Itinerary: 5日目 その15
ぽかんと海斗を見ていた義時と時頼の顔が、怒りで赤くなった。義時が手錠をガチャガチャさせてわめく。
「来ていたのか!」
「いや、機械を回収しなきゃなんねぇんだから、来てるに決まってんだろ」
義時の横で野崎も悔し気に歯を食いしばっているのを見て、時宗は呆れた。
「ばかばかしい。悔しがったって意味ないだろ。お前らは最初から最後まで、なんにもカードを持っていない状態でゲームに参加してるつもりだったってことだ。聞きかじった情報でバタバタしてただけで、なんにも結果は出なかった、と。さすが無能どもだな」
「そういう貴様たちも、機械を回収できんまま、買い手も結局掴めておらんくせに」
「義時。口の利き方に気をつけろ。機械の解析は終わってるし、買い手が誰かも見当はついてる。パネルとバッテリーね。助かった。機械の使い方も大体わかった」
「えっ?!」
海斗がびっくりしている。
「あんな短い時間しか機械見てないのにか? 銃で脅されてたし」
「まぁまぁ見てただろ」
「嘘こけ。生田さんに通話して聞いたら、ちゃんとわかるんでねぇのか?」
「すでに部隊を派遣して保護を発動させた。今後、生田さんの安全が確実に担保されるまでは誰も連絡をとることはできない」
弥二郎が満足そうに呟く。
「仕事が早いな」
「最初に思いつくことだろうが」
時宗は答えながら考え込む。
「結晶体が人間の生命エネルギーに反応することを利用して、結晶体構成原子そのものを振動させ、エネルギーを出させる装置。これにパネルと……エネルギーを蓄積させるバッテリーか……。グラウンドに穴を掘ってたって?」
幼い頃からの思い出と、晶石について読んだすべての本。家庭教師に受けた講義。
「時宗?」
「海斗、声をかけるな」
脳の中で、記憶が細かいピースとなり、散らばり、ひとつの体系に組み直されていく。
これは、システムだ。あの装置から出力されたエネルギーを広く、深く発散させる。一気にほとばしる青い光のイメージ。途方もない力がヤマ全体に響き渡る。パネル。広いパネルに、青い光の共鳴が反映され、浮かび上がる。
「おそらく……あの装置に取り付けられた石のエネルギーを使って、山全体を巡っている鉱脈の状況を探知する技術だ。山全体が崩れないように、余剰のエネルギーをバッテリーに流し込んで、それを今度は別な機械の動力源として再利用する……海斗、お前トウキョウにどのぐらい来てたって?」
「二ヶ月に一回ぐらいだし、仕事始めてから三年経ってっけど、中身は知らんかった」
「大体は別な仕事だったんだろうな。半年ほど前から付属物を運び込み始めて、核心部分と『鍵』を最後に持ち込んだ、と。あれがあれば鉱山を支配できる。労働者側が主導権を取ることも可能になる……なにせ、晶石がどこにあるかが『視える』わけだからな」
以前は祖父が鉱脈を見つけ、記録していた。鉱脈を見つけられる者が不在となった今、連中は装置を使って南条の支配を抜け出そうと考えたわけだ。
「お前ら、徹底的に嫌われてんな」
弥二郎が横目で義時と時頼を見下ろした。義時が言い返す。
「弥二郎、貴様も装置について探っていながら、労働者どもに出し抜かれたことに変わりはないだろう。常に親父の言いなりだから、こんな事態になるんだ。当主の私に従いもせず、こちらの仕事に何ひとつ協力しない者が、偉そうに」
「当主じゃない」
時宗が言うと、義時の顔色が変わった。
「なんだと?!」
「お前は、最初から、当主じゃない」
ゆっくり繰り返すと、途端に義時が暴れ始めた。
「私は本社の株を買い取ったんだ。正しい手続きを踏んだんだぞ! どれだけ苦労して南条を維持してきたと思っている!」
「お前にとっちゃ、『正しい』んだろうさ。……鉱脈を見つけるコツ、教えてやろうか?」
ずいと義時に顔を近づける。
「自分の『正しさ』を押し付けないことだ。自分の言いたいことを言って、自分の方法を押し通してる限り、石は答えない。石を見つけたかったら、のんびり昼寝をして、石がこっちに好奇心を向けるのを待つ。相手の声を聞かなければ、誰も、こっちの話を聞いちゃくれない」
歩行箱からチョコレートを出してもぐもぐ食べると、時宗は続けた。
「あんたは最初から当主じゃない。家訓を忘れたか? おじい様の屋敷、玄関ホールの椅子は? 俺が覚えてる限り、おじい様の家に行くたび、あんたは自分がどっかり座って俺を立たせていた。『上に立つ者はいかなる危機を前にしても座ってはならない』。いいか、革新ってのはな、伝統を理解し、その中で時代に合わない部分を打ち破ることを言う。まず最初に、伝統というものが、なぜ、そのような形で成立したのかを理解しなければ、革新は生まれない。おじい様に盾突いて好き勝手やったあんたは、晶石の見つけ方も知らない、ただの、下っ端だ」
家訓はただの言葉ではない。弱い者の痛み、疲れを感じ取り、それを労わることができなければ、晶石鉱山を統べる資格は得られないのだ。
「そして俺が、ひいおじい様、おじい様に続く南条家当主、南条時宗だ」
横で弥二郎が声をあげて笑った。




