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『君の笑顔が可愛すぎで好きだった!』  作者: 優貴(Yukky)


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第31話 「それぞれのオファー」

春。

東京。

桜の季節は終わりを迎えようとしていた。

しかし、美優と武田真優の毎日は、むしろこれからが本番だった。

二人は同じ芸能界にいながら、少しずつ違う道を歩き始めていた。

朝。

美優は都内の撮影スタジオにいた。

大型ファッション誌の表紙撮影。

スタジオにはスタッフが何十人も集まり、慌ただしく動いている。

「美優さん、次の衣装お願いします!」

「はい」

美優は笑顔で返事をする。

しかし、その表情の裏では別のことを考えていた。

撮影が終わるたびに増える仕事。

SNSのフォロワー数はすでに数百万人。

企業案件も次々に届く。

モデルとしての評価も高い。

順調だった。

順調すぎるほどに。

(この先、どうなるんだろう)

ふとそんなことを考える。

モデルとして成功する。

もちろん嬉しい。

でも、それだけでいいのか。

最近、そんな疑問が心のどこかにあった。

撮影終了後。

控室。

マネージャーが分厚い資料を抱えて入ってきた。

「美優さん」

「はい」

「新しいオファーです」

机の上に資料が並ぶ。

化粧品CM。

飲料メーカー。

アパレルブランド。

海外雑誌。

テレビ出演。

どれも大手企業ばかりだった。

普通なら飛び上がるほどの話だ。

しかし美優は静かだった。

資料をめくる。

そして一枚の企画書で手が止まった。

『アパレルブランド共同プロデュース企画』

美優はもう一度読む。

モデルとして出演するのではない。

ブランド作りそのものに参加する企画だった。

「これ……」

マネージャーが頷く。

「かなり本気の案件です」

「美優さんの感性を活かしたいそうです」

美優はしばらく黙った。

(作る側……)

今までとは違う。

新しい世界。

少しだけ胸が高鳴った。

同じ頃。

フランス・パリ。

武田真優は映画制作会社の会議室にいた。

壁には海外作品のポスター。

英語とフランス語が飛び交う。

最初は何も聞き取れなかった。

今でも完璧ではない。

それでも以前よりずっと慣れた。

真優は資料を見つめる。

タイトルはまだ未定。

だが、内容は明らかだった。

アクション映画。

しかも国際共同制作。

主演候補の一人として名前が載っている。

真優は思わず息を止めた。

「本当に私ですか?」

通訳を通して尋ねる。

プロデューサーが笑う。

「もちろんです」

「あなたの演技を見ました」

「可能性を感じています」

真優は資料を握る。

主演候補。

まだ決定ではない。

それでも大きなチャンスだった。

会議終了後。

ホテルの部屋。

真優はベッドに倒れ込む。

天井を見る。

心臓がまだ落ち着かない。

海外映画。

主演候補。

ほんの数年前なら考えられなかった。

スマホが鳴る。

画面を見る。

美優からだった。

『仕事終わった?』

真優は少し笑う。

『今終わった』

すぐに既読がつく。

『お疲れ』

短いやり取り。

昔から変わらない。

『そっちは?』

真優が送る。

少しして返信。

『面白いオファー来た』

『どんな?』

『服』

真優は首を傾げる。

『モデル?』

数秒後。

返信。

『違う』

『作る側』

真優は目を見開いた。

『すごいじゃん』

送信する。

しばらく既読にならない。

数分後。

返信。

『まだ決めてない』

真優はその一文を見て少し笑った。

(美優らしい)

慎重。

でも、一度決めたら絶対にやり切る。

それが美優だった。

翌週。

東京。

美優は再び会議室にいた。

アパレル企画の打ち合わせ。

デザイン資料。

市場分析。

販売計画。

予想以上に本格的だった。

担当者が言う。

「私たちは美優さんを広告塔としてではなく」

「ブランドの顔として迎えたいと思っています」

美優は静かに聞く。

「ブランドの顔……」

「はい」

「商品だけではありません」

「価値観も含めてです」

その言葉が妙に心に残った。

価値観。

自分らしさ。

モデルとしてではなく、人として評価される。

そんな感覚だった。

同じ頃。

パリ。

真優はアクション指導を受けていた。

走る。

転ぶ。

立ち上がる。

何度も繰り返す。

監督が言う。

「もう一回!」

真優は息を切らしながら頷く。

体は限界だった。

しかし不思議と嫌ではない。

むしろ楽しかった。

(もっと上に行きたい)

そう思った。

主演を勝ち取りたい。

世界で戦いたい。

その気持ちは日に日に強くなっていた。

夜。

日本とフランス。

離れた場所で二人は同じ空を見上げていた。

美優は東京。

真優はパリ。

距離は遠い。

でも連絡は続いている。

スマホが鳴る。

真優からだった。

『アクション練習で死にそう』

美優は思わず笑う。

『頑張れ』

『他人事だな』

『他人だから』

すぐ返信。

『ひどい』

美優は小さく笑った。

沈黙の後。

真優が送る。

『でもさ』

『なに』

『最近思う』

『?』

『私たち、違う方向に進んでるね』

美優は画面を見つめる。

しばらく返信できなかった。

確かにそうだ。

同じ芸能界。

同じスタート。

でも今は違う。

真優は世界を目指している。

美優は新しい事業へ興味を持ち始めている。

数分後。

美優は返信した。

『違う方向でも前に進んでるならいい』

既読。

数秒後。

返信。

『それもそうか』

美優は空を見る。

夜空。

東京の光。

そして小さく呟いた。

「負けないよ」

誰に向けた言葉なのか。

自分でも分からなかった。

パリ。

真優も窓の外を見る。

街の明かりが輝いている。

そして笑った。

「こっちも負けない」

二人は別々の道を歩き始めていた。

モデルから実業家へ向かう美優。

女優として世界へ挑む真優。

まだ交差する。

でも少しずつ距離は変わる。

それは仲違いではない。

成長だった。

新しいオファー。

新しい挑戦。

新しい未来。

その扉は、もう開き始めていた。

第31話 完

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