(5)闇商人
魔王が襲撃した村と、そうでない村がある。
僕の生まれ育ったハルン村は魔王に襲撃された村であると、ガディアスさんは言った。
僕の手で助けて回った村は、魔王が襲撃した村ではなかった。獣の死骸が魔物化したものなどが襲撃してきた。
推測と言っていたが、魔王の活動にともない、そういった魔物が発生したとのことだ。そう言われてみると、ハルン村で暮らしていたときに魔物と遭遇してこなかったのと時期が一致するのが分かる。
ハルン村の惨状をガディアスさんに話すと、魔王に襲われたと思われる村の特徴と一致していた。ガディアスさん達は、調査していくうちにその特徴を掴んだという。
だが、そういった状況証拠のみで、実際の魔王を目撃したという情報がなかなか掴めない。何しろ、魔王に襲撃された村に住んでいた人々は皆、生きていないのだから。僕も目撃はしていなかった。そして、例外的に不可思議な現象により生き残った。
——生き残った?
生き残ったのか、死に戻ったのかはよく分からない。
母さんに首を絞められて意識を失った時、僕は死んだと思った。
……あれは、悪い夢だと思った。
◇◇◇◇◇
本格的に自警団の活動を開始するにあたり、近くで市が立つ比較的大きな集落を拠点にすることにした。
「剣を三十本、槍を五十本、重量は軽めに」
「はい」
ガディアスさんが組んだ計画通り、僕は物資を生み出す。
それを運ぶ荷台も生み出す。
「さすがに生物は生み出せないみたいです」
運搬用の動物を生み出せると良かったのだが、どうやら生物は生み出せないようだ。
「いい。力自慢にコツコツと運ばせる。荷台があるだけ上等だ」
生み出した物資は荷台に載せて周辺の村々へ運ばれていく。
ガディアスさんが稽古を付け、僕が生み出した武具を身につけた人が護衛に付く。
そんな割り振りで、地道に物資を配分していった。
「それにしても、よかったです。食べ物も、武器も、不自由しない」
「ああ。貴殿に頼り切りだが、今は仕方ない」
「大丈夫ですよ、無限なんですから。みんな、おなかいっぱい食べられたら……」
魔物との戦いはまだ慣れきっていないが、物資を生み出すのは確実にできる。そして、足りないものを満たすということは、満ち足りることであった。
「おぉ……、これが救世主さまの御業……」
僕たちの活動が知られていき、差し迫った場面に遭遇せずとも僕の力を不可解、不気味に思う人も少なくなっていった。そして、こうして興味を持って見に来る人が現れるようになった。
「ありがたや……ありがたや……」
直接、食糧や物資を手にしに来る人が増えた。その場で食べ、もう一度列に並びまた手にする人もいた。
さすがにきりがない、ということでガディアスさんがそんな人たちを遠ざけるようになった。
「まだ、もっと、たくさん出しても大丈夫ですよ? みんな、すごくおなかがすいて……」
「……限度がある。魔王が破壊活動をする前より食っているのではないか」
「あっ、はい……」
「今は有事だが、タダ飯食らいの域に入っている」
働かざる者は食うべからず、とは村でもよく聞いた言葉だ。確かに、ここまでするのは良くないのかもしれない。
「周辺の人数は把握している。その分の定量の蓄えはすでに揃えた。貴殿の仕事はとりあえず終わりだ」
「そうですか。まだできることがあったら知らせてください」
何かしていなければ落ち着かなかった。
そして、確実にできることをしている間、僕はそれに集中できた。
……一度、無力なまま死んだと思ったから。
僕は、何かをしていないといけない。できる力を授かったのだから。
……何かをしている間は、忘れられる。
◇◇◇◇◇
「すまない、あともう少し生成してくれないか」
「はい。やります」
ある日、物資を一定の量、生成した後、ガディアスさんからそう依頼された。
「おかしい。数は確かめたはずだが」
「そうなんです? でも、大丈夫ですよ。いくらでも出しますのでまた言ってください」
「ああ……」
僕が不足分を生成すれば済む話だと思った。だが、ガディアスさんは腑に落ちない様子であった。
戦闘訓練も物資の生成も終えると時間ができる。僕は気分転換に集落を歩いて回り、自分で生み出した物資の山をぼーっと見つめた。
思えば不可思議な力である。無から無限に物資を生み出せるのだ。理屈を考えても分かるはずがない。ただ、できる。だから使う。そんな力だ。
そんな物思いに耽ることができるほど、余裕が出てきたのだろうか。導いてくれる人と出会えたというのが大きいのだろう。
そんな人に報いたいと思った。
ガディアスさんは物資の不足を気にしていたようなので、少し減っていたり、数え間違えがあっても気にならないよう、こっそり増やしておこうと思った。
「おっ、こっそり増やすのか。ありがたいねえ、こっそり抜いても分からなくなる」
「え?」
見慣れない男の人がいた。
細身で背が高く、少し洒落た服を着ている。ガディアスさんよりは若い。オーシンと同じくらいの歳だと思う。
「いやあ、思ったんだけど、直接頼めば早いか」
「何です?」
「救世主さまよ、恵まれないワタシにお恵みを」
その人は、皮肉そうな笑みを浮かべながら、長い手を雑に差し出し、僕へそう言った。
「……お前か!!」
そこへ、ガディアスさんが怒鳴り込んできた。
「うわ、出た、みんなの共有財産を独り占めする元騎士団長さまがよ」
「貴様……!」
突然、険悪な雰囲気になった。僕は事態が飲み込めない。
「物資を抜いていたのは貴様だな」
「いいだろ、無限なんだし」
「それを闇市で売り捌き、利益を得ているのだろう」
「そりゃ、こちらの手数料ってやつさ。流通させるにも手間というものがある。その分の稼ぎがなきゃ俺らのおまんまの食い上げよ」
「あっ、あの……」
二人が言い争いを始めてしまい、収拾がつかなくなった。僕はとりあえず話を聞こうと、両手を振り、二人の間に入った。
「あ、すまん」
「はは、そうだ。物資提供者本人抜きで言い争うのは筋じゃないよな?」
「貴様が言うな」
「あなたは一体……」
ガディアスさんはいったん、憤りを鎮めて話し合いをしようとしてくれた。そして、もう一人の男の人は知らない人なので、まずは何者なのかを知ろうと、訊ねた。
「アッ、俺はセドラ。商人だ」
セドラと名乗った男の人は軽い感じで自分を親指で指す。
「……貴様は闇商人だろう」
「ハハ、それは一つの見方でしかないな」
癖がありそうな人だと思った。でも、不思議と嫌な感じはしなかった。




