第38話 『現れたライバル』
M&M COMPANY設立から三か月。
天野結衣も少しずつ成長していた。
ウォーキング。
演技レッスン。
SNS発信。
毎日必死に努力を続けている。
そんなある日。
社長室。
真優が慌てて飛び込んできた。
「大変!」
美優が顔を上げる。
「どうしたの?」
「見てこれ!」
タブレットが差し出される。
そこには芸能ニュース。
大きな見出しが表示されていた。
『カリスマモデル・神崎麗華、芸能界復帰へ』
美優は記事を読む。
神崎麗華。
二十歳。
十代で爆発的人気を誇った伝説的モデル。
海外でも活動経験がある。
しかし一年ほど前に突然活動休止。
その彼女が復帰するらしい。
真優が言う。
「この人すごいよ」
「知ってる」
「え?」
「雑誌で見たことある」
美優は静かに答えた。
実際。
モデルを目指していた頃。
何度も神崎麗華の特集を読んでいた。
圧倒的な表現力。
存在感。
カリスマ性。
まさにトップモデルだった。
数日後。
都内ホテル。
ファッション業界の交流パーティー。
著名人。
モデル。
俳優。
経営者。
数百人が集まる。
美優も招待されていた。
会場に入ると。
周囲がざわついている。
「来た」
「本物だ」
「やっぱり綺麗……」
視線の先。
一人の女性が歩いていた。
長い黒髪。
整った顔立ち。
圧倒的なオーラ。
神崎麗華だった。
会場の空気が変わる。
それほどの存在感だった。
しばらくして。
麗華がこちらへ歩いてくる。
真優が固まる。
「来る来る来る!」
「落ち着いて」
「無理!」
美優は相変わらずだった。
そして。
麗華は美優の前で立ち止まる。
数秒の沈黙。
周囲も見守っている。
やがて。
麗華が口を開いた。
「初めまして」
「初めまして」
「美優さん」
「はい」
麗華は微笑んだ。
「ずっと会いたかった」
会場がざわめく。
まさかの言葉だった。
「私に?」
美優が聞く。
麗華は頷く。
「モデルで成功して」
「会社まで作った」
「面白い人だと思った」
真っ直ぐな視線。
探るような目。
だが。
嫌な感じではない。
むしろ興味を持っているようだった。
美優も答える。
「私も会いたかったです」
「へぇ?」
麗華が少し驚く。
「雑誌で見てました」
「昔から憧れてました」
今度は麗華が黙った。
そして。
小さく笑う。
「そういうことを真顔で言うんだ」
「本当だから」
「なるほど」
麗華は楽しそうだった。
その後。
二人は少し話した。
モデルのこと。
仕事のこと。
将来のこと。
不思議なくらい会話が合った。
しかし。
途中で麗華が言った。
「でもね」
「?」
「私は負ける気ないから」
真優が吹き出しそうになる。
いきなりだった。
だが。
麗華の目は本気だった。
「モデルとしても」
「経営者としても」
「絶対に負けない」
挑戦状。
そう言ってもいい。
会場の空気が張り詰める。
しかし。
美優は少し考えてから答えた。
「私もです」
麗華が目を細める。
「へぇ」
「負けたくないです」
静かな声。
でも。
そこに迷いはなかった。
二人の視線がぶつかる。
バチバチ。
という音が聞こえそうだった。
周囲の人たちは息を呑む。
真優だけが小声で呟いた。
「怖い怖い怖い」
パーティー終了後。
ホテルの外。
夜風が吹いていた。
真優が隣を歩く。
「すごい人だったね」
「うん」
「ライバル?」
美優は少し考える。
そして。
首を横に振った。
「違う」
「違うの?」
「目標かな」
真優が笑う。
「なるほどね」
確かに。
麗華は強い。
経験も実績も圧倒的。
今の美優より上かもしれない。
でも。
だからこそ。
追いかける価値がある。
その頃。
高層マンション。
麗華の部屋。
窓から東京の夜景を見ながら。
彼女は今日のことを思い出していた。
美優。
若い社長。
人気モデル。
そして。
自分と似た目を持つ人。
夢を追う人間の目。
麗華は小さく笑った。
「やっと見つけた」
誰にも聞こえない声。
それは。
久しぶりに現れた本気の相手への期待だった。
芸能界。
ファッション業界。
そしてビジネスの世界。
二人の才能が交わる時。
新たな物語が始まる。
ライバルか。
仲間か。
それとも――。
まだ誰にも分からなかった。
第39話へ続く。




