Itinerary: 5日目 その24
人々はしばらく興奮して飛び跳ねていたが、そのうち、時宗に押し寄せてきた。
「すごい! 一人でヤマを復活させるなんて」
「これが本物の力だ!」
「本物の愛子さんだ」
「すげえ。あんたすげえよ!」
時宗様! 時宗様!
神のように称えられ、時宗は居心地が悪くなった。手をかざして黙らせようとしたが、誰も言うことを聞かない。
まいった。解散させないと、機械の移動ができない。
滝田に通信を入れる。
「機械を回収の上、撤収します。この人たちを無事に帰宅させるよう、人員整理をお願いします」
『了解しました』
「ありがとうございます」
通信を終えるなり、時宗は声を張り上げた。
「全員! 聞いてください!」
どうしても駄目なら、もう一発信号弾でも上げるか……と思いながら、時宗は呼びかけ続けた。警備が手をかざして人々を落ち着かせてくれているのも見える。
「聞いてください! 静かに!」
ざわざわしていた人々が、徐々に静まっていく。話している者は誰かに注意され、口をつぐむ。
「皆さん、お疲れさまです。今日は速やかに帰宅し、よく眠ってください。体調が優れない方は、できるだけ早く病院で診断を受けること。
明日より、この鉱山を含めすべての関連企業について、順に組織改編や業務改善を行いますが、差し当たり、ノルマについては明日からすべて撤廃されます。また、坑道内部に入る時間も一人四時間以内としてください。他、不明な点や意見があれば、管理部に提出すること。今日は寝ましょう! 解散!」
パン! と時宗が手を叩くと、人々は夢から覚めたように帰り始めた。ぞろぞろと寮へ行く流れを、警備部隊が誘導する。思い出したように仕事場へ行こうとする者も、帰宅を促されて駐車場や寮へと移動していく。
挨拶してくる人々に応じながら、代表者たちに明日からの仕事や今後のことについて、今の時点でできる指示を出す。労使の交渉についても明日だ。鉱脈そのものが復活し、当主が変わったおかげで、代表者の間には気が抜けた雰囲気が漂っていた。
群集が九割方いなくなると、ようやく時宗は歩行箱に手をつき、息を吐いた。
激しい頭痛は来ていないが、全身がだるい。横になって眠りたい……。頭がグラグラする。
「時宗さん、少し休んだ方が……」
敬樹が控えめに声をかけてきた。覗き込んでくる顔に、時宗は笑いかける。
「そうだな。休んだ方がいい。お前も頑張ったな。一緒に帰ろう」
機械について、あれをどう設置したのか代表者たちに聞かないと……と思った時だった。
遠くで鋭く銃声が響いた。大きな爆発音が続き、時宗は咄嗟に身を伏せる。
「何が起こった?!」
音は正門の方向から聞こえた。そちらを見ると同時に通信が入る。
『護送班が襲撃を受けました! 部隊員数名と護送対象一名が撃たれて意識不明です』
「何だって?! 誰が撃たれた!」
『野崎です』
弥二郎が走り寄って来る。
「何があった?」
「護送班が襲撃を受けた。野崎が撃たれた」
「は? 誰が襲撃したんだ?」
「襲撃は誰が?」
通信が応答する。
『労働者の一部のようです。離陸準備を終え、車両から飛行艇へと対象を一人ずつ移動させている最中に、二十人程度の者が』
通信がぶつりと切れると同時に、空に銃声が再び響く。
「敬樹! 警備と連携して、端末に鉱山内の警備カメラの画像を下ろせ。弥二郎は分析して応援部隊を配置。海斗! 警備から絶対に離れるな。滝田さん、機械を撤収す」
言いかけた時だった。
「時宗!」
海斗の叫び声に振り向こうとした、その一瞬、時宗はガツンと頭に衝撃を受け、もんどりうって倒れ込んだ。
頼むよ、もう帰って寝たいってのに。
誰かに引きずられる感覚を最後に、時宗は意識を失った。




