Itinerary: 4日目 その10
タテバヤシのゲートから一時間後、二人はついにトウキョウに入った。田舎を突っ切る超高とは景色がまったく違う。せせこましい第二層空中道路の両脇にはネオンがぎっしりと並び、無数の目のような窓の灯りが車たちの川を見下ろしている。
道の脇に立ち上がる防音壁を、時宗は息苦しいと感じた。ホッカイドウの超高幹線道が懐かしい。トウキョウで生まれ育ったはずなのに、時宗はあの地平線まで続く白い平原に帰りたいと感じた。誰の靴跡もなく、しんと静かで厳しいあの大地に。凍死するのもまた自然の容赦ない選別作業なのだと突きつけられる場所で、時宗は海斗に出会った。
でも、感傷に浸る時間なんかない。ここは時宗が生きていかなければならない場所だ。
尾行はどうなっただろう。白い車は、海斗がどこに荷物を届けなければならないかを知っている。海斗の仕事を見届けるために、こちらへ飛ばしてきているはず。『届け先』もおそらく見張られている。
黒い車は、どこまでこちらのことを知っているのだろう。「カイトだろ」という質問は、どちらを意味している? 遺産騒動の方か、あるいは運び屋の仕事の方か。
最悪のことを考えて、時宗は暗い気分になった。弥二郎が拷問されたか、あるいは薬物でも盛られたかして、海斗のことを吐かされたのだとしたら。
あいつら全員、まとめて海に叩き込めないもんかね。
ここへ来て事態は混沌と化していた。一体、誰が何を追っているのか、誰が情報を漏らしたのか、誰が裏で糸を引いているのか、何と何がどう関係あるのか。
なんでもいい、誰か説明してくれ。
時宗はポケットのチョコレートを口に放り込み、無人売店での連中の様子を思い返していた。
白い車の出どころは、はっきりしている。ホッカイドウの海斗の雇い主。荷物の『売り手』だ。
黒い車は不明。ただ無人売店の駐車場で、連中はお互いにターゲットがかち合っていることに気づいたはずだ。あの頭の悪そうな連中なら、交渉は下手そうだ。喧嘩でもして相打ちで勝手にいなくなってくれないだろうか。
「そういえば、荷物を届けたっていうのは連絡するのか? まさか受け取りのサインお願いしま~すとかってやらないよな?」
「お前そのサムい感じのやつ、どやって思いつくんだ?」
海斗め。呆れた声出しやがって。
「いや、報告とかどうすんのかなって」
「サッポロに俺が通話する。受け取った奴も通話する。それでわかる」
なるほど。
「じゃあさ、通話した時にちょっと探ってみたらいいかもしれないな」
「探る?」
「あぁ。見た感じ、白い車の連中と黒い車の連中は知り合いじゃなかった。なのにターゲットである俺たちはどちらにも捕まらず逃走した。あいつらは、お互いを認識して『邪魔が入った』と思ったんじゃないか?」
「なる、ほど??」
「あいつらは仲良く並んでヘマをやった。どうせ下っ端だ。上に報告して怒鳴られるのは嫌に決まってる。連中は、あの駐車場で仲良く連絡先を交換したと思うか?」
「……取っ組み合いやったって方が信じられる」
「そういうことだ。黒い連中の目的が遺産がらみなのか、あるいは後ろの『荷物』の取り合いなのか……どっちなのかによっても違ってくるが、いずれにしてもターゲットがひとつである限り、連中はまた顔を合わせなきゃいけなくなる。うまく煽れば連中同士でやり合って勝手にいなくなるかも」
「どうやんだ?」
そろそろ超高幹線道が終わる。サッポロからトウキョウへ。列島の半分を縦断する長い長い旅はもうすぐ終わる。そしてそこから、時宗の闘いが始まる。ポケットからチョコを出して、時宗はもぐもぐ食べた。
「配達が終わって報告の通話を入れたときに、言ってやるんだ。新しい『後ろ』ができたって。あいつらは俺の存在を見ている。簡単に信じるだろう。で、そいつと組むからもう帰らないとお前が言ったら?」
「あ~、頭にくる。オレ殺して終わりにならない」
「はっきり言ってメンツ丸つぶれだ。うまくいけば、勝手に黒い車の連中を探そうと動いてくれる。問題は黒の方だな。あいつらの目的を掴まないことには、なんとも……何とか接触できれば、言いくるめてやるんだが」
「へ~」
「うまくいけばな。まずトウキョウで動いてる関係者を全員特定しないと」
無人売店で得たすべてのデータを敬樹に送る。警察が捜査してくれるはずだ。それで何が出てくるか。
もうあとは次の状況次第だな。事務所に帰れるのは何時になるだろうか。敬樹は今、眠れているのか。弥二郎のところに敬樹が来た時のことを思い出す。痩せて、ほとんど話さない少年だった。敬樹が悪夢に叫び声をあげるたびに、弥二郎は敬樹と一緒に寝てやっていた。
弥二郎は絶対に無傷で取り返してやるから。
あと少し。
弐陸改造型参はトンネルをくぐり、数分後、ついに超高幹線道を走り終え、第二層空中道路へと滑り出ていった。




