置感謝します。」
「ねーねー、それより、ご飯食べよー!」
空気読めないアリス様の鶴の一声で私達は動き出す。
「ルナ嬢、鞄ありがとう。」
言ってひったくる。
そして、適当に本日のメニューを選んでお盆にのせてもらい予約済みの個室席へといく。
当たり前のようについてくるアリス様。
いや、ここ確かに数人利用できるけど普通ついてくるか?
あそこでお話しは終わったと思ったのに…。
そして当然のように私の隣に座る。
「あ、日替わり頼んだの?いーなあー。
私はサンドイッチだよ。」
「好きなものを頼めばいいのに。」
「値段が高くてとてもじゃないけど頼めないです。」
「………そこまで困窮してるの?お宅…」
「あ、お世話になってる家の財力的には問題ないとおもうんです。
ただ、元平民には目に毒な金額設定でどうしてもサンドイッチばかりになるんです…」
「お前と違って慎ましやかなんだ、アリスは。」
これまた当然のごとく現れた王子がアリスの前に座る。
慎ましやか…?
勝手に席に着いた人が?
「ここは殿下が男気を見せるべきでは?」
「何度も支払いは気にするな、と言ってるんだがな。」
「殿下のお金は突き詰めれば税金です!
私の贅沢にお金を使うわけには参りません!」
「本当、誰かと違って清廉潔白という言葉がよく似合うな!」
「全く、少しは君のその物欲抑えたら?
アリスと並ぶと醜悪さが際立つよ?」
上から見下ろすようにザック様とリュド様が言う。
そしてやはりというか私の前に座った。
しかし、サンドイッチひとつでよくもまぁそこまでアリスを神格化して私を貶せるものだ。
てか、慎ましやかとか清廉潔白とか言ってる場合じゃない。
貴方方また彼女の価値が下がりましたよ?
気づいてますか?気づいてないんでしょうね。
「あの、殿下ひとつ確認して宜しいですか?」
せっかく個室に全員揃ったのだ、意思確認しておこう。
「なんだ?」
「殿下とアリス様はご成婚を目指すのですよね?」
ぶはっ!
殿下が口に含んだ何かを吐き出した。
こら、王族たるものそんな精神状態でどうする?
「な、な、な、な、な、何お…」
げふんげふんと咳き込みながら顔を真っ赤にしてランバルト殿下は言う。
人間離れした美しさを持つ彼が初めて同じ人間に見えた。
「ごせーこん?」
対するアリス様はこてんと首を可愛らしく傾げる。
まさか、ご成婚の意味がわからないだと…!?
「…結婚ということです。」
「えええええええええええ!!!!」
ガタガタン!
これまた殿下に劣るとも勝る程に驚きなんと椅子からひっくり返った!
お前ら驚きすぎだ。
ちらりと侯爵二人組をみればやはり仰け反っている。
「大丈夫ですか?」
私はアリス様を助け起こす。
「は、はい…驚きまして…」
そう言う彼女の顔は殿下といい勝負で真っ赤だった。
「そう、で?どうなんですか?
私今まで部外者だったのでお二人の仲がどこまで進展してるのかよくわかってないんですよね。」
アイスティを飲みながら二人をちらりと観察する。
二人は向かい合ってチラチラとお互いの出方を伺っている。
「なるほど、お二人の仲の進展具合はよくわかりました。」
こいつら両片想いって奴か。
まずはこいつらくっつけるところからスタートかよ!
ったく、余計な仕事がまたひとつ増えた!
「あ」
「な、なんだ!?」
「ど、どうしたの!?」
私のあからさまな声に面白いように反応する殿下とアリス様。
「私、用事を思い出しました。」
「は!?用事!?」
「え?ええ!?」
「リュド様。」
「………何?」
対するリュド様は静かなものだ。
一瞬驚いたものの既に平静を装っている。
「魔法使い関係の用事ですの。ですが私不慣れでして。
色々教えて欲しいのですが。」
「………了解。ザック。」
言って彼は立ち上がる。
「な、なんだ??」
なんで俺にふる?とでもいいたげなザック様。
「荷物が多いんだ、手伝ってくれ。」
「いや、でも…」
「手伝ってくださいな。」
「………わかった」
何かを感じ取ったかザック様も立ち上がる。
「それでは、お二方申し訳ありませんが席を外させて貰います。」
そう言ってふと思いつき殿下の耳朶に唇を寄せる。
「ここで決めなきゃ男じゃねぇ。」
ビシっ
殿下は石化したが、まあ、ヘタレではないと思うので大丈夫と信じよう。
「では失礼します」
そう言って二人を連れて出ていった。
「リュド様」
「何?」
「人払いが出来るところご存知で?」
「そうだね、適当な空き教室に防音と遮蔽の魔法をかければいいんじゃないかな。」
「それは素晴らしい。」
「おい、なんの話だ?」
脳筋ザックはまだ頭がついてきていないようだ。
丁度空き教室があったのでそこにはいる。
そして、リュド様が魔法をかけた。
おー!魔法使いが魔法使うところ初めて見た!
キラキラした目でリュド様を見る。
「……何?」
「いや、凄いなって。」
「こんな無属性魔法すぐ使えるようになるよ。」
「無属性?」
「六種の属性魔法いずれにも属さない共通魔法のことだよ。」
「へえー。」
「おい!」
バンと足を踏みならしてザック様が声をあげる。
「一体どういうことだ。」
「どういうこともなにも、あの二人をくっつけるんですよ!」
言って手近にあった椅子に座る。
「くっつけるだと!?」
「っち!」
眼を釣り上げ大声を出すザック様に貴族とは思えない舌打ちをするリュド様。
「そもそもなんであの二人まだくっついてないんですかね?」
私は二人を交互に見やる。
「私という最高の当て馬がいたにも関わらず両片想いって進展遅すぎです!」
「当て馬って自分で言う?」
「文句ある?」
「………ってかさ、僕達って目的同じチームじゃないの?」
リュド様が椅子を引き長い足を組んで座る。
「やはり…」
私はこめかみを抑えた。
こいつら二人の邪魔してたな。
わかっちゃいたよ、だってこの二人にとって殿下とアリスがくっつくイコール失恋だもの。
いくら殿下が大事な学友であり将来の貴重な人脈とはいえ、恋愛ごとは別問題。
意外と貴族は恋に一生懸命なのだ。
「まず、はじめに宣言しますが私は殿下とアリス様のご成婚を目指します。」
「な!?」
ザック様が仁王立ちで腕を組み驚きの声をあげた。
「なんでまた。あれだけ殿下に執着していたじゃない。」
「興味なくなりました。」
「それを信じろと?」
「明らかに自分に向きそうもない殿方を追っても仕方ないじゃないですか。
それより卒業後の事を見越して動いた方が賢いと判断したんですよ。」
「っち!無駄に知恵が回る。」
「今まで私をわかりやすい悪役に仕立てて美味しいポジションゲットしてたんですから、もういいですよね?」
にっこりと私は二人を見る。
苦虫を噛み潰したような顔を見せてくれた。
こいつら私を悪役にして、アリスを慰めたり、アリスの為に戦ったりして彼女の気を引いていて殿下との仲を邪魔していたのだ。
それと同時に王子に顔を覚えて貰い将来の側近候補に躍り出た。
実に見事な策士ぶりだ。
でも、私はもう悪役はしない。
少なくても私にもメリットがないうちは。
「しかし、現状二人の成婚は無理だ。」
ザック様が吐き捨てるように言う。
「そうだね、爵位が低すぎる、王妃としての教育が後二年で行き届くとは思えない。」
「加えてあの貧乏性は致命的。」
今日初めて知ったよ、あの貧乏性。
未来の王妃が銀貨一枚二枚ケチってどうする。
「そんな彼女が王妃になれるか?
なあ、それより、俺に協力しないか?
王妃には劣るが俺だって彼女を幸せに出来る男だぞ?」
「こら!抜け駆け!僕の方が彼女を幸せにできますよ?
魔法使いとしても貴族としても僕は将来有望です。」
「俺だって既に騎士団に所属し、卒業後は将軍として配属される予定だ。
ゆくゆくは団長として万の騎士の頂点に立つ。」
「あー、二人とも落ち着いて。」
パンパンと手を打つ。
「現状あの二人は両片想いなのよ?
そこを崩してどちらかに惚れさせて、さらには殿下に恨まれないよう根回しって出来そうもないから。」
………嘘です。間違いなくあのアリスを王妃に仕立るより簡単です。
でも、この二人いずれかとくっつくともれなくあのバカ王子との結婚が待っている。
私は王妃になりたくないんだ!
だから、君達には悪いがあの二人にはくっついてもらう。
「悪いけど、君達はもう芽がない。
諦めて二人を祝福するべし!
そうしないと、貴族として終わるわよ?」
「…っ!」
「わかってるよ!でも現状二人の結婚はあり得ない!」
「この私が手を貸すのよ?不可能さえも可能にしてみせるわ!」
「具体的には?」
「まず、アリスを伯爵家の養子にする。」
『!』
「同時進行で王妃教育をする。」
「…本気…なのか?」
伺うような目でザック様が見てくる。
「勿論本気です!」
私はにこやかに笑ってみせた。
「!」
鼻白むザック様。
「で?どうします?私は本気ですよ?
今ならお二方殿下の側近候補として残れますが、どうします?」
そう、今なら残れる。
しかし、敵対するなら容赦しない。
裏切るようでも容赦しない。
私はやると言ったらやるのだから。
二人は顔を見合わせた。
「わかった、協力する」
「その代わり、もし成婚とならなかった時はなりふり構わず口説かせて貰うよ?」
ザック様とリュド様の答えをきいて私は満足げに頷いた。
あー。よかった。
この二人が敵にまわったら私は亡命を検討してた。
そう、私が心底ほっとした事を二人は知らない。




