第70話『ライブシーン=現実』
教室セットから移動した先は、同じ建物の奥にあるライブステージだった。
そこはもう“映画のセット”というより、完全に本物のライブ会場に見えた。
照明。 観客席。 音響ブース。 カメラ数台。
結衣はステージ袖で固まる。
「これ……映画ですよね?」
真優はヘッドセットを付けながら即答する。
「映画」
美優はスティックを軽く回す。
「でもライブ」
結衣は眉をひそめる。
「分けてくださいその情報」
凛がベースを持ちながら静かに言う。
「観客、いる」
麗華がステージを見て笑う。
「普通にフェスだねこれ」
結衣は観客席を見る。
エキストラなのに、妙にリアルな空気がある。
「なんか……普通に緊張するんですけど」
真優が横目で言う。
「それが狙い」
美優も一言。
「リアル感」
結衣は即座に反応する。
「またそれですか!」
監督の声が響く。
「カメラ準備!」
「ライブシーン、テイク1!」
スタッフが一斉に動く。
結衣は深呼吸する。
「映画のはず……映画のはず……」
凛が横で小さく言う。
「現実だと思った方がいい」
麗華も笑う。
「その方が楽だよ」
照明が落ちる。
静寂。
一瞬の間。
そして——
爆音。
真優のキーボードが入る。
美優のドラムが叩かれる。
ドンッ!!
空気が一気に揺れる。
結衣は思わず一歩後退する。
「うわっ……!」
真優の声が響く。
「いくよ、結衣」
結衣はマイクを握る。
「は、はい!」
凛のベースが入る。
低音が床を這う。
麗華の音が広がる。
空間が一気に“色”を持つ。
結衣はその中で気づく。
(これ、もう映画じゃない)
(ライブだ)
監督の声が走る。
「OKそのまま続けて!」
結衣は叫ぶ。
「え、止めないんですか!?」
真優が笑う。
「止めない」
美優は短く。
「続行」
観客エキストラがざわつく。
でもそれは“演技”ではなくなっていく。
拍手が自然に入る。
リズムに乗っている。
結衣は混乱する。
「これどこまで台本ですか!?」
凛が即答。
「ほぼない」
結衣は絶望する。
「ないんですか!?」
麗華が笑う。
「アドリブライブだね」
その瞬間、真優が前に出る。
ピアノソロ。
静かになる。
美優のドラムも少し抑える。
空気が一気に“聴くモード”になる。
真優が結衣を見る。
「来て」
結衣は息を飲む。
「……今?」
美優が一言。
「今」
結衣は一歩前に出る。
マイクを握る手が少し震える。
(映画……でもライブ……でも現実……)
全部が混ざっている。
でも——
結衣は息を吸う。
「私は——ここにいます!」
その瞬間。
音が揃う。
一気に“中心”へ収束する。
凛のベース。 麗華の鍵盤。 真優のピアノ。 美優のドラム。
そして結衣の声。
すべてが一つになる。
観客エキストラが本気で拍手する。
誰かが叫ぶ。
「これ本当に映画!?」 「ライブじゃないの!?」
監督が興奮している。
「カメラ回せ!今の全部使う!」
曲が終わる。
静寂。
3秒。
5秒。
爆発する拍手。
結衣はその場で息を切らす。
「……終わった……?」
真優が笑う。
「終わった」
美優も一言。
「成功」
凛が短く言う。
「想定以上」
麗華が笑う。
「映画超えたね」
ステージ袖。
結衣は床に座り込む。
「これ、映画ですよね……?」
真優は水を渡す。
「映画だよ」
美優は言う。
「でもライブ」
結衣は天井を見る。
「どっちなんですか……」
凛が静かに言う。
「両方」
麗華も続ける。
「境界、もうないよ」
監督が最後に言う。
「このテイク、クライマックスに使います」
結衣は固まる。
「……まだ終わりじゃないんですか?」
真優は微笑む。
「まだ序盤」
美優は一言。
「これから」
結衣は小さく呟く。
「映画って怖いですね……」
でもその目は少しだけ、楽しそうだった。
そしてステージのライトはまだ消えない。
物語は、もう後戻りできないところまで来ていた。
第71話へ続く。




