(8)覚醒
報告の通り、統率は取れていなさそうだった。
向かってきた魔物は、種類もバラバラで、向かってくる数が右からは固まり、左からは点々と、といった形で何も法則性がない。
「来ます!」
最前線の僕はそう叫んだ。あと十秒ほど数えるとぶつかるところで。
「えい!」
固まりで来た魔物の群れの前に魔法壁を出した。勢いよく走ってきた魔物達はぶつかり、後続の魔物も止まった魔物にぶつかり、その後ろも連鎖する。そこで僕は魔法壁を消す。すると、あとは連鎖的に魔物の群れが倒れた。
この魔物の群れは、子鬼や二足歩行の小さな獣だった。比較的弱そうな部類だ。固まりで来たのは統率されてきたというわけではなく群れる習性があるからだろう。
それを見たガディアスさんが号令を出し、近接武器を手にした人たちが一斉に向かった。僕はその人達に魔力を分ける。
僕とガディアスさんは点で来た強そうな魔物を対処した。
「いけるか!?」
「大丈夫です!」
鬼や俊敏な獣、小竜などだ。以前の僕なら、即、殴られたり食い千切られたりして、相手の腹が満たされるのを待つしかなかった相手だ。
動きが見える。ガディアスさんが繰り出す本気の突きに比べたら、ゆっくりと見える。
特に、鬼は対処がしやすい。人型だからだ。訓練相手が人間だったため、一番動きが分かりやすい。
不思議と意識が透明になるのを感じる。すう……と動きの流れというものに乗れる。その流れは軌道のようだ。僕はそれを辿り剣を滑らせる。それを思い描くだけ、という感じだ。
すべてが繋がっていくような。
幾度も、幾度も、ものを生み出し、その形を思い描いてきた。見たことがないものすら生み出した。
それと同じように、流れを生み出しているような気がする。見えないそれも見えるようになった。
「よし! いけるな!」
「はい!」
それに、一人じゃない。だから怖くない。
僕は今まで一人だった。村人たちに武器を取らせたことはあったけど、こうして、訓練を重ね、皆で戦うと意思を持って立ち向かったのは初めてだ。
そして英雄ともいえる人と、ともに戦っている。心強い。
第一波は防いだと見ていい。
そこから漏れたものと、第二波が砦へ向かっていく。
意図的に投入された隊ではなさそうなので、第二波というか、遅れてやってきただけのものだろう。相変わらず、群れる習性のある魔物は固まりで来るし、そうでない魔物は四方を駆け回る。
僕はなるべく点在する魔物の方へ駆け、それを引きつけ、事前に決めてあった地点まで引っ張っていった。そして、群れる魔物と合流させる。
「ここです!」
僕は剣を掲げ合図をする。
そして、砦から矢や石が飛んでくる。それに対し僕は魔力を付与し威力を高める。そうしつつも僕はその場から離れずに駆け回り、魔物を引きつけつつ、倒せるものは倒し続けた。
ドドドドドド!
矢と石の雨が魔物の群れに降り注ぎ、潰し、刺さり、血溜まりが地面に生まれた。
「まだです!」
僕は剣を掲げ、追撃を促した。
魔物は僕へ向かってくるので離れない。
「あとは防衛を!」
砦へ向かおうとした一群を一層し終えると、僕はそう指示した。ここでの指示は、事前に打ち合わせ、ガディアスさんに教わったものだった。ここに立つのは僕しかできない。
——矢と石の雨の中、立ち続けるから
僕は魔力壁でそれらを弾いていた。敵もろとも撃ち抜けと指示していたのだ。
最後まで立ち続けた僕の姿を見た人たちは、歓声を上げた。これはあとで奇跡だと讃えられた。
僕は駆ける。息が切れても、追いかけてくるように失われた体力が復活する。重くなった腕もスッと軽くなる。そのたび、ゴウと一瞬燃えるような感覚がある。きっと目も橙に光り、炉が発動しているのだろう。
意識せずとも発動する。
……死ぬことも、倒れることも許されないかのように。
比較的弱めの部類の魔物を対処していた、近接武器を手にしていた人たちへ再び魔力を配る。
矢と石の雨の中へ立つにあたって、意識をそこへ集中させていたので、一度他方への魔力供給を断っていたのである。僕はまだ未熟なので、意識の分配先を都度選ぶことにしていた。
「よくやった! ここはまだ保ってる!」
「はい! ありがとうございます!」
この場の指揮はガディアスさんがしていた。見渡すと、大きな被害は出ていなそうでよかった。でも、かなり負傷している人がいる。僕が魔力を配ると、その人達も立ち上がるが、辛そうで心が痛んだ。
「大丈夫です! まだやれます! 頑張りましょう!」
それでも皆を奮い立たせようと、僕は声を上げた。すると、魔力を再び配ったことも相俟って、皆、僕の檄と呼応して沸き立った。
……一瞬、背がぞくりとした。
高揚が確かにある。だけど、これはしてもいいことなのだろうかと。
……死体を立たせているようなものでは?
「……っ」
頭の中に、動く死体となって襲ってきた父さんと母さんの姿がよぎった。
「イクタ殿?」
ガディアスさんが声を掛けてくる。僕ははっとしてそれを振り払った。
「なんでもありません! いきましょう」
「ああ」
そして、小竜の中でも大型の竜が現れた。
「……魔王か?」
「いや、どうでしょう?」
これまでの敵に比べて強かった。だが、到底敵わないような威圧感はない。
「やれるか!?」
「はい!」
これは、ガディアスさんと連携して対処することにした。
「させるか!」
竜は大口を開け、火炎を吐く。頭を振り勢いを付け、一帯を焼かんとする動きをした。僕は長城のような魔力壁を出し、皆の元へ届くのを止めた。それでも熱だけが貫通してくるかのようで熱い。
炎が残像のように残る中、間髪入れず尻尾を振り、その重量で勢いを付け、威力を高め攻撃してくる。これは魔力壁で弾けない。威力を減衰させる程度だ。
「下がれ、下がれ!」
ガディアスさんが、僕たち以外の人を下げさせた。もはや常人では対処不可能だからだ。
「皆さんは砦の方へ向かってください!」
魔力の分配も厳しくなる。立ち上がらせた人へ、動ける力があるうちに避難してもらおうと思った。
そうして、皆、弱めの魔物を対処しながら下がっていった。
「いくぞ」
「はい」
僕とガディアスさんは竜へ向かい、集中して対峙した。
ガディアスさんが竜を引きつける形になる。打ち合わせなどはないが、自然とそうしていた。これは、僕がなんらかの方法で打開しなくてはならないということだ。
竜はガディアスさんの身長より一回り高い。質量としては騎馬三体分くらいだ。これを正面から両断するには、どうしたらいいのだろう。少なくとも自分にも高さがないと断つことが難しい。
——高さ
出せるのではないか?
僕は咄嗟に、魔力壁を階段状に出して、その上を駆けた。
「だぁりゃっ!!」
そして、竜の頭上へ駆けあがり、剣を両手で強く握りしめ、上から斬りかかった。剣にも魔力を纏わせ、竜の鱗すら貫く、と思い描いた。すると、竜の頭が両断された。
首だけになった竜から血が噴き出す。地に降りた僕はそれを頭から浴びた。
手でそれを振り払い、目を開ける。カッと体と目が熱くなった気がする。きっとまた炉が燃えた。
一瞬、戦場が静まり返る。
魔物達が首がなくなり血を噴き上げる竜と、僕を目にする。
僕は瞬きもせず魔物達を捉えた。
すると、魔物達はギャギャ、と声を漏らし、それを伝染させ、後退り、一斉に逃げ出した。散り散りに、恐怖のまま。
——のちに、僕のそれが魔王のものと似ていたことが分かる。




