(19)過ちと罰
まだ回収できていない集落がある。今回もリターナに先んじて拠点への避難を行おうとしていた。
「みなさん、安心してくださいね。向こうには住む場所も食べ物もあります」
「おぉ……救世主様……ありがたや……」
最低限の荷物だけを持ち、移動するよう促した。先に老人や子供を荷馬車に乗せ、出発させている。
「あなた……、私は先に子供達のところへ行きます」
「ああ、後で会おう」
次に女性達を荷馬車に乗せた。
ある女性がその旦那さんと一時の別れを惜しんでいた。向かい合い、手を取り合い切なそうな顔でやり取りをしていた。この人達を全員、無事に送り届けたいと思った。再会して家族みんなで喜び合って欲しいと思った。
「欲張るなよ~、デカい家財とか乗せるなよ~、鶏一羽くらいならこっそり持ってけ、ヤギは乗らんぞ」
セドラさんが積み荷の制限を案内していた。さすがに山羊を乗せる余裕はない。鶏は服の中に入れて抱えている人はいた。鶏が服の中でもぞもぞと暴れていた。
「急いでくれ、いつ魔王の襲来があるか分からない」
ガディアスさんが、そう促す。険しい顔でそう促すと、ハッとして小走りになる人がいる。
魔王の襲撃があると聞いていても、現実感がない人が結構いた。それはわかる。僕も、まさか自分の村が滅ぼされると思ったことなんかなかったからだ。
「……! 来ます! ああ、間に合わない!!」
僕が広域に張り巡らせた魔力膜にリターナの軍勢の気配が引っかかった。
「こっち、出すぞ!!」
「はい!」
女性達を全て乗せ終わった馬車をセドラさんがすぐに出発させる。幸い、拠点への経路とリターナの襲来経路は逆であった。
「すみません、みなさん!」
まだ避難させられていない男性達へ僕は短く謝った。
そしてすぐに魔力壁をこの集落の家々より高く出す。
「……!!」
避難民の前に突如土の巨人が発生する。それがすぐに拳を振りかざした。魔力壁がそれを受ける。
「あら、奇遇ね」
そして、上空からリターナが降りてきた。早い。
「来るなァ!!」
僕は瞬時に石の箱を生成して避難民の上から被せた。数カ所で固まっていたので、そのまとまりごとに保護する。
「イクタ殿ッ!!」
ガディアスさんと手練れの自警団の人たちが集まった。僕は即、魔力を配る。そのまま皆に土の巨人などを対処してもらう。
「今日は、少しは持ち帰ることができるかしら」
「させるかッ!!」
僕は魔力壁を用いることもなく、魔力を通した脚で跳躍し、土の巨人を飛び越えリターナの元へ到達した。
これは、夜中の特訓の成果だ。瞬間的に魔力の出力を高め跳躍してから、足裏から魔力を噴出させ、その推進力で空を飛ぶことができる。
「あなたもここまで来たのね」
リターナはそう言い、ふわりと宙へ浮かんだ。
「ふざけるなッ!」
まるで、僕の力を試しているかのようだった。僕が段階的にできるようになっていったことを、奴はすでにできると示すかのようだ。
奴が浮かぶ原理はたぶん、僕とそう変わらないだろう。跳躍はせずに浮かんだが、これは魔力壁を足元に発生させ、それをせり上げているのだと思う。
「食らえ!!」
僕も空を飛び、リターナを追いかける。剣に魔力を満たし渾身の一撃を見舞う構えで突入した。そして、同時に石の箱を生成し閉じ込め、箱の中から多数の魔力槍を発生させる。
「ふふ、えげつないわね、イクタ君」
粉砕し飛び散った石片は血に染まり、箱から出たリターナは血塗れのまま僕と撃ち合った。剣と魔杖が交わる甲高い音が響く。
「クソッ」
当然かのように、リターナは無事だった。傷をつけることはできたようだ。滅多刺しになったと思う。石片は血に染まっていたし、石箱が粉砕したときに血も飛び散り雨となった。リターナの服も血塗れである。
「ねぇ、空を飛ぶのって、楽しいわね」
リターナが宙に浮いたまま両手を掲げ、避難民達を囲った石箱を宙に浮かせた。民家三つ分の高さまで。
「……!」
「ありがとう、これはいただくわ」
「や、やめろ……ッ!!」
スッとリターナの手が下ろされると、石箱が落下した。
「あ……あぁ……」
僕は誤った。なんてことをしてしまったのだろう。
物理の箱に入れて咄嗟に避難民の人たちを守ったつもりだった。最近は瞬時に生成ができるようになったため、咄嗟に物理のものを発生させたのだった。だが、それを逆手に取られた。リターナが土の巨人を生成していることからそれは悪手だと気付くべきだった。物理の石を操作されてしまったのである。魔力壁で保護するべきだったのだ。
「今日から、私たちと一緒に、よろしくね」
石箱から出てきたのは——動く死体だった。
「ああッ、あ……ッ! うあああああッ!!」
僕は空中を矢のように飛び、リターナへ向かった。剣戟で火花が散る。目が燃える。きっと炉が燃え瞳が煌々と光っているのだろう。
「かわいそうなイクタ君。あなたは自分の犯した過ちを取り返せない」
僕の猛撃を難なくいなし、リターナはそう憐れみの言葉を投げた。
「アアッ! うああッ!!」
もはや八つ当たりだった。
「悲しまないで。元々、私の手で殺していたんだから。少し手順が違っただけ」
違う、救えた命だ。僕が、過ちを犯さなければ。
「喜んで。半分以上は救えたのでしょう?」
スッと僕の胸にリターナの魔杖が刺さった。僕はそれを握り、自分の前面に魔力壁をまとわせ後方へ押し出す。そして後ろへ逃れ、弓なりを描いて落下する。点々と僕の血が降った。
僕は魔力壁も出さずに、背から地面に落ち、叩きつけられ跳ねる。
自分が果実になったかのように無になり、落下感を覚えながら、地に叩きつけられ跳ねる様を感じた。痛みは消している。ただ、罰を受けたかった。僕の過ちで死なせた人たちと同じ目に遭って。
「お前のものにはさせない」
そしてすぐに立ち上がり、動く死体の脚を斬っていった。ガディアスさんたちもそれを目にし、僕に倣って対処してくれた。
「ふぅん……、もったいない。仕方ないわね。また会いましょう」
そう言い、リターナは土の巨人を土に還し、撤収していった。
「……イクタ殿……」
膝を付き、地面へ頭を付け項垂れる僕へガディアスさんが声を掛ける。
「僕を……僕を、殺してください」
嗚咽が響く。
僕はあの夫婦を再会させることができなかった。もう、家族みんなで喜び合うことができない。
何事もなく塞がったこの胸の穴は僕を罰するのに足りなかった。




