第64話『弟子入り宣言』
お菓子フェスティバルから数日後。
M&M COMPANY本社は、いつも通り騒がしかった。
だが結衣だけは落ち着かないまま、廊下を歩いていた。
(最近、全部が急に進みすぎてる気がする……)
そのときだった。
「結衣」
背後から呼ばれる声。
振り返ると、真優が立っている。
いつもの無表情に近い顔。
結衣は少し身構える。
「はい……?」
真優は一言。
「稽古室」
「……え?」
稽古室。
そこにはすでに美優と麗華、凛もいた。
空気が妙に重い。
結衣は一歩下がる。
「これ、また何か決まってます?」
美優が即答する。
「決まってない」
結衣は少し安心する。
「よかった……」
真優が続ける。
「決める前に、来た」
結衣は嫌な予感がする。
その時だった。
扉が勢いよく開く。
「失礼します!!」
結衣はビクッとする。
そこに立っていたのは——
白石凛。
そして、その隣にもう一人。
白石凛と同じ年頃の少女。
少し柔らかい雰囲気。
だが目は真剣。
結衣は固まる。
「……また増えるパターンですか?」
真優は小さくため息。
「増える前提になってる」
美優は一言。
「正解」
瑠美愛が後ろから顔を出す。
「紹介するね!」
白石凛が一歩前に出る。
「弟子入りしたい」
結衣は固まる。
「……弟子?」
もう一人の少女も頭を下げる。
「私たち、真優さんと美優さんに教わりたいです」
空気が一気に変わる。
真優が目を細める。
「私たちに?」
美優は淡々と。
「理由は」
白石凛は迷わず言う。
「もっと上に行きたいから」
もう一人も続く。
「今のままじゃ届かない気がするんです」
結衣はその言葉に少しだけ息を呑む。
(本気だ)
真優はしばらく黙る。
美優も何も言わない。
静寂。
その中で、凛が言う。
「結衣じゃなくていいんですか?」
その一言に、結衣は目を瞬かせる。
真優が即答する。
「違う」
少し間。
「結衣は別枠」
結衣は固まる。
「別枠って何ですか……」
美優が一言。
「中心」
結衣はさらに混乱する。
「もっと分からないですそれ」
真優はゆっくり腕を組む。
「弟子入りね……」
美優は短く言う。
「いい」
真優は少し笑う。
「珍しいね」
美優は続ける。
「伸びる」
結衣は小さく呟く。
「採用なんですね……」
その時、白石凛が少しだけ笑う。
「やっぱり、ここ来て正解だった」
もう一人も頷く。
「お願いします」
その夜。
稽古室。
初めての“弟子練習”が始まる。
真優がピアノを鳴らす。
美優がリズムを刻む。
白石凛と新しい少女は必死に食らいつく。
結衣は端で見ているだけだった。
凛が小声で言う。
「結衣、やらないの?」
結衣は慌てる。
「私はリーダーなので……」
麗華が笑う。
「それ理由になる?」
結衣は黙る。
その時、美優が一言。
「結衣もやる」
結衣は固まる。
「え、私もですか?」
真優が微笑む。
「今さらでしょ」
結衣はゆっくり立ち上がる。
(もう逃げ場ないなこれ)
音が重なる。
未完成の音。
弟子たちの必死な音。
そして、中心にいる結衣の音。
その全てが混ざる瞬間——
真優がぽつりと言う。
「……悪くない」
美優も一言。
「始まり」
結衣は息を吐く。
「これ、どこに向かってるんですか?」
誰も答えない。
でも、音だけは止まらなかった。
そして確実に——
次のステージへと繋がっていた。
第65話へ続く。




