Itinerary: 5日目 その3
マキとの通話を終えた時宗は、ジーンズから救出したメモのIDに通話をかけた。
呼び出し音が数回鳴ると、女性の声が応じた。
『はい……小林でございます』
考えを巡らせる。誰だっけ……そうだ、小林といえば、海斗を連れてくるよう依頼した八木沢壮の顧問弁護士だ。小林本人は現在行方不明となっている。この声は、その妻ということか。
わざわざ秘密のメモに、顧問弁護士の妻の個人ID?
「朝早くから大変申し訳ありません。私は南探偵事務所の南 時雄と申します。お仕事のことで、小林先生とお話ししたかったのですが」
まずは様子を伺う。
『探偵事務所の方? 何かわかったんですか?』
すがるような声だった。
「申し訳ありませんが、情報がこちらもないという状況でして。同じ事件のつながりだと思うのですが、こちらの所長も拉致されたことはご存知でしょうか」
『は、はい』
「それで、私の方でも何か情報を頂けないかと……」
『そう……なんですか……』
落胆の声に思わずもう一度謝りそうになったが、そうしてもいられない。
「現在、警察の方々に協力しつつ、私どもも全力で探しております。それで、お聞きしたいことがひとつ、ございまして」
『はい、なんでしょう』
「八木沢壮というお名前に心当たりはおありでしょうか?」
『え……八木沢 壮は私の父ですが』
は?
「あの、大変失礼ですが、奥様のお名前は?」
『私? 由美です……けど……』
どういうことだ?
「本当に申し訳ないのですが、お父様とお話しさせて頂くことは可能でしょうか?」
『いえ、父は肺晶で長く入院しておりまして。意識もありませんし、どなたかと話せる状況では……』
「奥様ご自身には、お姉様か妹様はいらっしゃいますか?」
『いいえ。私は一人娘です。弟はおりますが』
いきなり行き詰まりかよ。
「お父様のことで、ご主人から何かお聞きしていらっしゃいませんか?」
『そういえば……あの、父のことで何か問い合わせがあったら、関係ないと言っておけと』
やられた。
時宗は丁寧に謝罪し、何か新しいことがあれば共有すると約束して通話を終わらせた。
弥二郎め、秘密のメモの役割は梯子を外すことかよ。次から次へと。いい加減にしろ。
イライラしながら机上の大型端末に起動パスワードを打ち込む。
朝から頭を使っているせいで空腹感が募り、時宗は舌打ちをしたくなった。コーヒーも飲みたい。
そう思っていると、後ろでパサリと布団がめくれる音がした。振り向くと、海斗が起き上がって目をこすっている。
「お、起きたか?」
「起きた。時宗早いな」
「まぁ……」
世話して心配してもらったのだから、暑くて目が覚めたと言うのは気が引ける。
海斗が起きた気配に、敬樹ものっそり起き上がった。
「おはようございましゅ」
「おはよう」
目をしょぼしょぼさせながら、敬樹は大あくびをしている。
「夕べはありがとうな。俺をベッドに入れるまで大変だったろ? 二人とも寝てる間、暑くなかったか? なんなら寝汗を流してこい。今日は大変だぞ?」
時宗の声に、二人は同時にぱっちり目が覚めたようだった。
「そうだった。弥二郎さん!」
「連絡はまだ来てない。だが解決の方向性は見えてる」
「ほんとか?」「ほんとですか?」
本当かどうかじゃない。本当にするかどうかだ。たとえ何もわからなくても。
「ああ。だから先にお前らちゃんと起きろ。朝飯を食べたら行動開始だ」
時宗は身を乗り出し、机の向こうのカーテンを開けた。朝の光が部屋に満ち、敬樹と海斗は洗面所を使う順番のためにジャンケンを始めた。




