Itinerary: 5日目 その21
海斗が持っていたものより、時宗の石は一回り大きい。
マキは両手で包むように持つと、魅入られたように石を見つめた。
「これが……すごい……」
周囲の人間たちものぞきこみ、嘆声をあげている。人々が喜びに手を叩き、辺りはコンサート会場のような明るい喧騒に包まれた。
マキが装置に石を嵌めると、透明なカバーがするりと覆う。
周囲を見渡し、時宗はヤマの様子を見た。弥二郎が厳しい顔で装置を見つめている。視線が合うと、弥二郎は怒った目をした。ただ、こっちに来ないところを見ると時宗の意図を理解はしているらしい。
「ありがとう。ありがとう……」
感激したようにマキが言うと、代表者たちも頭を下げ始める。
いい気なもんだ。
マキは催眠術にかかったように、しばらく石を見つめていた。やがて海斗の仕草を真似するように、石に触れる。
分かっていた通り、何も起こらない。
時宗は腕を組んでふんぞり返り、彼らが焦るのを見物した。
なんで『鍵』が『鍵』って呼ばれてんのか、もう少し考えろよ。
キーボードさえ出てこないので、彼らはあちこち覗き込み、手当たり次第に押したり回したりしている。機械は何一つ反応せず、石はくすんだ色のまま、かたくなに黙り込んでいる。
すがるように、全員がこちらを見た。
「石は、人を選ぶ。野心がある者は石に選ばれない。純粋に労働者を守りたいと思うなら、石は応える。あんたの考えに共鳴するよう、石には指示しておいた」
マキの顔が真っ赤になった。
固唾を飲んで注目する群集の中心で、マキは追い詰められていく。機械を叩き、石のカバーを外そうと爪を立て、操作盤の出口をのぞきこんで指を入れ、再び石に手を重ねる。
群集の顔が失望に変わる頃、代表者の一人が海斗の方を見た。
頃合いだ。海斗が巻き込まれる前に、時宗は歩き始めた。
「どけ」
わざと横柄に言う。群集に向かって、凛と命令する。
「全員座れ」
気圧されたように、群集が座り出した。立っている者がいなくなったことを確認してから、時宗は代表者たちも下がらせる。
正直、人前でやりたくなかった。これは見世物じゃないし、使い方をしくじれば人間に危害が及ぶ。
だがこれは、たったひとつの、山を蘇らせるチャンスでもあった。
小鳥のさえずる、暖かい岩場を頭に浮かべる。
坑道の奥で冗談を言い合う採掘人たち。彼らと共に食堂に向かう夕暮れの道。祖父と母の優しい目と、空に響く、朗らかな笑い声。
トンネルの奥で、石と五感が共鳴する。岩肌に青い光が走る。夜空のような坑道の天井を見上げて、時宗は手を叩く。
ただいま。
おかえり。
お母さま。僕はずっと、ずっとあなたと一緒に笑いながら、おやつを食べたかったんです。
透明なカバーに手を置く。
石が、ふわりと光る。雨上がりの土の香りがした。




