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私に似合いすぎて涙が出る

翌朝

「お嬢様、朝でございます。」

スチュワートの声で私は目が覚めた。

一番最初に見るのはスチュワートの顔。

これがもう10年続いている。

気分次第で朝から折檻なんてこともあるのに、この役目が他人に譲られたことはない。

「おはよう…」

「ご気分は?」

「問題ないわ」

昨日と同じ、もうひとつの記憶が存在し、変質した性格もそのままだ。

そして朝から英雄様がモンスター狩りに誘ってくる。

何ひとつ変わっていない事に絶望しかない。

「では朝の準備を」

スチュワートがそう言うと彼の後ろに控えていたメイド3人がさっと動く。

それと同時にスチュワートは部屋から出て行く。

「では、朝のお支度を始めます。」

言って私のネグリジェを脱がす。

「湯浴みの準備は整ってございます」

「そう」

一言頷くとバスルームへとメイドを伴って向かう。

報告通り湯船には泡風呂がはられていた。

軽くシャワーで体を流してから湯船に入る。

それと同時にメイド達が私の体を磨き始める。

3人がかりで体と髪を洗えばあっという間に終わる。

最後にシャワーで泡を流してバスルームから出る。

するとそこには別のメイドがタオルを持って控えており、お風呂からあがった私にタオルをかけてくる。

水滴を拭き取るとガウンを羽織らせ私をドレスルームと連れていく。

そこには二人のメイドが恭しく頭を下げて待っていた。

「本日のお召し物はいかが致しましょう。」

「…」

問われて私は昨日の事を思い出す。

溺れる前の私は着飾ることが大好きだったが今の私は違う。

ドレスの色だの形だの、アクセサリーの種類だのには全くといっていいほど興味がわかない。

それなのに毎回これを聞かれるのはかなりしんどい。

これは教育方針の転換を図るべし。

「貴女達に任せる」

『!』

目に見えて顔色が悪くなるメイド達。

「な、何か粗相でもしましたでしょうか…?」

おずおずとメイドの一人が聞いてくる。

「特に?」

「で、では….」

「別に私の服を選ぶのは初めてじゃないでしょう。

ほら、今日も予定が詰まってるのよ。

早く選んで頂戴。」

にっこりと笑う。

ほら、怖くないよ、大丈夫だよ。

そういう思いで微笑んだのに、彼女達の顔色は青を通り越して白くなってしまった。

「か、畏まりました…。」

言って彼女達は相談し始める。

私は椅子に座りその様子を見守る。

「これは?」

「白はダメよ、昨日例の方と色がお被りになった…」

「では黒は?」

「今日が復帰最初の登校日よ。地味だわ。」

「ならば、普段からご愛用の金色のドレスは?」

「こちらはヘビロテしすぎてインパクトが足りないわ…」

「そういえば、お嬢様がお眠りになっていた時に特注で作って貰っていたドレスが届いた…」

「それにしましょう!」

「こちらに箱が!」

「よし、これをメインにアクセサリーを選ぶわよ!」

「ミントグリーンに合うアクセサリー…。

私のセンスでこれぞというものが…」

「ダイヤよ!ダイヤなら大抵のものに合うわ!」

「ヘアアクセサリーは?」

「プラチナよ、プラチナ!!困った時のプラチナ様よ!」

「靴は?」

「白のパンプスがあるでしょ?」

「どれですか?かなりの数がある…」

「どれでもいいわよ!」

「…お嬢様、どうぞ、本日の衣装が決まりました。」

私はおとなしく彼女達が選んだ服に袖を通す。

次は髪型。

鏡の前でメイド達が髪をいじる。

化粧もメイド達が色味を選んで施していく。

うん、無難だ。

だがここで貶したら二度と選んでくれなくなる。

それに無難でいいのだ。

どうしようもなくセンスが悪いとかでなければそれでいい。

「ありがとう」

一言伝えて私はドレスルームから出る。

「へ?あ、はい!?」

メイド達がびっくりしたような声をあげるが無視して私は部屋から出る。

部屋の外には直立不動のスチュワート。

彼の先導に従って食堂へと向かう。

食堂で朝食を出される。

内容はお粥と果物。

まだまだ本調子じゃないというコックの配慮だ。

でもそろそろ普通に食べても平気な気がする。

今日のお昼は普通に食べよう。

これも美味しいけどやっぱり普通ご飯には敵わないのだ。

「スチュワート。」

「は」

「予定通り神殿に向かいます。準備を」

「…畏まりました」

少し間があったのはまだ納得していないからだろう。

だが、使用人の納得など不要。

こっちは切羽詰まってるんだから。

暫くすれば馬車が用意される。

表向き今日の訪問は体調不良による治癒だ。

それに午後からは学園にもいく。

そこを鑑みて普段使いの馬車に乗る。

白馬四頭引きのプラチナ製の馬車だ。

外見も贅沢だが中身もしっかりとした作りになっていて、揺れ防止の魔法までかかっている。

大きさもそれなりにあるなか、私とスチュワートは乗り込み神殿へと向かう。

「本日の会談ですが、私の同席の許可を」

「なりません。」

「しかし….」

「使用人風情が口を挟むような内容ではない。」

「…畏まりました。それでは、会談終了予定時刻を教えてください」

昨日の失敗を踏まえた質問をしてくる。

しかし、そんなもの私にもわからない。

….適当でいいか。

「一時間から二時間くらい?」

「……畏まりました。」

話は終わり馬車に沈黙がおりる。

かと思いきや。

「本日のお召し物はメイドが選んだと伺いましたが?」

「ええ。」

「よろしかったので?」

「ええ。…それって今話さないといけないこと?」

「いえ、そのような事では…」

「ではその口をつぐみなさい」

言って私は窓の外を見る。

昨夜は暗くて見えなかったが今は明るいのでよく見える。

店が開きはじめ、街が活気づく前段階。

悪くない。

私は口元を笑みの形に歪める。

そうこうしているうちに神殿が見えてきた。

神殿の門は既に開いており、昨日の自動ドアも開け放たれた状態で固定されていた。

大聖堂内部にはたくさんの信徒達が集い神官の説法を聴き祈りを捧げている。

信徒というと神殿が布教している女神信仰を是としているイメージが先行するが、彼らは神殿に入った者全てを信徒とみなす。

私は神など信じていないが、神殿関係者からすれば神殿に一歩足を踏み入れれば私も立派な信徒なのだ。

さすがに口に出してはいないが神殿関係者は別に信徒が神など信じなくてもいいと思っている。

神官自体も信じているのか実に怪しい。

しかしそれでもこの大聖堂では全ての信徒を収容することは出来ないほど信徒が外に溢れていた。

神など信じなくてもよいという不敬ともいえる態度こそ民達を神殿に向かわせる一要因となっているのだから皮肉な話である。

それというのもその態度のおかげで民達は神殿が身近なものと感じているからだった。

垣根が低いからこそ気軽に訪れることができる。

そして、冠婚葬祭、治癒など生活に根付いた活動をしている。

孤児院運営などの慈善事業もしている。

人気が出るのも当然だ。

しかし、それを差し引いても人数が多い。

普段からこんなに神殿って人が集まるの?

大聖堂って百人くらいは収容出来る施設だったはず…。

疑問に思いながらも私は隅で神官の説法を聴く。

「おすわりになりますか?」

「不要よ」

『続きまして、神官長様のお言葉です』

魔法で声音を拡大された神官の宣言に合わせて祭壇に神官長が姿をあらわす。

途端女性の黄色い声が飛び交い場が騒然となる。

平民には目に毒なレベルのイケメンが登場すればそうなるだろう。

そういえば、女性信徒が多い。

………原因はこれか……。

「………阿呆らしい。」

「帰りますか?」

「何言ってるの?出直すなんて面倒したくないわ。」

しかし、説法なんてすぐ終わるのか。

やはり椅子に座ればよかったか。

一瞬後悔するがもう遅い。

私は覚悟を決める。

宗教関係の説法は長いと相場は決まっているのだ。

『…神の導きにより皆様とこうして一日の始まりにお会いできたことを光栄に思います。

どうか皆様に神のご加護がありますように…』

貴族の愛想笑いの見本のような笑顔を作る。

女性達がキャーキャー騒ぐ。

耳が痛い。

『神官長様、ありがとうございました』

「え?もう終わるの?」

思わず声に出てしまう。

こんなに人気があるんだ。

もっと話して女性を神殿に取り込み寄付金をがっつり集めるべきだろう。

なのに、朝の挨拶と愛想笑いだけって…。

それとも普段はもう少し話しているが、先約があるから短く切り上げた?

いや、それなら女性達から非難めいた声が上がるはず。

これが通常運転なのだ。

神官長って緩い職業だな…

私が呆れてみていると後ろからそっと声がかかった。

「失礼します。ミハルバー公爵令嬢様ですね?」

声をかけてきたのは平々凡々な容姿をもつ神官だった。

私は静かに頷く。

「お通しするよう申しつかっております。

どうぞこちらへ。」

「わかったわ、スチュワート、貴方は馬車で待っていなさい。」

「は」

「ではこちらです。」

神官の先導に従い私は神殿の裏手に回り裏口から神殿の奥へと入る。

「こちらです」

言って進む先は地下。

薄暗い地下はどことなく不気味であったが、ここで躊躇すると臆したと思われる。

私は堂々と神官に続いて地下へと降りる。

地下には二つの扉があった。

いずれも鉄扉であり重たげだった。

そのうちの一つに神官が止まる。

「こちらでございます。」

言って彼は扉をあけずに一礼して去っていった。

なんなのだろうか、神殿の地下になんでこんな怪しい部屋があるって大丈夫なのか。

私はドアの前で耳をすます。

特になんの音も聞こえない。

この耳で何も聞こえないなら誰もいないということか。

私はドアにてをかけ押し開いた。

思ったより重たくはなく、ドアはゆっくりと開いた。

中は部屋の中央に仕切りがある狭苦しいものだった。

「………あ、ここって……」

その部屋の作りで漸くこの怪しい部屋の正体を掴む。

「懺悔室です」

「うわ!」

私は仕切りの向こうから声がかかり飛び退いた。

「接待場所として完璧でしょう?」

「そうなのかしら…?」

言って私は備え付けられていた木製の硬い椅子に腰をかける。

「完璧ですよ。懺悔室という特性上ここには信徒一人神官一人しか出入りできません。

そういう魔法がこの地下にはかかっているのです。

さらに、防音、遮蔽魔法が常時展開、プライバシーの確保は王城並みです。」

「確かに…」

「さらに!私達が二人で密談はよからぬ噂を巻く原因になりますが、ここなら言い訳ができる!」

「…」

確かにな。

問題は私が悔い改めるような女じゃないってこととこの椅子の座り心地が悪いということか。

「なら、信用して話をしましょう。」

「ええ、昨日のような邪魔は入りません。」

言って仕切りの隙間から一枚の紙が差し出される。

「これは?」

言って私は受け取り中を改める。

「国への報告書です。」

「うわぁ」

私は顔を歪める。

さぞや醜い顔をしたことだろうが仕切りのおかげで見えはしない。

「問題は報告する属性です。」

「あー……」

「なんと報告します?」

「一番価値が低いもの。」

私は即答した。

「…何故とお伺いしても?」

「いい訳ないでしょ?」

なんでもかんでも話すわけがない。

「…魔法は全て尊き力。価値はみな等しく存在します。

…しかしながら、人気不人気というものは存在しまして…」

「なら、不人気でいいわ。」

「でしたら闇属性ですね。」

「うわー」

闇ってきくと私に似合いすぎて身震いしちゃう。

どんなものなのか、イメージ通りのものなのかは知らないけれど。

すっと差し出される羽ペン。

「こちらの空欄に闇と記載して、サインを。」

「はいはい」

私はいう通りに記載する。

そして紙とペンを差し返す。

「これを魔法協会に提出すれば完了です。

おって協会から魔力コントロールについての講習日程が組まれて連絡が入るでしょう。」

「それまでに暴走とかないわよね?」

「それまで魔力を抑える仮のアイテムとしてこのチョーカーがあります。」

純金で出来ているチョーカーを渡される。

マジックアイテムにしては無駄に豪華な作りである。

「貴族専用の貸与品です。」

「貴族と平民貸与品が分かれるんだ。」

「平民にこれ渡したら確実に売り払われるでしょうし、平民用の奴ではパーティなどに行く彼らには不釣り合いなのです。」

「成る程…。まあ、わかったわ、とりあえず借りる。」

言って私は今つけていたダイヤのネックレスを外して純金のチョーカーを嵌める。

「鏡はないの?」

「そこまでの用意は…」

「次からは必須よ」

まあ、私ならなんでも似合うし、似合ってなくても別にいい。

「ところでこれをつけてると魔法使いってバレる?」

「まあ、関係者はすぐにわかるのでは?」

「関係者っていうと神官と魔法使い?」

「ええ、一発でバレます。一度はお世話になってるマジックアイテムですし、魔力がどの程度抑え込めているかわかる仕組みがあるので。」

「へえ?どうやってわかるの?」

「チョーカーの色が三段階に変わるのです。

通常時は単なる純金製のチョーカーですが、魔力暴走を引き起こしかけてそれを抑え込み始めると、青、黄色、赤へと危険度に応じて変色します。」

成る程。

今は単なる純金製チョーカーモード。

魔力は安定しているということだ。

「魔力は精神状態に左右されやすいです。

常に安定した精神状態を心がけてください」

「それは不可能。」

きっぱりはっきり言い切った。

だってこれから男爵令嬢とお友達ごっこが待ってるんだよ?

想像しただけで…、あ、今一瞬チョーカーがうっすら青く…。

「諦めないでください。

貴女は類を見ない全属性持ちでさらには未発見の属性持ちというオマケがついているんです。

暴走した魔力がどう働くか、どのくらいのスピードで貴女を蝕むかは想定できませんからね。」

「そんな事を言われても。」

「とにかく、ストレスを溜めないことです。」

「それが一番難しい」

私は眉をひそめる。

頭の片隅でストレス解消にはモンスター狩りが一番!とか言う人がいるが無視を決め込む。

「それと、闇属性についてですが、不人気と言われるのはそのイメージと汎用性の低さから来ています。」

「つまり?」

「使い勝手が悪い。」

「成る程…」

「魔法が使えるだけで価値があると私は思うのですがね。」

「個人の見解はどうでもいいの。

闇属性は魔法使いとしての価値は最下位ってことよね?」

「その通りです。」

「よし!」

私はガッツポーズをとる。

私の価値値上げは最小限に抑えた!

それにイメージが悪いってのもいい!!

闇の王妃様なんて外聞悪いもの、王家に相応しくないって言い張れなくもない!!

「因みに闇属性って何が出来るの」

「有名なのがブラックアウトですかね?」

「ブラックアウト?」

「対象一人を盲目、沈黙、難聴に陥れます。」

「何それ怖い。」

「闇属性は相手を状態異常に導くのです。

盲目、沈黙、難聴はまさにその代表といえます。」

「なんで人気ないの!?」

「派手さに欠けるしそれ単体でモンスターが狩れるわけではありませんからね。」

「いや、それでもさ…」

「それに、あくまで対象一人に対してです。

複数同時に状態異常は引き起こせません。

呪文を唱えてそれなりに魔力使ってもたった一人すら殺せない魔法が闇属性です。」

……納得…か?

そのたった一人というのが逆に怖くないか?

たった一人を確実にブラックアウトさせたら集団行動なんて取れなくないか?

闇属性魔法の真髄って殺すことじゃなくね?

「まあ、なんでもいいわ。とりあえず、闇属性で報告はお願い。

それと、真実は他言無用よ。」

言って私は数枚の白金硬貨を差し入れる。

「…確かに。しかし、よく気づきましたね。」

「え?」

「自分の中に魔力を感じたから再検査を望まれたのでしょう?」

いや、嫌な予感がしたからです。

「まあ、なんとなくおかしいなって思ったのよ。」

「具体的にどのように?」

「具体的って…随分突っ込んでくるじゃない。」

「ああ、後天的魔法使いは珍しいので気になるのですよ。

噂では、五感が鋭くなるとか?」

「それな!」

私は思わず仕切りを指差す。

「え?それって本当なのですか?」

「やたら耳がよくなった。」

「なんと!」

「魔法使い全員がそうなんじゃないの?」

「不思議なことに後天的魔法使いのみの現象です。」

「そうなんだ…」

私は英雄様が私の体を乗っ取ろうとしている証拠だと思っていたが、どうやら違ったようだ。

「成る程、耳がよくなった、と。これも報告してもよいですか?」

「やめて。」

言って硬貨を一枚追加する。

「……すいませんね、催促したみたいで。……でも本当にいいんですか?」

「何が?」

「耳がよくなった事もそうですがもっと人気のある属性…例えば焔とか光とかにしなくて。

人気属性持ちの王妃様なんて王家は絶対に欲しがりますし、大体の我儘は聞いてくれますよ?

それにいるでしょ?蹴落としたい子。

それを武器に蹴落としてしまえば…」

「神官長?口が過ぎるわ」

鋭い棘のような声を発する。

「しかしですね…」

「魔法の後押しなんて要らないのよ」

そう、いらない。

私は嘘はついていない。

「…」

しかし、その言葉を神官長は別の意味合いに捉えた。

捉えるよう先導したとも言う。

「まあ、私は口が硬い方ですから安心してください」

チャリンと硬貨と硬貨がぶつかる音がした。

全くもって安心できない。

「そう言って私が渡したお金以上の金額を目の前に積まれたらあっさり裏切りそうね?」

「そうお思いでしたら定期的に懺悔にいらしてください。

…そうですね、神はこの頃孤児が増えて大層憂えております…と、だけ伝えておきましょうか。」

「次回会う時までに見積もりを取っておきなさい」

私はそう言って椅子から立ち上がった。

あー、お尻が痛い。

ドアを開けたところで神官長と鉢合わせたので言っておくことにする。

「あと、次からもっといい椅子を用意しておきなさい。」

「はいはい、仰せのままに。」

そう言うが彼は頭を下げない。

そしてそっと手を差し出す。

エスコートの手だ。

私は一瞬眉をひそめた。

なんで、神官長風情が公爵令嬢たる私のエスコートをと思ったのだ。

私のエスコートは王子かお兄様、お父様しかあり得ない。

それ以外では身分の釣り合いがとれないからだ。

しかし、まあ、ここは社交界でもなんでもない他人が入ることのない特殊な空間。

私は手を預けた。

腰に手を回して私が思う以上に優雅に華麗にエスコートをする。

帝国のそこそこレベルの貴族出身なだけはある。

エスコートは合格か。

神殿の一階に戻って来た。

それはとても短い距離であった。

私達は適切な距離をとる。

「…物足りないですね?」

「これ以上はしつこいわ。」

「……これでも女性には人気がある方なんですけど…」

「それは認めよう。」

私は頭に今朝見た群がる女性達を思い出し頷いた。

彼は自分の容姿に自信があるようだし、持って当然だと思う。

単に私が異常なのだ。

他人に一切の興味が持てなくなったのだから。

「そんなにあの王子様がいいのですかね…?」

小声であったがばっちり聞こえた。

「貴方忘れたの?私が地獄耳だということ。」

「いいえ、しっかり覚えてますとも。今のは失言でしたかな?」

問われてふるふると首を横に振る。

あの王子をいいなんて失言どころか地雷であったが用件が終わった今はどうでもいい存在へと神官長は成り下がっている。

わざわざ共に過ごす時間を長引かせる気にもならない。

私は神殿の裏口から外へと出た。

「馬車までお送りしましょう。」

「当然ね。」

「次はいついらっしゃいます?」

「特に決めてはいないわ。」

用件は済んだ。

「つれないお方ですね。ある程度は通って頂かないと口が軽くなりますよ?」

「貴方本当にお金が好きなのね…」

言ってため息をつく。

スチュワートに追加でこいつの弱みをつかむよう命じておこう。

でないと、永久に搾り取られる。

「お金が好きなのではなくて貴女が好きなのですよ。」

「より正確に言えば?」

目すら見ずに言う。

彼がどんな顔をしているかなんて知らないが、きっと私を揶揄うつもりの一言だったのだろう。

しかし、他人に心動かされない私は全くもって動じない。

「………貴女の能力です………」

「悪いけど貸すつもりはないからね?」

「今のところはと付け加えておきましょうか。」

「この先ずっとよ。」

「変わらぬ心はありませんよ。」

馬車が見えてきた。

スチュワートが直立不動で待っている。

「お待ちしておりました。」

スチュワートが一礼する。

「おや、昨日の犬か。今日はきちんとマテが出来たようで何より。」

「…」

無言を貫くスチュワート。

「…この使用人表情筋死んでる?」

「多分生きてるわ。」

「多分…」

「鞭をくれてやると時々表情が動くから。」

「…鞭…犬…女王様…?」

「何か?」

「なんでもないです。では、麗しの女王様、またお会い出来る日を楽しみにしております。」

そっと私の手をとり甲にキスをした。

その仕草は余裕たっぷりでありその体勢のままニヤリと笑い…ピシッと音がたつような雰囲気で固まった。

何か怯えのような気配すら醸している。

…?

「いつまでやってるのよ?」

「あ、はい、そうですね…」

神官長は唇を甲から離してもっていた手も手放した。

「…表情筋…生きてるわな…」

…?

後ろを振り向きスチュワートを見るがいつも通りの安定した無表情。

何言ってるんだか。

「それでは神官長、御機嫌よう。」

軽く挨拶をして私は馬車に乗り込んだのだった。






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