第72話『文化祭ライブ前夜』
映画『放課後メロディ』の撮影も終盤へと差しかかっていた。
残る大きなシーンは、ただ一つ。
文化祭ライブ。
物語最大のクライマックス。
そして——
Dream StarSのライブシーンでもある。
撮影前日。
M&M COMPANY本社・大型リハーサルスタジオ。
結衣は渡されたスケジュール表を見て固まっていた。
「リハーサル6時間……」
ページをめくる。
「音響チェック3時間……」
さらにめくる。
「撮影予定12時間……」
沈黙。
真優がコーヒーを飲みながら聞く。
「どうしたの?」
結衣は震える手で紙を見せる。
「文化祭って何でしたっけ?」
美優が即答する。
「祭り」
結衣。
「違います」
凛が資料を読む。
「映画だから規模が大きい」
麗華が笑う。
「もはや本物のフェスだね」
その時。
監督がスタジオへ入ってくる。
「みんな集まってるね」
結衣は嫌な予感しかしない。
監督は笑顔だった。
それが余計に怖い。
「今回の文化祭ライブなんだけど」
真優が聞く。
「はい」
監督。
「観客5000人入れるから」
静寂。
結衣。
「……え?」
凛。
「何人?」
麗華。
「500?」
監督。
「5000」
再び静寂。
結衣が立ち上がる。
「文化祭じゃないですよね!?」
監督。
「文化祭だよ」
美優が一言。
「規模がおかしい」
真優も苦笑する。
「確かに」
結衣は頭を抱える。
「学校どこ行ったんですか」
麗華が笑いながら言う。
「巨大校なんじゃない?」
凛が冷静に言う。
「人口より多い」
結衣。
「そうなんですよ!」
監督は平然としている。
「せっかくだから本物のライブ感が欲しいんだ」
真優が頷く。
「なるほど」
美優も短く。
「合理的」
結衣だけが納得していない。
「合理的なんですかそれ」
リハーサル開始。
ステージ中央。
結衣。
凛。
麗華。
そして演奏隊。
全員が配置につく。
真優は客席から見ている。
美優も横に座る。
監督。
「まず一曲通そう!」
結衣は深呼吸。
「お願いします!」
演奏開始。
ドラム。
ベース。
キーボード。
ギター。
そして歌。
スタジオいっぱいに音が広がる。
しかし。
曲が終わった瞬間。
監督が首を横に振った。
「違う」
全員が止まる。
結衣が聞く。
「何がですか?」
監督は少し考えて答える。
「上手い」
沈黙。
麗華が首を傾げる。
「褒めてます?」
監督。
「褒めてる」
凛。
「でも違う」
監督。
「そう」
結衣は混乱する。
「どういうことですか」
監督は真剣だった。
「完成されすぎてる」
真優が少し笑う。
「なるほど」
美優も頷く。
「分かる」
結衣。
「私だけ分からないんですけど」
真優が説明する。
「文化祭ってさ」
「はい」
「完璧じゃないでしょ?」
結衣。
「あ」
監督が続ける。
「青春って不完全なんだ」
スタジオが静かになる。
「失敗もある」
「迷いもある」
「でも前に進む」
凛が小さく言う。
「だから綺麗すぎる」
監督。
「そう」
麗華も納得する。
「なるほど」
結衣は考える。
しばらく考える。
そして言う。
「じゃあ」
全員が見る。
「少しだけ不器用でいいんですか?」
監督が笑う。
「そういうこと」
再び演奏。
今度は少し違う。
力みすぎない。
完璧を目指しすぎない。
気持ちを優先する。
曲が終わる。
静寂。
監督が立ち上がる。
「それだ!」
スタッフから拍手が起こる。
結衣は息を吐く。
「難しいですね」
真優が笑う。
「完璧じゃない方が難しい」
美優も一言。
「深い」
凛が頷く。
「納得」
麗華は笑う。
「青春って面倒だね」
夜。
リハーサル終了。
誰もが疲れていた。
結衣はステージの端に座る。
客席を見る。
今は誰もいない。
でも明日は5000人。
映画の撮影。
ライブ。
青春。
全部が混ざる。
そこへ真優がやって来る。
「緊張してる?」
結衣は少し笑う。
「してます」
美優も隣に座る。
「正常」
凛と麗華も来る。
麗華が言う。
「でも楽しみじゃない?」
結衣は少し考える。
そして頷いた。
「うん」
凛が小さく笑う。
「珍しい」
結衣。
「何が?」
凛。
「前向き」
全員が笑う。
その笑い声が静かな会場に響く。
明日。
文化祭ライブ本番。
映画最大のクライマックス。
そしてDream StarSにとっても、大きな転機となる日。
ステージの灯りは消えている。
だが——
彼女たちの物語は、今まさに最高の瞬間へ向かっていた。
第73話へ続く。




