Itinerary: 4日目 その9
弐陸改造型参はトチギを突っ切り、ついにグンマに入った。冬の太陽はすでに沈み、道はひたすら夜の奥へ伸び続けている。少し冷えてきて、海斗はヒーターを強くした。
二人の間には、再び緊迫感が漂っている。途中の休憩所に入ってトイレを借り晶石バッテリーを補給したのだが、そこから再び、見張りの白い車が現れたのだ。
しかも、もう一台怪しい車がいた。こちらは黒くて大きい箱型だ。関係ない車を何台か挟んで、ずっとこちらを見ている気配がある。
「ここで超高下りないとなんないから、あいつら見張りを増やしたんだべか」
「どうだろうな……北から来たってより、トウキョウから出て待ち構えてたっていう可能性の方が高い気がする。どっちにしても、面倒だな……」
一体何事だろう? 時宗の中で、嫌な予感は膨らむばかりだった。
海斗の荷物の『売り手』がずっと見張って来ているなら、『買い手』が迎えに出る意味はないはずだ。一方、遺産がらみの方だとしても、時宗はそもそも海斗の車についての情報を弥二郎にさえ言っていない。
つまり、あの黒い車は正体不明ということになる。
不気味な黒い車は海斗がスピードを落として様子を見ても、動じなかった。大型車両の後ろにしばらく引き下がり、海斗が流れに復帰すると、同じように数台後ろに復帰してきている。
無関係だと思いたかったが、裏稼業にそこそこ慣れた二人の勘が一致している以上、用心に越したことはない。
車の量は増えていて、周囲も少しずつ、高い建築群になってきていた。商業地域の建物の壁には様々な店のネオンが敷き詰められ、一般道を流れる車の列が、幾筋もの川となって見えている。
「どうする?」
「とりあえず、タイヤは交換したい」
時宗は海斗の判断に任せることにした。車について自分は何も知らないし。
海斗はゲートから超高を降り、地上の第一層道路を少し走った後、無人売店の横から細い道へ曲がった。そこは工業地域であるらしく、配管がむき出しの古臭い工房や小さな工場がごちゃごちゃと並んでいる。
工場たちに隣接する住居区画は、サッポロのように広々としてはいないが、かといって高層建築がひしめきあっているわけでもない。古き良き十階建ての箱型建築が並び、トウキョウでいう第一層から第二層の人間たちが住んでいるようだった。
時宗は後ろを振り向いた。ついてくる車はいない。だが広い表通りを、黒い車が直進していった。海斗が緊張した声で訊く。
「ついてきてるか?」
「黒の方が来てる」
まずはあれを探った方がいいな。時宗は頭の中で自分の装備を確認した。何が使える?
海斗は無言のまま、目的の整備工房の敷地に車を入れた。
休憩所ですでに連絡してあったので、中から作業服姿の若い男が出てきて誘導してくれる。事務室からも四十代ぐらいの男が出てきた。
「こんばんは。いっつもすみません。今日ちょっと急いでるんで、タイヤ交換だけで……セッティングはいじんないで行きます」
車から降りながら、海斗は若い男に声をかけた。訳ありの海斗の事情を、この男も知っているのだろうか。時宗のことは、やはりいないものとして扱うというのが暗黙のルールらしい。
「タイヤ交換だけで大丈夫か?」
「う~ん、ちょっとアンダーが強くなってはきてるんだけど、とにかく今回は……時間ないんで」
時宗は、今野の肩を軽く叩き耳元で言った。
「すまん、通話してくる」
「わかった」
時宗は端末片手に建物を離れると、敷地の隅でさっと辺りを確認した。今のところ、こっちを見ている者はいない。
まず時宗は超小型カメラを鞄から出して、ジャケットの胸ポケットに取りつけた。一見するとボタンにしか見えない。操作が端末からできる便利なものだ。ポケットには録音機も入れる。
歩行箱で状況全体を録画して……と考えたところで、いないことをまた思い出す。
こんなに長い時間離れているのはそういえば初めてで、時宗は苦笑いした。もしかしたら、あいつが生涯の伴侶、なんつってな。旅の間ずっと、水が飲みたくて手を伸ばし、脱いだ温熱ジャケットを入れたくて手を伸ばし、いないことに何度も気づく。
気を取り直して、尾行の方に意識を向ける。
連中が工房の前を通れば運がいいんだが。
準備ができると、時宗は歩道に出て敬樹に通話した。呼び出し音二回で敬樹が出る。
『時宗さん今どこですか?』
敬樹は不安だったのだろう。泣きそうな声だった。
「今、タテバヤシってところだ。ここでの用事が終わったら、一時間と少しでトウキョウにたどりつく。あとは道の混み具合で変わってくるんだが、できるだけ早く……今日中にはそっちに行きたい。お前は今どんな状況だ?」
『警察の人たちは、事務所を調べ終わるまで、まだかかりそうです。犯人から連絡が来るかもっていうことで、今夜は事務所に何人か泊まり込んでくれるって。あと、ぼくは自分の部屋に戻ってきてます。こっちもリビングにお巡りさんが泊まって連絡待ちしてくれることになりました』
「ひとまずは心強いな。弥二郎か犯人から連絡は?」
『今のところないって言ってました。ぼく途中で具合悪くなって、病院で診てもらって、今自分の部屋で横になってるんです』
敬樹はかなり頑張っている。早く帰ってやりたいのだが、こちらも緊迫した状況になりつつある。
表通りとは反対側の共同住宅の陰から、黒い車がゆっくり出てきた。区画の中を一周してきたなと時宗は気づいた。
「ちょっと待ってくれ」
通話を切らないまま、端末をいじっているふりでカメラの角度を調整し、車が通り過ぎていく間に番号と運転席、助手席を連写する。
「敬樹。こっちを尾行している車がいる。その一台の番号を押さえた。顔は撮れてるかどうか……。そっちにデータ送るけど、受け取れるか?」
『あ、はい』
「そうか。受け取って、警察に渡してくれ。それと今回の依頼人に直接つながる通話IDとか見つけられないか?」
『事務所の端末も、こっちの端末も警察の人と一緒に探したんですけど、全然見つからないんです。弁護士さんもいないし……』
「そうか……俺の方でもちょっとツテを辿って探してみるけど……明日になるな。とにかく、弥二郎を助けるためには、ちゃんと寝て体力を温存しておくんだぞ」
『わかりました。時宗さん……』
敬樹の声が、か細くなる。
『気をつけて、早く帰ってきてくださいね』
「あぁ。俺のことは心配しなくていい。お前は弥二郎のために、自分を大事にしろ」
『わかりました。それじゃ』
通話を切ると、時宗はカメラの画像をもう一度確認しながら考え事を続けた。
二人で運んでいる荷物は、この事態に関係があるんだろうか。
それに今回の依頼人の正体ってのは、ほんとにただの引退した弁護士か? 荷物と依頼人には一切関係がないのか? あの黒い車の出どころは?
最悪の可能性は、何者かが海斗の顔か車の型についての情報を得て、それを管理局のデータと突き合わせて二人を見つけたという場合だ。管理局のシステムはセキュリティが厚い。あれを突破して超高幹線道のカメラに介入でき、こんな短時間で目的の顔か車を割り出すには、相当な腕が必要だ。そんな奴を相手にするには装備が足りない。
依頼人……弥二郎の昔馴染みね……。
弥二郎の人間関係を知っていそうな心当たりが一人いる。弥二郎の父親にして時宗の祖父だ。
ただ。
会うのがめんどくせぇぇ。
子どもの頃にはベタベタに可愛がってもらっていたのを覚えているのだが、祖父はとにかく偏屈だった。自分の長男、つまり時宗の父親に強引にグループの実権を取られたのがショックだったのかもしれない。時宗が初等三年の頃に引退宣言をして、さっさと自分の邸宅に引き籠ってしまっている。
この祖父、なにせ父親以上に性格がキツい。若い頃自分の家に強盗に入られた時には、自分で強盗どもをタコ殴りにして、人質にされた妻を助け出した過去がある。物事すべてまず己で解決せよ。
時宗の父親の性格が悪くなったのも、あの祖父のせいかと思えば一瞬同情しそうになる程度には、激しい性質だった。おかげで、祖父が曾祖父から受け継ぎ、心血注いで発展させた帝国──南条グループは決裂した自身の息子に潰されそうな勢いだ。部下や友人は引退した時に、すべて祖父の方から切ったという。わずかに次男の弥次郎だけが、かろうじて関係を保っている状態だ。
決めたことは頑として変えず、長男に当主の地位を奪われた後は、絶対にグループのことに口を出そうとはしない。時宗の母の懇願にも耳を貸さなかった。南条全体が危ないことは知っているだろうに、不気味に沈黙を守っている。
時宗の父親と兄は、最初のうちこそ祖父の存在にビクついていたのだが、一切何も言われないことで図に乗った。
ただ、それでも時宗は祖父のことを、憎めない存在だと思っていた。時宗が幼い頃、祖父は時宗にだけは優しかった。時宗を膝の上に載せて、舌足らずな話を真剣に聞いてくれたものだ。
一族の花見など、政財界の大物を招く大きな行事の時でさえ、祖父は時宗を膝に座らせていた。時宗は何も知らないまま、当時の政界や財界の大立者と話し、ちっちゃな指で折り紙の箱を折っては彼らに渡していた。
祖父とは、もう十年以上会っていない。初等を卒業した時に挨拶に行ったきりだ。その時、祖父は祝いだと言ってカラクリ箱をくれた。
今も鮮明に覚えている。それは、不思議な箱だった。蓋の中央には小さな晶石がはめ込まれていて、流れ出るエネルギーを指先で感じとりながら、あちこちを押したり回したりして回路をつなぎ、正解を見つけていく構造だ。
複雑な配線と配管をすべて理解して繋ぎ、エネルギーを滞りなく行き渡らせることで開く箱だった。大人の手の平ほどの大きさでありながら、世界のあらゆる道具に使われている晶石利用の技術の粋が集められていた。教育用であり、同時に美しい工芸品だった。
それを見た瞬間、時宗の脳は例の覚醒状態になったのだが、突然、兄の時頼がそれを横からひったくった。
祖父は烈火のごとく怒り、箱を兄から奪い返すと、兄をかばった父親もろとも屋敷から叩き出した。父親は、「時宗だけを贔屓にするなら、もう金輪際、父さんに時宗は会わせないからな」と怒鳴った。時宗は父親に引きずられて屋敷から連れ出され、祖父とはそれきりになってしまった。箱は、今も祖父が持っているのだろうか。
祖父から連絡が来たことはない。弥二郎が時々、様子を話してくれるだけだ。相変わらず自分で決めたルールを厳格に守っているそうな。就寝時間は夜の九時。それ以降は、たとえ身内が死のうと起きてこない。
タイヤ交換を終えて都心に入るまでを二時間と見ても、その時点で八時。荷物を下ろして逃走を図り、シブヤの事務所に行って弥二郎の事件に対応するなら、今日中に祖父の邸宅に行くのは無理だ。
弥次郎は今、どこでどんな目にあっているのか。
夜の空を眺めて、時宗は奥歯を噛みしめた。途方に暮れている暇はない。考えろ。今の状況がどうにもならないなら、どこに突破口があるか考えるんだ。
ひとまず時宗は工房の中に戻った。整備士が二人でタイヤ交換をきびきびやっている。海斗はその近くで、リフトに載せられ宙に浮いた愛車を不安そうに見ていた。
「あとどのぐらいかかる?」
時宗が聞くと、海斗は作業をしている整備士の手元を見た。
「アラインメントは今回ちょさねぇし、超特急でやってもらってっから……割と早い。あと……二十分ぐらい」
思ったより早いな。急げば……いや、どう考えても祖父の就寝時間には確実に間に合わない。
時計を見る。二十分か……その間に何ができるだろう。
尾行は二組。黒い車の番号はさっき押さえた。弥次郎が誘拐され、はっきり事件性がある以上、警察は即座に調べるはずだ。白い車の方の番号も記憶しているものの、できれば乗っている奴の顔まで欲しい。
トイレを借りて、周辺の地図を端末で見ながら待ち、残り十分程度になったところで、時宗は海斗に耳打ちした。
「ここに来る時、表通りの角に無人売店あったろ?」
「あぁ……」
「ちょっとあそこに行って尾行を探る。終わったら、すぐ迎えに来てくれるか?」
「わかった」
海斗を安心させるように軽く肩を叩き、時宗は整備工房を出た。
時宗の勘では、白い車はあの無人売店の駐車場にいる。周辺の地図を見てみたら、工房のある細道の先は他の幹線道路につながっていない。ぐるっと区画内を回ってあの表通りに戻るしかないのだ。
つまりあの無人売店で見張っている限り、海斗は逃げられない。海斗の「ルート」を知っているなら、この細道に入る必要はないのだ。一方、黒い車は離れたところからこの細道に入り、発見される危険を冒して整備工房を確認して行った。あの車は海斗の「ルート」を知らない。
細道を、時宗は小走りで抜けた。もし時宗の考えが正しいなら……。
無人売店の明るい駐車場に足を踏み入れたところで、時宗は声を上げそうになった。
やったぜ!
白い車どころか、黒い車もいる。この細道の構造を見て、出口で待っていれば大丈夫という結論に至ったのだろう。二台はお互いを知らないということも、ほぼ確定。バカどもめ、仲良く並んでのんびり売店の営業妨害しやがって、買い物ちゃんとしろ。
カメラはすでに長時間録画モードだ。
時宗は、わざと目立つようにキョロキョロ辺りを見回しながら売店に入った。強炭酸水をまずカゴに入れ、おにぎりとアンパン、それに小さなチョコもついでに買う。
変なローカルフードはないだろうか。
見た限りではわからず、時宗はとりあえずレジ端末に並んだ。
会計を済ませると、出てすぐに強炭酸水の蓋を開ける。一口だけ飲み、蓋を緩く閉める。
入口の横で、時宗はアンパンの封を切った。一口食べながら端末をいじる。
もちろんカメラ操作のためだ。体を動かして角度を調整し、白い車の番号と運転席、助手席を撮っていく。ズームにしてみたが、黒いフィルムのせいで、やはり乗っている人間の顔は見えなかった。
なんとか顔を見られないもんかね。
パンをむしゃむしゃやりながら、時宗は駐車場の状況を撮っていく。どっちかが手を出してこないだろうか。
油断しきってパンを食ってる時宗くん、今なら出血大サービスで誘拐し放題! 警備もいなけりゃ車もなし。南条財閥当主の御次男ですぜ。身代金は多分払ってもらえないけども。
そんなことを思いながら、時宗は大口を開けてアンパンにかぶりついた。張り込み中に食うのはアンパンっていうのはなんかで見たけど、張り込まれてる方がアンパン食ってるのはネタになるだろうか。
くだらないことを考えている目の前で、意を決したように黒い車のエンジンがかかった。助手席が開き、中から三十代ぐらいの男が降りてくる。後部座席にもいるなと時宗は踏んだ。とっさにポケットに手を入れ、録音機のボタンを押す。
財閥の御曹司を舐めんなよ。誘拐されたことぐらいあるわい。最後のあれだけじゃなく、未遂なら五回は経験済みだ。降りてきた男が時宗を押さえ込み、後部座席の男がドアを開けて引っ張り込む手筈だ。
おかげさまで、異常事態に何も感じなくなってしまったのを、ありがたく思う。すべての光景が他人事のように流れていく、この症状は本来は良くないのだろうが、仕事では役に立つ。
それでも、あれ以来時宗は自分を誰かに好き勝手されないために、鍛えてきた。格闘技を練習し、銃を習い……。
「おいお前」
男が時宗に向かって声を上げた。絶妙に趣味の悪いストライプのスーツ、手入れの悪いクロコダイル型押しの靴。まったく服装がなってない。精神衛生の欠けた奴がかっこつけんな。
おそらく反社会組織の下っ端だ。どうせ普段は上にドヤされておどおどしてるくせに、いっちょまえに時宗を脅す気満々。肩をいからせた歩き方が安っぽいんだよ。重心もなってない。あんなん、ちょっとつっついたら転がせる。
声をかけられたのに気づかぬふりで、時宗はアンパンをもこもこ頬張り続けた。
「おい」
イラついた調子で男が再び声を出す。黒い車がゆっくりと動き始めた。その向こうで白い車もエンジンをかける。黒い車が自分たちと同じ奴をターゲットにしていることに気づいたらしい。
「はい?」
きょとんとした顔で、時宗は近づく男の顔を見た。もちろん左手の端末でカメラをズームし、顔を録画している。
「お前、カイトか?」
自分には関係ないとばかりに、時宗は再びアンパンに口をつけた。
「おい! カイトだろって聞いてんだ」
「はぁ……何なんですか?……」
戸惑い全開、人の好さそうな必殺のボンクラ顔で、時宗は男を見返した。えぇ~? 何の話ですか? 今のボクは南時雄っていう通りすがりのしがない好青年なんです。
時宗は用心して端末をポケットにしまった。格闘になった時に端末を吹っ飛ばすのは致命的にマズい。
「トボけんな。こっちは知ってんだぞ」
「はぁ」
鈍い反応しかしない時宗に、相手のイライラが膨れてきているのがわかる。シュミの悪い靴先が動く。後ろの黒い車が駐車場の中で半端に止まり、道路からの視界を遮った。
白い車が、ゆっくりと黒い車の後ろから姿を現わす。成り行きを見ている。二台とも、いつでも走り出せる状態だ。
海斗! まだか?!
時宗は心の中でわめいた。タイミングが合わなきゃマジで生き別れだ。早く来てくれ。前倒しで友だちに採用してくれたんだろうが!
黒い車の後部ドアが小さくカチャリと鳴った。やばいやばい。
その時、低いエンジン音が聞こえた。細道からだ。
来た!!
時宗は動いた。男に足払いをかけて一瞬でひっくり返す。開いた後部座席に炭酸水を投げこみ、身を翻して黒い車の前に飛び出る。手の平を広げ、必要以上に大きく車を叩くと、ぶつかってよろけたふりで白い車のボンネットの上に倒れ込み、カメラアングルを運転席と助手席に合わせ込む。
焦ったのだろう、白い車の助手席が開いた。男が顔を突き出し「バカ野郎!」と怒鳴っている。引っかかったな、バカはお前だ!! そいつの顔をカメラに収めると、時宗は地面に降り立ち海斗の車に向かって走った。
海斗の運転は見事だった。細道から状況が見えた瞬間、海斗はアクセル全開で駐車場に突入した。甲高いタイヤの音。スピンするように車の向きを一気に変える。どんぴしゃり時宗の目の前に助手席のドアがある。
時宗が車に飛び込むと同時に、海斗は表通りに走り出た。一時停止していないくせに、周囲のすべての車の動きを見切った、鮮やかな侵入で車線に乗る。周りが全員止まって見える。弐陸改造型参は滑らかに加速していく。ギアチェンジに乱れはない。エンジン音が綺麗に高くなっていき、エクスタシーを感じる瞬間にギアが上がる。
「時宗! 怪我してねぇか?!」
「あれはトリックだ。灯りのおかげで運転手の顔も撮れた。大成功だ」
「お前……ヒヤヒヤさせんな!」
泣きそうな声で海斗が怒っている。白い車のボンネットに乗り上げたのが事故に見えたのだろう。
「俺はなんともない。詳しい話は説明してやるから、とりあえず超高に戻ろうぜ」
「わかった。わかったけどお前ほんとに怪我してねんだな?!」
「めっちゃ本気で心配してくれてる?」
「あったりまえだ! ここで死んだらどうすんだアホタレ!!」
友だち認定はしてもらえたが、逆にアホタレ認定はまだ解除されていないのか。時宗くん頑張りましたよ? かっこいい身のこなし見てました? ……まぁ、事故に見せるような動き方しか見てなきゃ心配だわな。
海斗の心からの心配顔に、悪いことをしたなと思うと同時にくすぐったくなる。
「心配させて悪かった。全員の顔を撮るために狙って動いたんだ。ちなみに俺、空手は一応三段」
海斗は少しほっとした顔になった。
「そういうのは早く言え。あと、なんか計画してんなら先にちゃんと言え」
「次からそうする。ツナマヨのおにぎり食うか?」
「……食う。まったく……」
意気揚々とおにぎりのフィルムをむき始めた時宗を乗せ、海斗は再び超高の入口へと車を駆った。




