第36話 『M&M COMPANY 始動』
M&M COMPANY設立発表から一週間。
世間の反応は予想以上だった。
テレビ。
雑誌。
ニュースサイト。
SNS。
どこを見ても美優の話題が流れている。
「モデル兼社長」
「新時代の女性経営者」
「若き挑戦者」
様々な言葉で紹介されていた。
だが――
美優自身は浮かれていなかった。
むしろ忙しさは増していた。
M&M COMPANY本社。
朝七時。
社長室。
誰よりも早く出社した美優は資料を読んでいた。
コンコン。
扉が開く。
「おはようございます」
真優だった。
「早いね」
「社長が早すぎるんです」
「だから社長って呼ばないで」
即答。
真優が笑う。
「もう無理だと思う」
「嫌だ」
「諦めてください社長」
「嫌」
二人は思わず笑った。
しかし。
その時。
机の上のスケジュール表が目に入る。
今日だけで。
会議五件。
撮影二件。
面談三件。
取材一件。
真優が苦笑した。
「地獄みたいな予定だね」
「まだ大丈夫」
「絶対大丈夫じゃない」
「平気」
「顔に書いてある」
美優は少しだけ視線を逸らした。
図星だった。
午前九時。
第一事業部。
モデル部門会議。
新設された広い会議室。
十数名のスタッフが集まっている。
美優が前に立つ。
「新人オーディションを行います」
資料が映し出される。
全国規模。
対象年齢。
育成プログラム。
サポート体制。
細かく説明されていく。
スタッフが驚く。
「ここまで準備していたんですか?」
美優は頷く。
「夢を叶える場所にしたいから」
静かな声だった。
だが。
その言葉には熱があった。
スタッフたちも真剣な表情になる。
「やりましょう」
「最高のモデル事務所を作りましょう」
会議室に拍手が広がった。
昼。
第二事業部。
俳優部門。
責任者は真優。
大型モニターには映画企画書が並んでいる。
「新人俳優発掘プロジェクトです」
真優が説明する。
「演技経験ゼロでも挑戦できる環境を作ります」
美優が頷く。
「いいと思う」
「即採用?」
「即採用」
真優が笑った。
「決断早いなぁ」
「良いと思ったから」
「社長向いてるかもしれない」
美優は少し困った顔をした。
「だから社長って呼ばないで」
「無理」
即答だった。
午後。
第三事業部。
ブランド部門。
責任者は玲美愛。
デザイン案が大量に並んでいた。
新作アパレル。
アクセサリー。
バッグ。
香水。
次々に説明される。
玲美愛が言う。
「来年には海外展開も考えてる」
美優が目を見開く。
「早いね」
「社長がもっと早いから」
「私?」
「会社作った人が言う?」
確かに。
誰も反論できなかった。
会議室は笑いに包まれる。
そして。
夕方。
第四事業部。
お菓子部門。
責任者は玲美菜。
テーブルの上には大量のお菓子。
クッキー。
マカロン。
フィナンシェ。
チョコレート。
スタッフが説明する。
「試作品です」
美優の目が輝く。
「全部食べていい?」
「仕事ですから」
「やった」
真優が呆れた。
「絶対楽しんでる」
「仕事」
「説得力ゼロ」
玲美菜も笑う。
「でも美優らしいよね」
その言葉に全員が頷いた。
美優も少し照れながら笑った。
夜。
午後九時。
会社の廊下。
ほとんどの社員が帰宅していた。
静かな社内。
美優は窓から東京の夜景を見ていた。
そこへ。
真衣がやって来る。
「まだ帰らないんですか?」
「もう少し」
「頑張りすぎですよ」
美優は少し考える。
そして小さく笑った。
「楽しいから」
真衣は驚いた。
疲れているはずなのに。
美優の目は輝いていた。
夢を追っていた頃と同じ目。
いや。
それ以上だった。
「モデルだけだった頃より?」
真衣が聞く。
美優は夜景を見ながら答えた。
「今の方が楽しい」
会社を作った。
仲間がいる。
夢がある。
挑戦できる。
守るべき場所もできた。
それが嬉しかった。
帰り際。
エントランス。
巨大な会社ロゴが見える。
M&M COMPANY
美優は立ち止まる。
数か月前まで想像もしなかった景色。
モデルだった自分。
社長になった自分。
どちらも本当の自分。
そして――
まだゴールではない。
これは始まり。
もっと大きな夢へ。
もっと遠い未来へ。
美優は静かに微笑んだ。
「行こう」
誰に言ったわけでもない。
それでも。
その言葉には確かな決意が込められていた。
M&M COMPANY。
設立から始まった新たな物語は――
今。
大きく動き出そうとしていた。




