↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/23

(10)届かない

結局、魔王の正体はまだ分からなかった。

僕たちが局所的に防衛しても、焼け石に水だ。魔王自らの襲撃と、魔王の活動に伴い活性化した魔物達の襲撃により、王都外の村々は消えていく。


魔王に何か目的があるのだとしても、仮に正当性があるのだとしても、僕たちは生きたい。ただそれだけの願いを潰されるわけにはいかなかった。



「……出た。統率された敵がいるとの報が入った」


魔王の正体が分からないと言っていた矢先に、そんな報が入る。ガディアスさんが調査員からそう報告を受けていた。


「よし、すぐに行くぞ」

「む、貴様が動くとは。戦う気になったのか?」

「いや、あっちはうちの交易先なんだ。ルートが潰されると困る」

「行きます。すぐに行きます」


セドラさんがすぐに荷馬車を手配してくれた。戦闘には参加しないとのことだが、この動きの早さからいって、困るのは本当なのだろう。道案内もしてくれるという。



「間に合ってくれよ」


僕たちは荷馬車に乗り、襲撃されそうになっている集落へ向かった。セドラさんが手綱を握り、馬を飛ばす。後ろに他の自警団員の荷馬車も続いた。


「……魔王でしょうか」

「魔物の群れは統率されていると聞いた。だから、魔王か、それに類する知能の敵だろう」


馬車の中でガディアスさんと推測を口にした。


「勝てるでしょうか」

「いつかは対峙しなくてはならない。する相手だ」


僕がそう問うと、ガディアスさんは答えとはいえない応えを口にした。


僕は、僕たちはまだ経験が足りない。訓練はした。それから実戦はした。だが、実戦の回数は重ねていない。

敵は段階的に強くなるとは限らない。一度実戦で勝てたのは運が良かったのだろう。始めからあの数倍強い敵が現れたら全滅だったかもしれない。

だけど、敵は待ってくれない。僕たちを訓練するために存在しているのではない。


——いきなり魔王と戦うこともある


英雄譚とは違う。これは現実なのだ。



集落の方へ近付いてきた。

何か、嫌な予感がする。上手く言葉にできないが、空気の淀みを感じる。


「あ……、人が……!」


到着した。動いている人がいる。


「よかった、まだ」


僕は言葉を失う。

土気色をした人々が群れを為し、村から出て移動していた。それは、村の規模に比べて倍ほどの数だった。


「あの、あなたは——」


人々の群れの最奥にいたのは、教会のシスターのような人だった。僕の村の教会で見たものより、ずっと立派な白い修道衣を身につけている。裾が黒く染まっている。両肩からは黒い帯のような布が垂れ、手には黒い大きな杖を持っていた。


「大丈夫ですか? 魔物に襲われていると聞いて来ました」


その人は土気色ではなかった。ただ、すごく白かった。肌も、髪も。


「大丈夫です。襲われてなどはいません」

「そうですか、よかった。他の人たちは……」


土気色をした人々は、腹に穴が開いていたり、目玉が飛び出ていたり、腕が片方なかったり、骨が出ていたり、なんらかの損傷がある。立って動いているのが不思議な——


「イクタッ!!」


セドラさんの声が響く。


「あの、これは」


わなわなと唇が振るえる。

修道衣の女性は黒い杖を掲げ、土気色の人々を見据える。まるで、操っているかのような。


「この人達は」


女性の目が煌々と光っている。それは赤く、炉が燃えるように——


「イクタ殿ッ!!」


ガディアスさんの声が響いた。


「あなたは」


僕は剣を握り、駆け、距離を詰める。


「……魔王!!」


すべての……すべての元凶がここにいた。

僕からすべてを奪った仇が、ここにいた。


全身に魔力を巡らせ、脚と腕へ噴出するように流した。駆ける時に足裏へ魔力の壁を出し、それで自分を押し、勢いを加速させる。

剣には「魔王を断つ力」と念じ魔力を乗せ、渾身の一撃を放った。


「そうね。あなたたちの定義ではそう」


魔王は瞬間的に細長く分厚い魔力壁を出し、僕の渾身の一撃を食い込ませ、止めた。反応速度が異様だった。何も揺らぐことなく、息をするように出現させ、止めた。


「ぐ……、クソ……ッ」


目に涙が滲んだ。


……敵わない。


悔しさ、絶望、果ての距離。

瞬間的に悟ってしまった。


「お前の……ッ、お前の名前は何だ!」


まだ届かない。だけど、いつか掴んでやると叫んだ。掴めるように手掛かりを探る。


「私は、リターナ。よろしくね、イクタ君」


リターナと名乗った魔王はにこりと慈悲を湛えたような笑みを浮かべた。そして僕の名前を呼んだ。


「リターナ……! お前か!? お前が僕の村を!!」


リターナが黒い杖を振る。魔王が使う杖だ。その禍々しさからさしずめ、魔杖といったところだろうか。


「あなたの村だけではない。皆、等しく土に還らせる」

「何故だッ!!」

「増えすぎたから」

「なんだ、それ」

「そういう思し召し」


……話にならなかった。


リターナが魔杖を振るうと、土気色の人々が一斉に僕へ襲いかかってきた。リターナの目が赤く光る。


「わかった、わかったぞ!! お前が、お前が……っ!」


ドン! と土が盛り上がり、巨大な人型となった。

土の巨人と動く死体——これが、魔王リターナが率いる軍勢だった。


村の人たちは土の巨人に倒され、倒された人たちは動く死体となって生きた人を襲う。そしてまた動く死体となる。そういう仕組みだった。僕は理解してしまった。


「イクタ殿は魔王を!」

「ここは我らが!」


ガディアスさんと自警団の人たちが動く死体を相手にする。絶望的に数が多い。土の巨人は強力だ。


……僕は、生きている人たちに力を。


全身を炉として稼働させ、全員へ魔力を前の数倍渡した。


「お、俺もかッ!?」


セドラさんにも魔力を回した。武器も出した。軽めの槍だ。


「マジかよっ!! えいっ! 来んな!」


動く死体を対処できる程度にはなった。


「おぉ、いける、すごい力だ」


一方、ガディアスさんはその力をすぐに使いこなし、土の巨人を破壊していた。通常の人間にはできない跳躍もし、頭上から叩ける。


僕は、垂れてきた鼻血を指で擦り、払い、剣に長い魔力を纏わせ、動く死体をまとめて斬り払った。元は生きていた人々だと思うと心苦しいが、今生きている人を動く死体にするわけにはいかないのだ。


「リターナッ!!」


障害となるものを振り払う。土の巨人は魔力壁の階段で宙に駆け上がり、頭上から割る。そして、その動作すら惜しくなる。剣先から魔力を放出し、土の巨人の脚を割り、倒れさせた。


「カハッ、ハアッ、ハアッ」


出力全開だ。鼻血が口に逆流してきた。口に溜まった血を吐き捨てた。

疲れはない。体は燃える。頭が熱い。


「僕はっ、お前を……!」


やっと届く。魔杖を掲げるリターナの元まで再び近付いた。


……あれ? 届かない。


届くはずだった剣が届かなかった。

僕は剣を構えたまま前に進めなくなった。



目線を下に降ろすと、僕の胸にリターナの魔杖が刺さっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。