Itinerary: 5日目 その1
ぱちっと目を開け、時宗は天井を眺めた。
あっっっっつ!!
なんだこの暑さ。汗で体がべたべたする。なんで俺は自分のベッドなのにこんなに汗だくで狭いとこにはさまって寝てんだ?! 両側から、なんか知らんが滅茶苦茶締め上げられている。
外は明るくなっていて、カーテンから漏れた光が天井を薄く照らしていた。
一体全体、どうなってる?
首を動かして、時宗はやっと状況を理解した。
自分のベッドで寝てはいる。いるが、左から海斗がしがみつき、右から敬樹がしがみついている。シングルベッドでこの乗車率は、ラッシュの幹線列車もびっくりだ。
……なんで俺はこんなアホなこと考えてる?
二人分の体温がみっちりと肌を覆っていて、時宗は身動きもとれない。
記憶は昨日の風呂で途切れている。どうやら意識を失くしてから、ここまでしっかり二人に面倒をかけたらしい。ちゃんと寝間着を着ていて、髪も肌もバリバリではないところを見ると、大変丁寧にお世話して頂いたものとみえる。
俺は……すっ裸でトんだのか。
つらい。これは人生で多分一番つらい。風呂で溺れかけ、むせ込んで汚い顔をさらし、さらに意識をトばすというコンボを誰かの前でやらかすなんて、一生の不覚。
だが不思議と、恐怖も嫌悪感もなかった。かつてのような背筋を駆け上がるパニックもない。
溜息をつき、二人を見る。心配してくれたのだろう。二人とも、離すまいと必死な感じで時宗にくっついている。暑いせいか、海斗の眉間には皺が寄っていた。敬樹の方も時宗の腕を抱き締めたまま、少し寝苦しそうな顔をしている。
ありがたいんだが……暑い。
暑いだけじゃなく、同じ姿勢でずっといたせいで体がこわばっている。抜け出したいが、二人を起こしたくはない。困り果てて、時宗は海斗を見つめた。ふよふよの髪が、時宗の息に微かに揺れている。そういえば海斗の寝顔を見るのは二度目だということに、時宗は気づいた。アオモリではもっと暗かったから、そんなにはっきりは見ていないが。
眠っている海斗の顔は、しっとりした色気があった。けっこう睫毛が長くて、頬のラインがすっきりと綺麗だ。
そろそろと腕を抜き、ヘッドボードを手探りして暖房を切る。掛け布団を少しめくって風を入れると、時宗は天井を眺めて考え事を始めた。一応きちんと寝られたらしく、頭はちゃんと動いている。
今日はまず、弥二郎のメモにあった通話IDにあたるところから始めてみよう。
『じじい』という言い方が引っかかる。時宗にとって頑固なじじいと言えば自身の祖父しかいないのだが……果たして例のIDは誰が応じるのか。
次に、あの機械の動力源となっていた石と、海斗の母親。思い出しかけた会話について、もっと思い出さなければならないし、海斗自身にも話を聞かなければならない。この件はおそらく金銭的な遺産がどうこうではなく、あの石と機械、そして海斗の出生に絡んでいる。
さらに、あの機械の取引にかかわっているのは誰か、という問題。サッポロの組織はともかくとして、トウキョウ側は組織の裏にさらに誰かがいる。あれは単独で使えるものではないからだ。あそこから引き出された動力を何に使うつもりなのか。
受け取りの連中が機械の性質を詳しく知らなかったということは、連中自体も『使い捨て』である可能性はある。すべてを操っている者が必ずいる。真の『買い手』は誰か。少なくとも『買い手』は弥二郎を拉致する必要はない。機械と『カイト』の到着を待っていればよかったのだから。
それに、改めて考えると義時辺りは弥二郎と通話で直接話せるわけだから、拉致までやらかす必要はない気がする。あの義時の性格だと、通話で怒鳴るか、呼びつけて怒鳴るか……だがまぁ、自分のところに連れてくるよう部下に命令した可能性は、ある。
一方、タテバヤシで現れた黒い車は、「カイト」という名前だけ知っていた。この件にどう絡んでいるのだろう。そして、どうやって海斗と時宗、そして車を見つけたのだろう。管理局に介入してカメラを追ったとすれば、その技術力と装備を持った者がいる。どこに繋がっているのかは、辿る必要がある。
そして……肝心の弥二郎が、時宗を派遣した目的は。
弥二郎が、時宗に解決させるために狂言誘拐を企んだという線がちらりと頭をよぎったが、時宗はその可能性を一旦排除した。もし時宗を動かしたければ、弥二郎が自分で消えればいい話だ。誰かに拉致させるなんて、物事をややこしくするだけだ。
一体誰が、何のために弥二郎を拉致したのだろう。
首を動かして時計を見る。七時。今日の行動の計画を立てる。やることは多いんだ。自分の感情は脇に置いて、とにかく行動しないと。この案件の前に受け取った情報チップの解析もまだだし。そっちを先にやれば、何か新しいことがわかるかもしれない。
直接触っていないので確信は持てないが、もしあの機械についていた石が曾祖父の『遺産』だとすると、とにかく祖父に会わなければならないし。
とはいえ、それが一番面倒なんだがな。
深呼吸すると、時宗はそろそろと二人の間から抜け出した。




