第71話『放課後のシーン』
ライブシーンの撮影から数日後。
映画『放課後メロディ』の撮影は順調に進んでいた。
しかし——
結衣には一つ問題があった。
控室。
結衣は台本を見ながら固まっている。
真優がコーヒーを飲みながら聞く。
「どうしたの?」
結衣はゆっくり台本を差し出す。
「これです」
真優が読む。
数秒後。
「ああ」
美優も横から見る。
「なるほど」
凛も覗き込む。
「問題だね」
麗華は笑い始める。
「これは大変だ」
結衣は頭を抱える。
「みんな分かってるじゃないですか!」
台本には大きく書かれていた。
『放課後の教室で語り合うシーン』
結衣は机を叩く。
「会話だけで10ページあります!」
麗華が笑う。
「ライブより長い」
凛も頷く。
「確かに」
真優は平然としている。
「普通じゃない?」
結衣は即答する。
「普通じゃないです!」
撮影開始。
学園セットの教室。
窓から夕陽が差し込んでいる。
まさに青春映画。
監督が声を上げる。
「第34シーン!準備!」
スタッフが動く。
カメラも配置完了。
結衣は席に座る。
凛は窓際。
麗華は机の上に座っている。
結衣がツッコむ。
「机に座るのありなんですか」
麗華は笑う。
「キャラだから」
監督。
「本番!」
カチン。
カチンコの音が響く。
撮影開始。
教室。
静かな放課後。
窓の外では野球部の声が聞こえる。
結衣が小さく言う。
「もうすぐ卒業だね」
凛が窓の外を見る。
「まだ先」
結衣が笑う。
「そうだけど」
麗華が机に寝転がる。
「私は卒業したくないなー」
凛が即答。
「勉強嫌いなのに?」
麗華が反論する。
「関係ないでしょ!」
結衣が吹き出す。
監督。
「そのまま!」
結衣は少し真面目な顔になる。
「でもさ」
凛と麗華が見る。
結衣は続ける。
「みんな卒業したら何するんだろうね」
教室が静かになる。
凛が答える。
「音楽」
麗華も頷く。
「私も」
結衣は少し笑う。
「即答だ」
凛は真顔。
「結衣は?」
結衣は考える。
数秒。
そして。
「私は……」
言葉が止まる。
監督は止めない。
カメラも回り続ける。
実はここ。
アドリブ部分だった。
結衣自身に考えさせる演出。
結衣は窓を見る。
夕陽が差し込んでいる。
不思議なくらい綺麗だった。
「私は……」
もう一度。
「みんなと同じ場所にいたいかな」
凛が少し驚く。
麗華も目を丸くする。
それは演技ではなく。
結衣自身の本音だった。
監督が小さくガッツポーズする。
スタッフも静かに頷く。
真優はモニター越しに笑う。
「出たね」
美優は一言。
「本音」
教室では会話が続く。
麗華が笑う。
「結衣らしい」
凛も小さく頷く。
「うん」
結衣は少し照れる。
「何それ」
麗華はニヤニヤする。
「だって結衣、自分の夢より先に仲間のこと考えるじゃん」
結衣は言葉に詰まる。
「そんなこと……」
凛が即答。
「ある」
結衣は机に突っ伏す。
「否定できない……」
麗華が爆笑する。
凛も少し笑っている。
教室の空気が柔らかくなる。
その時。
ガラッ。
教室のドアが開く。
真優先生役と美優先生役が入ってくる。
真優が言う。
「まだ帰ってなかったの?」
美優も続ける。
「完全下校時間」
麗華が慌てる。
「やばっ!」
凛は冷静。
「あと30分ある」
美優が即答。
「あと10分」
凛。
「……短い」
教室が笑いに包まれる。
その自然な空気。
演技ではない。
本物に近い空気。
監督は満足そうだった。
撮影終了。
「カット!」
拍手が起こる。
スタッフたちも笑顔。
監督が近づいてくる。
「今の最高だった」
結衣は首を傾げる。
「そうですか?」
監督は頷く。
「演技じゃなかったから」
結衣は少し照れる。
真優が近づいてくる。
「良かったよ」
美優も一言。
「自然」
凛が頷く。
「結衣らしかった」
麗華が笑う。
「主役だね」
結衣は苦笑する。
「またそれですか」
夕陽がスタジオの窓を赤く染める。
映画撮影はまだ続く。
でも。
少しずつ。
スクリーンの中の物語と、現実の物語が重なり始めていた。
そして次の撮影は——
映画最大の山場。
文化祭ライブだった。
第72話へ続く。




