(6)燃える薪
結局、これで物資がいつの間にか足りなくなる問題は解決したということだ。
「イクタ君、君はエラいねぇ。そんな力を持ったら一生遊んで暮らせるのに。無料配布か」
「僕は……、みんなの役に立てれば……」
「今は有事だ。この状況を打破せねば流通どころではない」
セドラさんが歯に衣も着せず、正直な感想を口にした。言われてみればそうである。だが、ガディアスさんがそれを否定する。それもまた正論だと思う。
「まぁな。人が減れば金というものに価値はなくなる。まずはそれをなんとかしなきゃ金持ちになんてなれねえ。おまえさんがいればメシだけは食えるかもしれんが、人間ってやつはそれだけじゃ生きる意味もねえ」
そう言い、セドラさんは物入れから何かを取り出し口にくわえる。
「火、出せるか? 小さいやつちょっと出してみろ」
「はい」
そう問われたので、思わず指先に火を出した。
「サンキュ」
軽く礼を言うと、セドラさんは口にくわえたそれを僕が出した火に付けた。
「っかぁ~。うまい」
「えっ!?」
見たことがないものだった。紙で何かを巻いたようなものだ。火を付けると煙が出て、セドラさんはそれを吸う。とても美味しそうに吸っていた。
「クク、吸うか?」
「いいんです?」
「馬鹿者!!」
「いて!」
ガディアスさんがセドラさんの頭を殴った。そして僕をセドラさんから遠ざけた。
「子供に煙草を吸わせるな! そもそもそんなものを教えるな!!」
「は~~っ、おまえさんいくつ?」
「十七です」
「大人じゃねえか。うん、もうだいたい大人」
「そういう問題ではない!」
「ハハ、このおっさんうるせえからまたな」
「貴様……」
それは煙草というものだった。村では見たことがなかった。セドラさんにそれを言うと、それが流通していないということは結構な辺境だと言われた。これは、酒のような嗜好品ということだ。さすがに、僕の村でも酒はあった。
——父さんといつか、酒を酌み交わす約束をしたことがあった。
「父さんにもまだ、おまえには早い、って言われたな」
煙草の話で思い出した。酒の話をした。ガディアスさんが神妙な顔をした。
「……平和が訪れたら、私と、どうだ」
「はい!」
また新たな約束が生まれた。僕は絶対に生き残り、それを果たそうと思った。
「おぉ、感動的だねえ。俺が美味い酒を寄こしてやろう」
「要らん!」
セドラさんがひゅう、と口笛を吹き、からかうような口調でそう言うと、ガディアスさんは少し顔を赤くして断った。
なんか、くすぐったい。僕は胸の奥が温かくなるのを感じた。
「結局、貴様はついて回るのか……」
「今一番、商売のタネになりそうなところだからな。安心しろ、もう無断で拝借したりしない」
「セドラさんも手伝ってくれるんですね」
「ああ、馬とか手配してやるよ。生成できねえんだろ」
「お願いします」
セドラさんへ物資を提供する対価として、運搬用の動物を手配してもらうことになった。これで物資の配送の効率が上がる。その点はガディアスさんも納得したのだった。
◇◇◇◇◇
セドラさんが加わり、自警団の供給活動が捗るようになった。
僕の訓練も段階が進んできた。炉の力を解禁し、型で身につけた動きに乗せ、加速させるという実戦的な訓練を開始した。
「やぁっ! たあっ!」
「ふん! む……っ!」
炉の力を解禁すると、一気に世界が変わる。この国にて最高位の武人であるガディアスさんと互角の動きができるようになる。
「やっぱり、神様から授かった炉の力ですから」
「いや、貴殿の鍛錬の賜物だ。それは使い方を引き出してこそだと思う」
僕は、神様からの賜物を使ったから互角の動きができると思った。本来なら十年修行しても、一生掛かっても追いつかないと思う。だけど、ガディアスさんは僕の努力があってこそと言ってくれた。
「……というか、すでに貴殿は途方もないことをしている」
「え?」
「一人で魔物の襲撃から村を守ったときの話を聞いたが」
「はい」
「村人へ魔力で力を分配しながら、魔力壁を出し、自らも戦線に加わるということをしていただろう」
「はい」
「……それは、とんでもない負荷だ」
「いえ、力は無限なので……」
僕はいくらでも力を出せるということで、必要なだけ力を分け、渡して戦っていた。
「いや、集中力の問題だ」
「え……?」
「他方へ気を向けながら己は目の前の戦いに集中するというのは、達人でも難しい」
そう言われてみれば、そうだと思った。ガディアスさんとの打ち合いにだけ集中したこの訓練の方が楽に感じていた。
「……正直、こんな無法な力に何も代償がないというのは怖く感じる」
「……」
ガディアスさんのその指摘に僕は息を飲んだ。
「まあ、使用者の集中力は使用者依存のようだな。それが制限といえばそうか」
「そ、そうだと思います。言われたとおり、ガディアスさんとの打ち合いにだけ集中した今の方が楽です!」
——代償
それは考えなくはなかった。何かないとおかしい。何かを失うこともなく無限に力も物も湧く。神のごとき力だ。そんな力をただの人間が使っていいものなのだろうか。
……僕は、すでに失っているではないか。
そうだ。僕はすでに失っている。父さんも、母さんも、妹も。友達も。好きだった人も。みんな。生まれ育った場所も。
もしかして、僕自身も——
僕は、みんなの命を燃やして力と物に変えているのだろうか?
『無限炉』とは、何だ? 薪は……一体何だ?
「……大丈夫です。僕が鍛えればあちこちに気を回せて、みんなに滞りなく力を分けられると思います」
……僕が耐えれば世界が回る。
炉の力を使った日の夜に必ず悪夢を見る。ただ悪夢を見るだけだ。あんなことがあったから、悪夢を見るのは当然だろう。
——僕は、夢の中で何度も母さんに殺されていた。




