Itinerary: 3日目 その8
時折うとうとしながら退屈に耐えて、車はオーヌマからさらに南下し、ハコダテに入った。雪が道の脇にけっこう積もり、その奥に低い建物が並んでいるせいで全然街という感じがしない。シールドがかかっている区域はサッポロより狭いらしく、かなり遠くにちらりと見えるだけだった。おかげで、自分が街の中心部を走っているのかそうでないのか、時宗には何とも判断がつかなかった。
日はとっくの昔に暮れている。そろそろ夕食の時間だった。
「なぁ、晩飯ってどうすんだ?」
時宗の問いに、今野は道の先を指差した。目的地が一応あるらしい。
「あっこ」
「ハンバーガーか?」
地上看板が見えたのでそう聞くと、今野はちらりと時宗を見た。
「ハコダテだぞ?」
いや……ハコダテだからなんなんだ。おい天下の世界チェーン店を素通りしたぞ?
まぁ今野の方が土地勘はあるんだ。何が出てくるのか待ってみるか。
今野はしばらく走り、よくわからない店の駐車場に入った。
ラッキークラウン? 労働者用の店かなんかか? 入口にはケバケバしい服を着た、おかしな人形が立っている。接客機のどれかの型を改造しているらしく、そいつは客に向かって恭しくお辞儀をしては、にっこりと手を振っている。
何の説明もないまま、今野は車を止め、店に向かって歩き出した。心なしか足取りが軽い。きれいに除雪された駐車場は昼間と同じぐらい明るく照らされていて、時宗は足元を気にせず、小走りでついていった。
入ってみると、店の中もさっぱりわからなかった。変な店、ということだけはわかる。壁には古い写真が一面に並んでいて、壁紙はド派手だ。注文する客でカウンターの前はごった返している。実際、この街のすべての住人が集結しているのではないかと思うほど人が多いし、トレイを載せた歩行箱まで膝下をウロチョロしていて、もう何が何だかわからない。
一体全体、この混み具合はどうなってる? ちょっと変わってはいるが、要は普通のレストランなんだろう?
「おい頼むから説明してくれ」
澄ました顔で列に並んでいる今野に、時宗は耐えかねて聞いた。その間にも、料理で山もりのトレイを持った家族連れが、会話を遮っていく。
「ラッキークラウン」
「うんそれは看板でわかった。それが何なのかを聞いてる」
「ハンバーガー屋だ。ハコダテにしかねんだ」
「……なるほど」
ローカルフードらしい。
「どれがうまいんだ?」
「チキンバーガー買う。あとポテト」
「ふ~ん」
生返事だけして周囲を見渡す。奥の座席に運ばれていく料理に、時宗は目を丸くした。
「おい……オムライスでかくないか? ていうか、なんでハンバーガー屋にオムライスがあるんだ?」
「買ってみたらいんでないか?」
「席、空いてるかな」
「トンネル予約の時間あるからだめだ。持ってく」
「えぇ……だめか」
メニュー表を見上げる。なんだあの充実した一覧? じっと見ていると、どんどん目移りしてくる。口が止まらない。
「なぁチキンバーガーってどのぐらいの大きさだ? 松とか竹とかってどう違う? オムライスも買ったら多すぎると思うか? あ……でもカレーもめちゃくちゃうまそう……ガラナってなんだ?」
「お前、自分だって仕事だって偉そうに言ってたべ」
「……」
そうだった。退屈してたから、思わずテンション上がった……。頬に血が上がるのを感じる。今野が噴き出した。
「お前、いいふりこきで何様かと思ってたら、割とめんこいとこあんな」
「なっ?!」
かぁっと顔が熱くなる。
「は、初めてハコダテに来たんだ、ちょっと観光気分出したっていいだろ」
ひとしきりクスクス笑った今野は、派手なコーナーを指差した。
「お土産んとこにレトルトカレーあるし、色々買える。車だから、ちょっと荷物増えても大丈夫だ。いっぱい買っとけ」
「すげぇな。グッズとかあるのか? あっでもポテトチップス、敬樹に買ってってやろう……弥二郎は……ていうかお金持ちクッキーってなんだよ」
今野はまた笑い出した。目がきゅっと細くなり、ほころんだ口元が本当に楽しそうだ。
「並んで注文しといてやっから、見てくればいんでねぇか?」
「ほんとか? あっでも注文するのもなんか面白そう」
「しょうがねぇな。注文終わったら、お土産コーナー見に行けばいい」
「わかった」
時宗は今野と一緒に、あれこれ店員に聞きながら注文を楽しんだ。チキンバーガーのチーズ入りが松、ということらしい。ポテト、オリジナルの缶飲料、それにオムライスまでテイクアウトで注文し、お土産をしこたま買い込んだ時宗は、大荷物を持って意気揚々と車に戻った。
「トンネルに入ってる間、退屈しないなこれ」
「まぁ……待機場で順番待ってる間に食べ終わるんでないか?」
「そうか?」
温かい料理を膝に乗せ、漂う香りにうっとりする。
今野は慣れた様子でハコダテの街を抜け、車はトンネルの待機場に入っていった。




