Itinerary: 3日目 その9
今野の言ったことは当たった。
退屈を持て余し、腹を空かせていた時宗は、トンネル進入の時間が来る前にすべて平らげてしまったのだ。
さすがに、今野が書類を持って進入手続きに行くのにはついていった。自分の通行料を支払うだけでなく、あわよくばIDの名義を見てやろうと思ったのだ。だが今野が露骨に嫌な顔をしたので、結局のぞくのは諦めた。
手続きを終えてから自分たちの進入予約時間までの間は三十分以上あって、時宗はその間、待機場の車の中で、ほとんどしゃべらずに買ったものをひたすら食べていた。
人気ナンバーワンとかいうチキンバーガーは思っていたより大きく、めちゃくちゃにうまかった。甘辛の唐揚げとマヨネーズなんて、誰が発明したんだ? しかも唐揚げは三個も挟まっている。マジか。醤油もきいてて最高。
ホワイトソースとミートソースがかかったポテトも一瞬でなくなり、オリジナルの炭酸飲料を飲みながら、時宗はオムライスを最後にもこもこ食べていた。もう腹がいっぱいだったが、それでも、泣きたくなるほどそれはうまかった。ふわふわで分厚い卵のボリュームが半端じゃない。
「んまいべ?」
「んまい」
先に自分の買ったものを食べ終えた今野は、ハンドルに頬杖をつき、時宗の食べっぷりを面白そうな顔で見ている。
「店によってもメニューちょっと違うんだ。カツ丼あったりする」
「なんでハンバーガー屋にカツ丼?」
「わかんねぇけど、面白いし、うまいならいんでねぇか?」
確かに。
缶に残った炭酸をちびちび飲みながら、時宗は満足して息を吐いた。トンネルを抜けるのに四時間? 次に俺は何をすりゃいいんだろう。
でも、おいしかった。それでいいじゃないか。
雪の中で煌めく誘導灯を見ながら、時宗はくつろいだ気分だった。
「……うまかった。それに……楽しかった」
ぽつりと言う。正直、誰かとこうやってはしゃいだ記憶は時宗にはほとんどない。自分はいつもひとりだった。子どもの頃から、自分に近づいてくる人間はみんな自分の『家』が目当てだったし、やんちゃな子どもは教育上よろしくないとかで、時宗の周囲から排除された。
あぁ、いや……それは思い出す価値はない。孤独について文句を言うべきじゃない。
それは自分の『家』のことを考えれば仕方のないことだった。家庭教師は何人もいたが、父親の要求を満たすことは決してなく、時宗が親しくなる暇は一度もなかった。母親が出ていったのは初等五年の時だ。
両親の離婚の後、時宗がまともに食事できるようになったのは、弥二郎と住むようになってからだった。
ごく普通に味を感じられるようになって、今年で何年目だろう?
今この車の中で、時宗は胃袋がはちきれそうになるまで夢中で物を食べた。今野と一緒にあれこれ話しながら食べ物を選ぶことが楽しかった。昼飯のラーメンも、考えてみれば普通に残さず食べられたのだ。
今野がふと言う。
「お前が超高で退屈そうだったから、びっくりさせてやろうと思ったんだけども……。ほんとにびっくりして楽しそうにしてくれるのって、いいもんだな。……考えたら、この仕事始めてから誰かと一緒に飯食ったの、お前が初めてな気がする」
時宗は今野の目を見た。
優しくて哀しい。吸い込まれるほど綺麗な目だ、と時宗は思った。真夜中の街灯の下で舞ってる雪みたいだ。
トンネル進入の順番が来て、前の車のブレーキランプが二人を赤く照らした。今野は室内灯を消し、自分のゴミを袋にまとめて後部に放り出すとエンジンをかけた。
なぁ今野。お前を縛っているものも俺を縛っているものも、みんな断ち切って、どこかでのんびり一緒に飯を食わないか?
外の灯りに浮かび上がる今野の横顔を眺めながら、時宗はそんなことを想った。二人を乗せた弐陸改造型参は、冬の海峡の下へと潜っていった。




