Itinerary: 3日目 その3
トーストと牛乳という朝飯を食べ、食器も洗い、時宗は今野を待っていた。下手すると長期戦になると思っていたのだが、今野は拍子抜けするほどすぐに戻ってきた。午前十一時には、車庫の扉を再び開ける音がしたのだ。
キッチンと玄関との境目で壁に寄りかかり、時宗は今野を出迎えた。ドアを開けて目が合うと、今野は溜息をついた。
「お前、帰んなかったんか」
「帰るわけないだろ。訳ありなら訳ありで事情聞くし。こっちだって探偵事務所なんて商売やってるんだ。大抵の事情には驚かない」
「そうか?」
ぼそっと言うと、今野は時宗を押しのけるようにキッチンに入った。コートを着たままだ。ぐるりと部屋を見渡すと、冷蔵庫を開けて中を確認している。時宗が冷蔵庫に入れておいたマグを出して、さっき飲まなかった牛乳を一気飲みし、テーブルに置かれたままの冷えたトーストをかじる。
「買い物行くのか?」
「行かね。オレこれから仕事」
「また出かけるのか?」
今野は答えず、手早く皿とマグを洗った。それから奥の部屋へ行き、収納から小ぶりの旅行用鞄を取り出す。中身はすでに詰められているようだった。それを肩にかけると、こちらへ戻って晶石ストーブの火も消し、あちこちの配管を閉め、空っぽになった冷蔵庫のコードを引っこ抜く。
「……長く空けるのか?」
「うん。だからお前ほんとに帰れ」
「ついてく」
今野は嫌そうに顔をしかめた。
「だめだ。仕事なんだから」
「何の仕事だ」
「お前に関係ねぇ」
「関係なくないだろ。俺だって仕事なんだ。なぁ一回おじいさんに会ってさ、それから決めたっていいんじゃないか?」
時宗が食い下がると、今野はキッチンの真ん中に突っ立って時宗を見つめた。どうしたらいいかわからない、そんな不安な雰囲気が無表情な顔にかすかに漂っている。時宗は言いつのった。
「な? このまんまじゃどうにもならない。俺、お前の仕事手伝ってもいいし、どこで待ってもいい。とにかく、お前がトウキョウ行ってじいさんに会うか、会えない事情をちゃんと俺に説明するかしない限り、俺は絶対お前から離れないからな」
今野は黙ってしばらく考えてから言った。
「オレの仕事、手伝うんか?」
頷いて見せると、今野は諦めたように力なく笑った。
「わかった。……お前トウキョウ帰れ」
「だから!」
「……オレこれから、仕事でトウキョウ行くことになったんだ」
時宗は目を見開いた。なんだって?! それってつまり……。一石二鳥っていうか、なんかそういう……。今野は皮肉っぽく口をゆがめた。あぁ。屈託なく笑う顔のほうがいい。
「お前飛行艇で帰るべ? 空港まで送ってやる」
「お前だって飛行艇だろ?!」
「オレ飛行艇じゃない。車で行くんだ。だから手伝いたかったら、オレの車に乗ってずっと行かなきゃなんねぇ」
時宗の答は決まっていた。
「お前の車に乗ってく」
「んじゃお前、後で文句つけんなよ」
「つけるわけないだろ」
「どうだか」
そう言って、今野はニヤリと笑った。さっきより素が出た笑顔は、ちょっと可愛げがあると時宗は思った。




