第25話 「M&M」
東京・新オフィス。
白を基調にしたフロアには、まだ何も“完成された会社”の匂いがない。
段ボール、ノートPC、仮の机。
それでも空気だけは、やけに前に進んでいた。
壁に掛けられたロゴ。
MIYU & MAYU
その下に小さく書かれている通称。
M&M
美優がそのロゴを見上げる。
「お菓子みたいだね」
真優が横で即答する。
「それ言われると思った」
プロデューサーが説明する。
「ここからはブランドじゃなくて、企業です」
「アパレル事業部ではなく、“会社”です」
空気が少し変わる。
マネージャーが資料を配る。
そこには新しい組織図。
CEO:美優
COO:真優
その下に並ぶ名前。
美優は目を止める。
「この人たち、本当に来るの?」
真優が言う。
「もう返事もらってる」
翌日。
新オフィス・初出社日。
ドアが開く音。
最初に入ってきたのは、玲美愛。
明るい雰囲気のまま、周りを見回す。
「え、思ってたよりガチなんだけど」
続いて、真衣。
無言で資料を机に置く。
「ここ、ちゃんと仕事する場所ですね」
最後に、玲美菜。
少し緊張した様子で立つ。
「よろしくお願いします……!」
空気が一気に“会社”になる。
美優が三人を見る。
「全員来たんだ」
真優が横で言う。
「呼んだからね」
ミーティングルーム。
初会議。
美優が言う。
「この会社は、普通のアパレルじゃないです」
玲美愛が軽く手を上げる。
「普通じゃないって、どのレベル?」
真優が即答する。
「全部」
少し笑いが起きる。
美優は続ける。
「ブランドを作るんじゃなくて、“文化を作る”」
玲美菜が小さく息をのむ。
真衣が言う。
「それ、かなり抽象的ですけど」
美優は頷く。
「今はそれでいい」
真優が資料を出す。
「最初のコレクション、テーマは決まってる」
《MIRROR(鏡)》
玲美愛が言う。
「鏡?」
真優が説明する。
「見る側と見られる側じゃなくて」
一拍。
「同じものを映す関係」
美優が静かに言う。
「私たちそのまま」
少し沈黙。
でも否定する人はいない。
玲美菜がぽつりと言う。
「なんか……怖いですね、それ」
美優が少し笑う。
「怖いくらいでちょうどいい」
その夜。
オフィスはまだ明るい。
誰も帰らない。
真優が窓の外を見ながら言う。
「会社、作っちゃったね」
美優が椅子に座ったまま答える。
「まだ途中」
真優が振り向く。
「どこまで行くつもり?」
美優は少し考える。
「終わりがないところまで」
真優は笑う。
「やっぱりそういう人」
オフィスの電気が一つずつ落ちていく。
でも、M&Mだけはまだ止まらない。
それはブランドではなく、会社でもなく。
“二人の延長線”として動き始めていた。
第25話 完




