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(21)巡る記録

セドラさんは、前に行った闇市のお爺さんから聖女リタの聖遺物の出所を聞いたという。


「遺物は九割偽物なんだけど、出所はいつも同じ場所って話だ」

「そこから出てきたら本物っぽいっていう……?」

「ああ、お決まりの場所ってやつだ。みんなとりあえずそこから出たって言ってる」


出てくる品より、出所の方が引っかかった。少なくとも、その場所には意味がありそうだ。


「そもそも、魔王の脅威から人々を守った人と聞いたので……この人も救世主だったんですよね」

「ああ、王国の歴史で学んだことがある」


僕が前に聞いたことを挙げると、ガディアスさんがそう言った。


「ただ、話を聞くと歴史上の場所と異なりそうだが」

「そうだ。聖女リタが埋葬されたのは聖域リターディアっていう。でも、あの爺さんから聞いた出所はそこじゃねえ」


僕は村にいた時、名前も分からない英雄が活躍した英雄譚は寝物語で知っていたが、聖女リタの伝説は知らなかった。ガディアスさんは歴史として知っていたようだ。セドラさんは流通を介して俗話として知っていたことになる。


「式典として、リターディアへの巡礼は定期的に行われていた。遺物は式典時に王宮から持ち出され、終わると持ち帰っていたので、そこから流通はしないだろう」


ガディアスさんがそう説明した。


「そっちはまあ、空っぽさ。何も出ねえ。昔、砦だったみたいだが老朽化で普段は立ち入りが禁止されてる。墓参りしかすることがねえな。墓荒らしも近付かねえつまらん場所だ」


セドラさんがそう、皮肉っぽい説明をするとガディアスさんが若干睨む。


「じゃあ、今回行こうとしている場所はなんなんですか?」

「……廃修道院だ」


僕がそう訊ねるとセドラさんがそう答えた。



◇◇◇◇◇



三人でその廃修道院へ向かった。

ガディアスさんも思うところがあるのか同行した。


「うわ、ガチで廃墟だ」


セドラさんがそう漏らす。

拠点からはそう遠くない場所だった。馬車で往復三日程度の場所だ。辺りに集落もなく、至る道は途中から森となっている。たまに遺物漁りが訪れるからなのか、獣道のような跡があった。途中で馬車を停め、そこを歩んできた。

辿り付いたそれは、瓦礫となり崩れていた。


「祭壇とか……あった感じですね。ここからいろいろ持ち出されたんですね……」


剥き出しになった聖堂の跡が見える。そこからはすでに聖具などは持ち去られた感じだった。布類も瓦礫となる前に持ち去られたのだろうか。


「なんと冒涜的な」


ガディアスさんが顔をしかめていた。


「来たのはいいですけど、もう何もなさそうです」

「いいや、あそこよく見ろ」


これ以上何かあるのか分からなかったが、セドラさんがある場所を指差す。


「なんか、部屋っぽい」

「うむ……書庫か?」

「ご名答」


そこだけ石の囲いのようになった部屋が残っていそうだった。ガディアスさんが書庫ではないかと指摘すると、それが正解っぽかった。


「墓荒らしとかからすると本とか金にならんからな。まあ、聖書とかなんかの記録とか、売ってもなっていう。よっぽどの物好きしか興味ないだろ」

「……それを、調べるんです?」

「そうだ」


僕はそれが何を意味するか、口には出さなかったが、何かが分かりそうな予感はしていた。


『聖女リタ』『聖域リターディア』『砦』『救世主』『魔王』


それらの要素がぐるぐると僕の中で回る。


「まあ、瓦礫であそこの入口が塞がれてるから、今そこを荒そうとしても難しいってわけだ」

「うむ……」


セドラさんがそう指摘するとガディアスさんが顎に手を当てて唸る。


「どかしますね」


僕はつかつかと歩み、建物の隙間へ入り書庫の近くに立った。そして、魔力槍で書庫の前の瓦礫を吹き飛ばす。残った瓦礫も魔力壁で押し出し、きれいに避けた。


「お……おぅ、できるとは思ったけどやべえな……」

「粉々にして申し訳ないですが……」

「ま、まあ、もう壊れてるしいいんじゃね」


セドラさんが半笑いで僕が瓦礫をよけた様子を見ていた。


これで書庫への入口に辿り着く。僕たちは石造りの重たい扉を開けてその中へ入った。

窓もなく、暗い部屋だった。中は少しひんやりとする。僕は燭台を生成し、灯りを点した。


「ふむ……、日も差さず、外よりひんやりとしている。湿気も少ないようだ」

「だからか。数百年前のものにしちゃ、保ってるな」


ガディアスさんとセドラさんが、棚にある本をそっと手に取り、状態を確かめていた。


「これが、本……」

「お? 田舎者イクタ君は本も見たことないのか」

「はい……。いや、村の教会に聖書があったのを見たことがあったかも……」


こんなに本がぎっしりと揃って棚に収まっている様子は見たことがなかった。村では聖職者の人が聖句を詠む時、手にしていたような記憶がある。物語はいつも口頭で語られていた。文字は教会で習ったが、石版を使っていた。紙など触ったことがない。


「字ぃ、読めるか?」

「簡単なものしか……。教会でちょっと、習いました……」

「おぉ、よかった。読めなかったらおっさんに聞け」

「え、セドラさんは?」

「俺は値札が読めりゃいいんだよ」


そんなやり取りをしつつ、一つ一つ本をそっと手に取り、内容を確かめていった。


「ま~、聖書ってやつはわけわからんな」


セドラさんがそうぼやきながら、確かめ、棚に戻す。


「あ、これ、村で聞いた英雄譚っぽい……?」

「ふむ、昔の救世主の話だな」

「え……? そうなんです?」

「口伝で広まっている英雄譚は、かつての救世主の話が物語となったという。歴史で習った」

「へぇ……」


僕が手にした本に見覚えのある話が書かれていた。

寝物語として聞いていた英雄譚がかつて本当にあった話であると、ガディアスさんが言う。そう聞き、僕は少し昂ぶった。この時はその意味もよく分からずに。


「名前は分からないんですね?」

「ああ。こうして書に記されているのも、もとは口伝だからな。いずれかの時代で失われていったのだろう」


そんな話を聞くと、歴史の重みと面白さを感じた。


「あ……、これは?」


僕は背表紙に何も文字がない本を発見した。本というには粗末な気がする。糸で閉じられた書類のようだった。

他の本より品質が悪い気がする。ぼろりと崩れそうな感じがした。慎重に開き、中を見る。


「字が滲んでいる気がする……」

「どれ? ん? なんか、日記みたいだな」

「ふむ……、写本ではない、個人の手書きだろう」


どうやら誰かの日誌のようだ。


『シスター・リタ 活動記録』


そんな表題が書かれていた。



それは、聖女リタの個人的な、人間としての記録だった——

ここまで読んでくださってありがとうございます!

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