第69話『初日リハーサル・教室というステージ』
映画撮影初日。
M&M COMPANYの一部スタジオは、すでに“学園セット”に作り変えられていた。
黒板。 机。 窓から差し込む光。
現実なのに、どこか作り物っぽい。
結衣は教室の入口で立ち止まる。
「……これ、本当に会社ですか?」
真優が後ろから即答する。
「セット」
美優は一言。
「映画」
結衣は納得してない顔をする。
「分かってますけど……感覚が追いつかないんです」
教室内。
すでに凛と麗華が座っている。
凛は真面目にノートを見ている。
麗華は机に肘をついて窓の外を見ている。
凛が先に気づく。
「結衣、遅い」
結衣は慌てて入る。
「すみません!まだ気持ちが会社に……」
麗華が笑う。
「もう混ざってるよ、それ」
そこへ、真優と美優が入ってくる。
一瞬で空気が変わる。
凛が小声で言う。
「来た」
麗華も姿勢を正す。
「教師モードだね」
真優は黒板の前に立つ。
美優は教卓の横で腕を組む。
真優が言う。
「じゃあ始めるよ」
美優が続ける。
「今日は“音の基礎”」
結衣は小声で凛に言う。
「これ授業ですよね?」
凛は真顔で返す。
「映画上はね」
真優が黒板に書く。
“感情=音”
結衣はそれを見て固まる。
「……雑に見えて深いですね」
麗華が笑う。
「一番危ないやつだよそれ」
美優がドラムスティックを軽く机に叩く。
カン。
「じゃあ実践」
結衣は即座に反応する。
「もうですか?」
真優が微笑む。
「映画だから」
凛が前に出る。
「課題は?」
真優は答える。
「一音で“孤独”を作る」
結衣は固まる。
「一音で!?」
麗華が笑う。
「無理ゲーでしょ」
美優は短く言う。
「やれ」
凛がドラムに座る。
静かにスティックを握る。
一瞬、教室が静かになる。
ドン。
一発。
その音だけで空気が変わる。
結衣は思わず呟く。
「……寒い」
真優が小さく頷く。
「成功」
凛は少しだけ驚く。
「これでいいの?」
美優が一言。
「いい」
麗華が手を上げる。
「じゃあ次は私?」
真優が頷く。
「自由に“混乱”を作って」
麗華は笑う。
「簡単だねそれ」
ピアノの音。
バラバラなリズム。
でも不思議と“まとまりかけて崩れる”。
結衣は頭を抱える。
「これ映画っていうより実験ですよね」
真優が即答。
「両方」
そして真優。
教卓に戻る。
「最後」
美優が静かに言う。
「“中心”」
結衣は固まる。
「またですかそれ」
真優は結衣を見る。
「結衣」
結衣は嫌な予感。
「はい……」
真優は一言。
「やって」
結衣は叫びかける。
「何をですか!?」
美優が短く言う。
「空気を揃える」
結衣は深呼吸する。
(またこれだ……)
教室を見渡す。
凛、麗華、真優、美優。
全員が見ている。
結衣は小さく言う。
「……じゃあ、いきます」
何も弾かない。
何も叩かない。
ただ、息を整える。
その瞬間——
教室の空気が一斉に変わる。
麗華が目を見開く。
「え、今の何?」
凛が呟く。
「揃った」
真優が静かに言う。
「これ」
美優が一言。
「中心」
結衣は慌てる。
「いや何もしてませんよ!?」
真優は微笑む。
「それが一番重要」
その時、監督の声が響く。
「OK!今のカット最高です!」
スタッフがざわつく。
「今の“空気変化”ガチで撮れた!」
結衣は固まる。
「え、今のでOKなんですか?」
麗華が笑う。
「結衣ちゃん、天才俳優じゃん」
凛も小さく頷く。
「自然だった」
美優は一言。
「現実」
休憩中。
教室の窓際。
結衣は机に突っ伏す。
「もう何が演技で何が現実か分からないです……」
真優が隣に座る。
「それが映画」
美優は水を飲みながら言う。
「それが音」
結衣は天井を見る。
「私、ずっと中心なんですか?」
真優は少しだけ笑う。
「今さら?」
凛が続ける。
「最初から」
麗華も笑う。
「逃げられないやつ」
結衣は小さくため息をつく。
「……もう慣れました」
真優が立ち上がる。
「じゃあ次シーンいくよ」
美優も続く。
「ライブシーン」
結衣は顔を上げる。
「え、それ映画じゃなくて本番ですよね?」
真優は即答する。
「そう」
結衣は立ち上がる。
「やっぱり無理ですって!」
でも誰も止まらない。
カメラはすでに回っている。
物語は止まらない。
そして——ステージへ続いていく。
第70話へ続く。




