Itinerary: 5日目 その12
ゲストハウスに続く道は車専用で、歩道がない。両側には時宗より高い植え込みが続いていて、周囲から通行が見えないようになっていた。緩くカーブしているせいで、どのぐらい続いているのかもわからない。歩行箱の小さな灯りだけを頼りに、時宗とマキは互いの顔さえよく見えない道を歩いていた。
「君は……変わってないな」
並んで無言で歩いているうち、マキがぽつんと呟いた。
「そうですか? 自分では変わったと思ってるんですが。そうじゃないと俺が困る」
「根本的な考え方は昔から変わってないんじゃないか? ……覚えてるか? ゼミ合宿の事件」
「あ~、まぁ」
マキは二浪して専門院に合格し、時宗の一学年上だった。
時宗が三年生、マキが四年生の時だ。ゼミ論文を書くための合宿でナガノに行った時、とある事件があった。地元の少女が変質者に連れ去られたのだ。息抜きで散歩していた時宗とマキは、血相を変えた母親に会った。聞けば、警察には通報したものの到着を待てずに、七歳の娘を探していると言う。
時宗は教授に通話をして説得すると、ゼミ全員で少女を探すことにした。マキはその時のことを言っているのだ。
「あの時も君は、連れ去りからまだ時間が経ってないから、今すぐ動いた方がいいって教授に話しただろ。それで、ちっちゃな公園の隅っこで花壇をいじってた男に最初に話しかけた。明らかに脳に障碍があって、ろくに受け答えもできなかった相手に」
「別に……障碍なんかどうでもいいでしょう? 俺はただ、彼が面倒を見ていた花壇がとても美しかったから、よくここにいるんだろうと思っただけだ」
本当に美しい花壇だった。彼は自分ができることを、ひたむきにやっていた。事件がなくても、時宗は声をかけていただろう。
「でも、地元の人でさえ彼とはコミュニケーションができなかったのに、君はすんなり仲良くなったろ? 公園の横の、山への秘密の抜け道を教えてもらえたのは、君の手柄だ」
間一髪、犯人が少女の首を絞めている現場に踏み込んだ時には、時宗は自分が撃たれた時のことを思い出して吐きそうになったものだ。泣きじゃくる少女を抱き上げた時には心から安堵した。
「手柄とかじゃない。あの子が殺されなくて、本当によかった」
「……そういうとこだよ」
「どういうところです?」
「君は、どんな人間でも自分の懐に入れてしまう。弱い人間をすぐに見つけて、ごく自然に守って……。俺は……君みたいになりたくて、今の仕事を始めた」
「俺なんて、できた人間じゃありませんよ。俺こそ、マキさんの姿勢を尊敬してます」
それは事実だった。時宗はまだ心のどこかでマキを信じていたかった。
もしマキが反社会組織と手を組んでいたとしても、それは義時や時頼といった経営陣と対立するために必要だったからであり、マキ自身の信念は、変わらず高潔であると。
時宗に黙っていたのは、南条に情報を漏らしたくなかったからだと。
マキは少し黙った後、ためらいながら口を開いた。
「なぁ……南条。君に、折り入って話があって……」
「大事な話ですか?」
「ああ」
「後でもいいですか? 大事な話なら、短い時間で適当に対応したくない。いいでしょうか?」
「そう……だな。後で」
頷きながら、時宗は歩を進めた。植え込みの終わりが見えていたから。だが時宗は同時に、予感めいた寂しさを感じていた。友だと思っていたかった者を、もし失うことになるなら、それはできるだけ先にしたかったのだ。
植え込みからゲストハウスの車寄せに出て、時宗は呆れた。
予想はしていたが、近くで見ると本当にひどい。大理石やら何やら高価な材料を使って、どうしてこんなにシュミの悪いものが作れるんだ?
西洋の城を模した建築を縁取る装飾は、ゴシック風にしたつもりなのだろうが、ゴテゴテしているだけで何もセンスがない。近づく者を警戒して全体が煌々と照らされているのが、なんだか売れない映画のワンシーンのようだ。
問題は、シールドだった。
近くで見て気づく。これは普通のセキュリティ・シールド・ドームじゃない。軍事用のシールド・スフィアだ。建物を中心に地面の下まで含めて球体になっているシールドで、触れば高圧エネルギーで飛ばされる。外部から情報を抜くのも不可能に近い。それでいて透明度が高く、かなり近づかなければ視認できない代物だった。
設備投資の異様な額はこのためか。
それは、今起こっている事態を正確に予測し準備していた者がいることを意味している。
義時と時頼は、どこまで予測できていたのだろうと時宗は思った。南条を喰った連中の方が主導権を握っているとすれば……。いずれにしても、この件に絡んだ奴は全員叩き出すまでだ。自分たちと鉱山に害をなす者相手に、遠慮なんかいらない。
考えてみれば、どんなに仰々しいものを用意しようと、シールドは防御用だ。積極的に打って出るための決め手に欠ける。時宗が海斗と来れば、『鍵』を交渉材料として機械の買い手に対し有利に立てると思っているのかもしれないが、もし誰も来なかったら、どうするつもりなんだろう?
隣でじっと建物を見上げていたマキが、呟くように聞いてきた。
「専門院の頃、実家とは縁を切ったって言ってたけど、あれからも関係は変わってないのか?」
「変わってませんね。……専門院を受験する直前に大喧嘩して、会うのはその時以来です」
「そんな状態で、よく来てくれたな」
肩をすくめ、時宗は車寄せを歩いて行った。
「まぁこっちにも色々ありましてね」
マキとは専門院時代からよく一緒に飲んだ。個人的な事情もぽつぽつ話している。南条の直系であることを知っても態度が変わらなかった数少ない人間として、時宗はマキを友人だと思いたかったし、探偵稼業で出会った胡散臭い人間の受け皿として、マキは大事な仕事仲間だと見てきた。
透明なシールドの手前で、時宗は建物の窓を見渡した。どの部屋も分厚いカーテンが引かれてていて、細い糸のような灯りが所々漏れている以外、中は伺いしれない。
さて、相手はどう反応してくるか。
「おい、来てやったぞ。玄関を開けろ」
中に聞こえるように声を張り上げると、シールドの内側で正面玄関のドアが開いた。最新式の接客機が、とぼけた顔でコトコト出てくる。荷物を運搬する台車が接続しやすいよう、体は無骨な箱型だ。
その体に見合わぬ、丸く愛嬌のある顔で周囲を見回してから、そいつは時宗に向かって動き始めた。奥で玄関ドアが閉まり、接客機だけが時宗と向かい合う。その手から細いエネルギー・ワイヤーが伸び、丸い枠が形作られる。
黙って見ていると、接客機はその枠をシールドに押し当てた。くり抜かれたように、シールド・スフィアに薄い部分ができる。
大股で近づくと、時宗は膜越しに接客機に話しかけた。
「どこのナマクラだか知らんが、なんだこの適当な出迎えは」
接客機の胸元から、義時と一緒にいた謎の男の声がした。
『おいカイトも連れて来いと言ったはずだ。ふざけやがって。連れて来なけりゃ、テメェの大事なオジサマには会わせねぇ。出直してこい』
「ふざけてんのはそっちだろうが。ブツがないのに鍵だけ要求して、お前らに何ができる? こっちだってブツを探してんだ。鍵の安全も保証されない状態で連れてくるわけないだろ。お前の頭に詰まってんのは何の味噌だ? カチ割ってキュウリ突っ込むぞボケが」
隣で、マキがぽかんと口を開けていた。およそ、お育ちのいい南条家の御曹司が吐いていい悪口ではないらしい。
接客機のスピーカーフォンが沈黙した。時宗はここぞとばかりに煽ってやった。
「だいたい、名前も知らんテメェと話してるほどこっちはヒマじゃねぇんだよ。とっとと、そっちで監禁してる従業員と弥二郎を出せ。シールドごと特殊弾で爆撃したっていいんだ。人質取ったぐらいで自分が優位に立てると思ってんのか、このド底辺どもが」
最高身分の人間に言われる『ド底辺』という言葉はどんな感じなんだろうな。時宗は声を上げて笑ってやった。向こうから、怒りの呻きが漏れる。
カチャリと玄関が開く音がした。両開きの大きなドアが、わずかに内側へ動く。細い隙間から光が広がる。
『……思い知らせてやる。表舞台に出られなかった臆病者のおぼっちゃんがよ。見せしめだ。今からロビーでテメェの叔父を殺してやる。入ってこないってんなら、哀れな叫び声だけそこで聞いてろや』
エネルギー・ワイヤー内部の膜が薄くなり、出入り用の穴が開く。途端、時宗は接客機の首根っこを掴み、マイクに向かって怒鳴りつけた。
「出てくんのはテメェだって言ってんだろうが。何人いるかわからん空間にホイホイ入っていくかよ。おい! 義時! 時頼! いるんだろう、出てこい! そっちから出てくれば、殺しはしないでおいてやる」
大声で話しながら、接客機の前面が建物の死角になるよう角度を変えると、操作盤のカバーを引きちぎって右手を突っ込む。左手でポケットから情報チップを取り出し、スリットにねじこむ。
鉱脈が下がったからって、晶石型を導入するなんてな。接客機がいることは打ち合わせの段階で警備部隊から聞いた。まぁどうせ、ここの特殊環境を理解してない連中がやっていることだ、内部の機械のどれかはシステム管理者と直接繋がっている。それを利用する計画を立てたのは時宗だ。
舐めやがって。最初に一番便利な奴を出してくれるとは。中に入る手間がはぶけて、こっちは助かった。
晶石を握りこみ、時宗は小声で通信機に呼びかけた。
「敬樹! いけるか」
『いつでも!』
頼もしい返事と同時に接客機の目が青く光り、キュルキュルした鳴き声が漏れ始める。握った掌から、時宗は強く共鳴を送り込んだ。
ここはきみのいばしょ。きみがずっといたところ。しんぱいなんてない。おやまのみんな、きみをまってる。まってる。まってる。
本来の持ち主からコネクトを奪うことは、一般人には不可能だ。稀にできる人間がいても時間がかかる。それが常識。でも時宗は即座にできる。二日連続で使うことになるとは思っていなかったが。
結晶を結晶たらしめているエネルギーの揺らぎに働きかけ、晶石の好奇心をこちらに向ける。脳の奥で晶石を愛しく包み込む。
きみのあんしんするところ。ここが、きみのいるところ。
主導権を握ると同時に、接客機を制御しようと足掻いている意識の糸を遡る。光の速さで時宗の意識は建物の奥へ吸い込まれる。施設全体の管理システムへ、晶石エネルギーの波長に乗って入り込む。
「システム掴んだ!」
その声に応じるように、チップに仕込んでいた通信プログラムが敬樹の遠隔操作を受け入れる。時宗の意識に情報ネットが同調し、敬樹が建物全体の管理システムへ侵入していく。
接客機から手を離し、時宗はその体をトンと叩いた。おとなしく、『彼』はシールドの奥へ引っ込む。ワイヤーが落ち、分厚いシールドが復活する。
体の中で興奮が暴れていた。異常に楽しくてたまらない。
魂が自由に世界を駆け抜けていく感覚。すべてを思いのままに動かせる万能感。
そうだ。この力で、俺は自分を押さえつけてきたものを今こそ蹴散らせる。昏い興奮が背筋を這い上がってくる。麻薬のように、権力が指先まで満ちていく。
時宗は、ゲストハウスの中に向かって笑いながら怒鳴った。
「後悔すんなよ! 十秒待ってやる。三!」
いきなりカウントをすっ飛ばすと、マキは慌てたように一歩引いた。
「二! 一!」
すべての灯りと一緒にシールド・スフィアがふっと消え、同時にゲストハウスの裏が爆発した。轟音と共に地面が揺れる。
血相を変えた下っ端が玄関の奥から顔を出した。それに駆け寄り、容赦なく顔を蹴っ飛ばして中に戻すと、時宗は音を立ててドアを閉め、開けられないように力一杯引っ張った。
マキはパニックを起こしたように植え込みの中へ逃げ込み、まるで頭がおかしい奴を見るような目で時宗を見つめている。
内部からは、すさまじい音が聞こえていた。ガガガガガッという小銃の音、パン!パン!という乾いた銃声。カーテンの隙間から、鋭いフラッシュが闇に弾ける。大きな家具がひっくり返される音に、誰かが階段を転げ落ちる音。叫び声に、金切り声。
建物が揺れ、晶石が燃える匂いが濃くなっていく。
ひとしきり続いた騒ぎが収まると、時宗は悠然とドアを開けた。もうもうと立ち込める煙の中を歩きながら、静かに命令する。
「灯りをつけてください」
建物全体に灯りがついた。
豪奢なエントランスホールは惨憺たる有様だった。銃で反撃しようとした者は、すべて体の一部を撃たれた状態でうずくまり、呻いている。壁材のあちこちが銃撃でえぐれ、一歩踏み出すごとに、床がジャリっと鳴る。
数人の警備部隊員が奥から姿を現すと、時宗は倒れている連中を親指で指して命じた。
「全員拘束してください。一人も逃さないように」
「了解しました」
時宗は耳の奥に届く報告を聞きながら、建物の右翼へ向かう。マキが恐る恐るついてきていた。歩行箱も、倒れた人間を避けながらトコトコやってくる。
「一体……何が起こったんだ……」
「説明は後です」
廊下を進むと、あちこちから呻き声が聞こえてくる。時宗はすべて無視して歩いて行った。一番奥に、隊長の滝田が待っている。
「どうなりました?」
「あとはここだけです」
視線を下ろす。そこは地下室への階段になっていた。鋼鉄のドアで塞がれている。部隊員が二人、金属切断機で蝶番を切っていた。
「弥二郎は?」
「スコープで確認しました。この中です。パニックルームとして作られたらしく、出入口が他にありません。換気システムから軽い弛緩作用のあるガスを入れてあります」
本当にロクでもないものを作ってやがったな。
そう思いながら、時宗はドアエントリーの邪魔にならないところへ下がった。マキは中央のエントランスロビーへ戻らせる。切断機のキィィィィンという音がやみ、待機していた数人の部隊員が、盾と太い槌を持って下りていく。
破壊音が数回、ドアが開いたらしい。床にドアが叩きつけられる音が響くと同時に、銃声が中から聞こえた。盾が弾く音が鳴り、静かになる。
強制換気が終わり部隊長が頷くのを見てから、時宗は足を踏み出した。階段を下りきり、部屋の中に入る。
窓のない、コンクリートで塗りこめられた部屋だった。片隅に拘束具が転がっている。拷問か、SMか。いずれにしてもマトモじゃない部屋だ。突入した部隊員たちは小銃の狙いを一番奥の隅に定めたまま、じっと並んでいる。
時宗は、薄暗い部屋の奥を見つめた。
男が一人。ぐったりした弥二郎を盾にするようにその首を抱き込み、こめかみに拳銃を突き付け座りこんでいる。
「来んじゃねぇ!」
いかにも組織の下っ端だった。怯えとパニックを滲ませた目で、居並ぶ銃口と出口をせわしなく見ている。足のもがき方からいってガスは一応効いているようだが、興奮が効き目を遅らせているようだ。
「誰ですか?」
傍らの部隊員に小声で訊く。
「見張りだったようです。頭を撃ち抜くこともできますが……」
「俺が説得を試みます。鉱山内で死者は出したくない」
「了解しました」
時宗は弥二郎に注意を向けた。ガスのせいだけでなく、だいぶ痛めつけられたようで、腕にも脚にも力が入っていない。うなだれた顔に髪が張り付き、目は見えなかった。
「弥二郎~、生きてるか?」
のんびり声をかける。少し経って、弥二郎がかすかに動いた。
「お~い。俺をくっそ寒いとこに行かせておいて、自分は誰かに抱かれてんのかよ」
弥二郎の口角が、わずかに上がった。かすれた声が漏れる。
「うるっせぇな。……暑っくるしくて……かなわねぇ」
ごほっと咳き込むと、口の端から血が落ちた。ずっと通奏低音のように体の底を流れていた怒りが、感情の表面に上がってくる。それを押さえつけながら、時宗は静かに続けた。
「生きてて……よかった。土産が無駄になるとこだった」
「買って……ごほっ、きたのか。やっぱ、お前はしん、信用できる」
「敬樹も肉じゃが作って待ってる。早く帰ろうぜ」
「ああ……そう……だな」
弥二郎は再び意識を失った。呼吸はしているのを確認し、時宗は息を吐く。
生きてて、よかった。
連れて帰らないと。大事な、家族なんだから。
時宗が人質になった時も、弥二郎は同じことを考えてくれたんだろうか。目の前で家族が撃たれるなんて、想像しただけで息ができなくなる。
弥二郎のこめかみに当てられたままの銃口を見据える。
自分の一瞬の判断ミスで、弥二郎の命は吹っ飛んでいく。目の、前で。
「こいつ殺されたくなきゃ、そこどけよ」
男の声は、突破口を見つけた希望をにじませていた。
「……舐めてんな」
時宗は静かに言った。
「お前が人質に取ってるのは、俺の家族だ。それがどういうことか、お前はわかってない」
淡々と、時宗は続けた。
「いいぜ。その引き金を引いてみろよ。お前は俺に、あらゆる拷問を許す理由を与えることになる。俺はお前に何をしても後悔する必要がなくなる。弥二郎を生きて放すなら、お前は生かしておいてやる。だが殺せば……そうだな。まずはお前の体を部下全員に押さえさせておいて、足の指を一本ずつ、『俺が』ペンチで潰してやる。
骨がメキメキ言うのは、きっと楽しいぞ? ゆっくり、時間をかけて、小指から潰す。その時の悲鳴を録音するのもいいな。お前の耳にそれを流してやろう。次にどんな痛みがくるかが先にわかるのは、いいな。足の次は、手だ。指を一本ずつ、反対側に、ゆっくり折ってやる。そうやって、いつまでも生かしておく。撃てよ。そうしたら、俺は、お前が生きたまま腐っていくのを楽しめる」
時宗の瞳に、男は吸い込まれていた。見開いた目が、深い恐怖に侵食されていくのを時宗は頭のどこかで冷静に観察していた。
誰も、動かなかった。時宗の本気に引きずり込まれた男が震え始める。引き金から指が離れ、銃口が力なく下りる。
「銃を床に置いて、こっちに寄こせ」
感情を込めないまま、時宗は言った。銃はごとりと床に置かれた。忌まわしい物のように、それがこちらへ向かって滑るように投げられる。
足先で受け止めると、時宗はかがんで拾い上げた。粉末火薬の普通の銃だ。無言で手の中のそれを眺め、構える。
「や、約束が違う……」
震える唇を見ながら、時宗は静かに立っていた。
俺は正しい。俺には、こいつを撃つ理由と権利がある。正しさを、俺は、こいつに教えてやりたい。心の、底から。
だが誘惑を、時宗は恥じた。銃を下ろし、時宗は部隊に命じた。
「こいつを拘束してください。義時、時頼と話します」
男の肩ががくりと落ちた。止まっていた時が動き始め、時宗はそばの者に銃を渡し、弥二郎を抱き上げるために足を踏み出した。




