(17)僕は悪くない
僕は思わぬ言葉を向けられ、首を傾げる。
それは、成果を上げた方法だ。咎められることなどないと思った。
「まあ……、どう戦ったか一から順に話してみろ」
腕を組み、セドラさんが落ち着いた声でそう促してきた。ガディアスさんは眉間に皺を寄せ、僕の方を見るが目を合わせない。
「あの……、前にリターナに刺された時、僕は、ビックリしました」
「ビックリで済むか」
リターナと初対戦で胸を刺され風穴を開けたときのことを話す。あの時は、刺されたという事実、衝撃が大きかった。
「痛みがあったのかどうかすらわかりませんでした」
「あれはこっちがビビるわ。穴が塞がってから叫んでやがった」
セドラさんが苦い顔をしながら突っ込む。僕は胸を押さえながら思い出し話す。
「怖かったんです。ただ刺されたということが。胸に穴が開いて、痛みがあるかすらもわからない。死んだのかと思った。これで何もかもが終わったのかと思った」
衝撃を受け、頭が混乱した。体と意識が切り離されたかのような恐怖だった。
無意識の叫びが遅れてやってきて止まらなかった。セドラさんが叩いてくれなければどうなっていただろうか。
「痛みがあるはずなのに、あるかすらわからない。それが怖い。だから、最初から痛みがないものとすれば怖くないと思いました」
僕の口端が上がる。恐怖を克服した方法を口にし、それが大発見であると無邪気に披露する。
「リターナが土の手で僕の足を止めたけど、魔力槍で壊しました。僕の足ごと」
「へぇ……」
僕は、両手を挙げ、今回の戦闘でそれを活かした場面を説明する。
セドラさんの顔が引きつってきた。ガディアスさんは俯き加減になる。
「あっ、大丈夫ですよ? どうやら、自分の魔力は自分には効かないみたいでした。足は無事です」
それは新発見だった。仮に効いて足が粉砕しても再生するので問題ないと思っていた。
「おまえ……それ、ぶっつけ本番で……」
「そうです。足がおかしくなってもすぐ治ると思ったので」
「はぁ……」
「え? なんです?」
「いい。次は?」
セドラさんがそう訊くも、僕がそう答えると、ため息をついて次の話を促した。
「リターナの杖を奪うことができたんですが、腹を殴られました。そしたら一瞬、目の前が真っ暗になりました。その時、たぶん、皆さんへの魔力供給が切れちゃったと思うんですが、大丈夫でしたか?」
「あ……、ああ、大丈夫だ」
ガディアスさんがその時の様子を答えてくれた。一瞬の暗転で戦況が悪化していなかったか心配だった。大丈夫なようでよかった。
「これ、きっと痛みを切っていなかったら耐えられなかったと思います。リターナに内部へ直接ダメージを与えられた気がするんですが、目から血が流れて口から血を吐きました。たぶん、本当ならすごく痛いはずです」
僕は思い返し、安堵していた。これは、刺された時より痛い可能性があった。そして、痛いという可能性が消えていたので、怖いと思うこともなかった。だからすぐに動けた。
「それにしても、リターナが『もう、そこまで来たのね』と言ってたんですが、あれは一体……。前にも『死なないでしょう?』って言ってましたし……」
僕が顎に手を当て、首を傾げると、セドラさんが大きなため息を出す。
「それで終わりか?」
「はい。聞いてくれてありがとうございます」
僕は礼を言った。セドラさんが目を見開き上から睨む。
「え……?」
僕も思わず目を見開き、セドラさんを見上げた。
「……なんだ、それ。なんだよそれ! そんなことしておまえ、人間としてどうなるか分かってんのか!?」
——人間として
とは一体。
僕は首を捻った。セドラさんのその問いに僕は答えを持たなかった。
「戦場で兵士に何配られてるか知ってるか?」
僕は首を横に振る。ガディアスさんは思い当たるのか、顔をピクリと引きつらせて反応していた。
「アレはえげつない。俺は闇商人だけどよ、アレだけは取り扱いたくない。知ってるだろ、おっさん」
セドラさんは何かを思い出すように話し、ガディアスさんへ振る。
「ああ……。進退窮まる時……、最後の力を振り絞る時……、それを……」
ガディアスさんは言いにくそうに端的に説明する。
「痛くなくなる、怖くなくなる。高揚して、戦場へ飛び込める。それは」
「そうだ。それを使った奴らはそうやって狂って死んでいく。傍から見たら狂ってるとしか見えねえ」
僕は息を飲んだ。ガディアスさんの表情が暗い。セドラさんの表情は険しい。
「あ、私は使ったことはない。聞いた話だ」
「俺は使った後で後遺症が出てる奴の話を聞いた」
「そうですか……」
二人とも、直接己が体験したことはないようだ。それに関しては安心した。
「でも、僕は死なないので」
僕は、自分を指差し、そう訴えた。
そんな例を出されてももう止まれないのだ。
「僕は狂ってないですよ」
笑みを作って、僕はそう説明した。証明しなくてはならない。大丈夫であると。
「……イクタ」
「はい?」
セドラさんが真正面から問う。
「悪夢はまだ見るか?」
「え……」
何故、それを問われるのだろうと思った。思い返したら、リターナと初対戦後、意識を手放すように眠ってしまったとき、うなされていたのを見られている。悪夢から目覚めさせられていた。
「見てます。もう、ずっとです。村を壊されてからずっと」
「……そうか」
「あ、でも、セドラさんが市に連れていってくれたときは見なかったんです」
僕は笑みを浮かべて、その楽しかった思い出とともに話す。
「炉の力を使わなかったから、だと思います」
二人が僕の顔を目を見開き見る。
「あ、でも、使わないわけにはいかないので気にしないで下さい。僕が支払う代償はそれだけなので。きっと、悪いことに使わないように、という神さまの考えなんですね。僕は……悪いことを、していません、よね?」
ちくちくと胸が傷んでいた。
本当は戦うべきではない人を兵士にした僕は——悪いことをしていない、と言えるのか。
「してない」
セドラさんがただそう一言だけ返した。
「よかったです」
母さんも言っていた。僕はいい子だって。ナユを守ったって。
そう言いながら僕の首を絞めた。
それを繰り返し夢に見るけれど——僕は悪くない。




