第63話『お菓子部門フェスティバル』
M&M COMPANY本社のロビーが、いつもと違う甘い匂いに包まれていた。
色とりどりの試作品。 並べられたパッケージデザイン。 そして、やたらテンションの高い社員たち。
結衣は入口に立って固まる。
「……ここ、アイドル事務所ですよね?」
真優が即答する。
「今日は違う。お菓子会社」
美優は資料を見ながら一言。
「フェス」
結衣は頭を抱える。
「情報が雑すぎません?」
その中心にいるのは、例の二人だった。
瑠美愛と玲緒菜。
瑠美愛がステージ前でマイクを握る。
「今日は〜!M&Mお菓子部門フェスティバルでーす!」
玲緒菜もテンション高く続ける。
「新作お菓子を全社員で評価します!」
結衣は真優を見る。
「これ仕事ですか?」
真優は即答。
「イベント」
美優は一言。
「会社の遊び」
結衣は納得できない顔をする。
「それ言っちゃダメなやつじゃないですか……」
その時、玲緒菜が結衣を見つける。
「結衣ちゃんも参加ね!」
「え?」
瑠美愛がニヤッと笑う。
「アンバサダーだから!」
結衣は固まる。
「いつの間に決まったんですかそれ」
真優が肩をすくめる。
「流れ」
美優は短く言う。
「既成事実」
結衣は深くため息をつく。
(この会社、怖い)
会場はすでに試食フェス状態だった。
テーブルには新作お菓子がずらりと並ぶ。
チョコレート。 クッキー。 限定スイーツ。
社員たちは真剣な顔で試食している。
「これ売れるな……」 「いやこっちの方がバズる」 「味の完成度が異常」
結衣も一口食べる。
「……普通においしい」
真優が横で笑う。
「リアクション弱い」
美優は一言。
「プロ」
その時、瑠美愛が手を叩く。
「では!アンバサダーコメントお願いします!」
結衣は固まる。
「え、私がですか?」
玲緒菜が即答。
「そう!」
結衣は仕方なくマイクを持つ。
少し考えてから言う。
「……おいしいです」
会場が一瞬止まる。
真優が吹き出す。
「雑!」
美優は小さく頷く。
「正直」
瑠美愛は爆笑する。
「いいねそれ!」
玲緒菜も笑う。
「一番売れるコメント!」
結衣は恥ずかしそうに俯く。
(もっとちゃんとしたコメント求められると思ってた……)
その時、試食会場の隅で小さな騒ぎが起きる。
「新作スイーツ、想定以上に反応良いです!」 「これ商品化いけます!」 「アンバサダー効果すごい!」
結衣は目を丸くする。
「え、ほんとに?」
真優がニヤッとする。
「影響力」
美優は短く言う。
「才能」
結衣は顔を赤くする。
「そんな大げさな……」
玲緒菜が笑いながら言う。
「じゃあ次はもっとすごいのお願いしようかな!」
瑠美愛も続く。
「ライブでコラボスイーツとか!」
結衣は即座に反応する。
「それは聞いてないです!」
真優は笑う。
「もう逃げられないね」
美優は一言。
「決定事項になる」
結衣は天井を見る。
「この会社、既成事実多すぎません?」
夕方。
フェスが終わり、ロビーは静かになる。
結衣は一人で試作品の箱を見ていた。
(アイドルなのか、モデルなのか、アンバサダーなのか……)
もう役割が分からない。
その時、真優が隣に来る。
「どうだった?」
結衣は少し考えてから言う。
「……忙しいです」
真優は笑う。
「それが正解」
美優が後ろから言う。
「全部繋がってる」
結衣は少しだけ笑う。
「そういうものなんですかね」
真優は頷く。
「そういう会社だからね」
夕陽がロビーに差し込む。
お菓子の箱が、少しだけ輝いて見えた。
そして結衣はまだ知らない。
このフェスが——
さらに大きなステージへの“入口”だったことを。
第64話へ続く。




