(13)止まりそうな息
魔王リターナへの対抗策は特に効果的なものも思いつかず、僕の練度に依存することになる。
きっとそのうち、この拠点も直接攻め込まれる。逃げてもどこかでかち合うだろう。それなら砦を構え、支度を十分にしているここを防衛するのが最善であった。
「救世主さま、ありがとうございます」
「これをお願いします」
「イクタ殿、これが必要分だ」
「はい、お任せ下さい」
僕は何事もなかったように復帰した。
資材を求められるまま生成し、自分でも必要と思うものを提案し、その分を生成した。そして、実際にリターナと対峙して分かった情報を元に防衛策を講じ、訓練をした。僕個人の戦い方もガディアスさんとあらゆる場面を想定し、考えた。
まず、砦全体を魔力壁で囲うことを試みた。そして、その強度も確かめる。自警団の人たちに魔力を渡し、力一杯攻撃させる。それをしながらガディアスさんと剣を交える。
防衛、分配、直接攻撃、これを同時に行う。集中力が分散される。
「……っ、ハァ、ハアッ……」
吐きそうになった。頭に血が上り、急激に下がっていく感覚がある。足元が歪む。
「休もうか」
「いや、まだです」
鼻血は出なくなった。ガディアスさんが休みを入れようと提案してくれるが、何かが掴めそうな気がする。もう少し頑張ってみることにする。
慣れない場所で突発的に出力を高めると間に合わないのかもしれない。慣れた場所で、訓練しておいた通りに動ければマシになるのかもしれない。リターナが攻めてくるまでに『型』を完成させておかなければ、と思った。
「……う、おお……!?」
「そのまま来て下さい!」
「ああ」
ガディアスさんにリターナと戦った時に渡した以上の力を渡した。そのまま向かって来いと指示する。
「お、おおおおっ!?」
ズズズ、とガディアスさんの攻撃を受けた僕の足が地に着いたまま下がる。僕は、リターナが出したとおり、細長く分厚い魔力壁を出し、ガディアスさんの攻撃を受け止めたのだった。その感触にガディアスさんが驚いていた。
「これがリターナの技……!」
「そうです」
再現してみたらできた。
僕の力は無限だ。力の強度は問題ないはずである。それをどう使うか、適切な機会に使えるかが問題だ。リターナが操るように使えなければ話にならない。それを上回らなければ倒すことができないのだ。
これ以上、抜きん出るには、僕の頭の働きにかかっている。だが、それ以上回そうとすると頭が熱くなり、目の前が白くなる。限界が来る。
何故だろう? 体が大丈夫なら頭も大丈夫なのでは?
「……イクタ殿?」
僕は炉を燃やす。これまで以上に。目に熱が走り、スッと引く。頭にも巡らせるよう思い描いたのだ。
「あ……」
急に視界が開けた。頭の後ろにも目があるような気がした。僕を半円形の膜が取り囲むような感覚を覚え、その膜に触れたものが直接頭に流れ込むようだった。
「見える」
「え」
僕はガディアスさんへ背を向けた。そしてガディアスさんの背後に魔力壁を出し、そこへ向けて、魔力槍を連射した。
「な……っ、何を」
「おいっ!?」
当事者であるガディアスさんは何をされたのか分からず、見物していたセドラさんが驚いた様子を見せた。
「う、うわああああ! 救世主さま! すごい!!」
「見たか!? みんなっ、おいっ!」
他に見物していた人たちも沸き立つ。
「なんだそりゃあ……、おまえ、ついに人間やめてんなあ……」
セドラさんが呆れたような様子でそう言った。
「たぶん、リターナはこれくらいします」
「は、はは……そりゃあな……魔王だしな……」
僕はまばたきもせず、予想を口にする。もはや、何が来てもおかしくはないのだ。
「今日はここまでにしよう。うむ、一段と成長したな」
「はい」
ガディアスさんがそう切り上げると、僕は砦を囲んでいた魔力壁を消した。
「あ」
砦を攻撃させていた人たちの魔力は残したままだったので、砦が少し粉砕された。
「すみません……」
「いやいや、少し削れただけのようだ。念のため無人にしてあったし大丈夫だ」
「はい。直しておきます」
僕はバツが悪くなり、頭を掻きながら砦へ向かった。
「直りました」
「うむ……早いな?」
生成速度が急激に上がった。ガディアスさんが驚いていた。
補修も生成と同じ要領でできるのだ。欠けた部分を元に戻す、と思い描くと補修される。
「城壁のようなものも作りましょう」
「え?」
そう言い、僕は土の巨人が越えられない程度の壁を思い描いた。それが砦を囲む。みんなを守る。そんな壁を生む。
——もはや、それは願い、祈り。
そして、あたかも始めからそこにあったかのように守りの壁は生まれた。
「……い、一瞬で」
「リターナも土の巨人をその場で生み出しているんです。僕にもできるはず」
何を生むのか、明確に思い描けるようになった。どうするべきなのか、どうしたいのか、僕はそれを自覚した。だからきっと、力はそれに呼応した。
砦の外にいた人々は一斉に沸き立った。僕のそれは奇跡であると讃えた。
——こうして、伝説というものは生まれるのだろうか。
◇◇◇◇◇
「おまえ、メシ食わねえの?」
夕飯の時間になり、僕はその場から遠ざかろうとするとセドラさんから声を掛けられる。
「うーん、後でいいです」
「そうか。いやぁ、いろんな料理出してくれるようになったからさ、おまえが食ったことないやつ食えばさ、出せるもんが増えるだろ? だから食っとけよ」
「あ……、はい、わかりました」
そう言われると口にした方がいいと思い、口にした。
「香辛料も出せるようになっただろ? 料理に入るようになってきたな。美味くなっただろ。これも生成頼むぜ~。市でいい値段になる」
「はい」
セドラさんがそうにやけながら料理を口にする。
確かに、匂いも、色味もこれまでと変わってきた。食事が豊かになってくると、皆の表情も明るくなってくる。
「皆さん、喜んでますね」
僕はにこりと笑みを浮かべ、そう言った。
皆、砦の外で火を囲み、なごやかに食事をしている。
「だな。どんなにキツい状況になったって、メシがうまけりゃ明日も生きようってなるだろ」
「そうですね」
「市にはそういうもんが売ってんだよ。もうちょい生きてみようって思えるようになる何かが」
沈みゆく陽が逆光となり、セドラさんの輪郭をかたどる。僕は息を飲んだ。
——生きている意味
僕はもしかして、いよいよそれが曖昧になってきたのかもしれない。
炉が燃えれば僕は倒れない。
自分で生んだ食材を再び自分の中に入れる。
これは何の意味があるのか。
……何だろう、これは。
舌に少し感じる辛みが、僕にそれを問うようだった。
「明日、闇市行ってみっか?」
「え?」
僕は、少し苦しくなった息を楽にしたい。そう思った。
その誘いは、息継ぎのようだった。




