第26話 「最初のコレクション」
M&M設立から一ヶ月。
オフィスはもう“仮”ではなくなっていた。
段ボールは消え、代わりに生地見本とデザイン画が壁を埋めている。
その中心にあるのが、最初のコレクション。
《MIRROR(鏡)》
M&M 初回ランウェイライン
美優がデザインボードを見つめる。
「これ、もう引き返せないやつだね」
真優は資料をめくりながら言う。
「最初から引き返す気ないでしょ」
玲美愛が横から顔を出す。
「これ、普通にファッションショーやる感じ?」
真衣が淡々と答える。
「やる規模ですよ。完全に」
玲美菜が小さく息を飲む。
「え、初回でそれって……」
美優が頷く。
「初回だからやる」
真優が続ける。
「初回だから、全部決まる」
会議室。
ランウェイ構成の説明。
モデルリスト。
照明演出。
音楽。
空気がどんどん“現実の重さ”を持っていく。
玲美愛がぼそっと言う。
「これ失敗したら普通に会社終わらない?」
真優が即答する。
「終わる可能性はある」
一瞬の沈黙。
美優が笑う。
「でも、やる」
その言葉で、空気が変わる。
玲美菜が小さく言う。
「……なんか、怖いけど、ちょっとワクワクします」
真衣が頷く。
「こういう会社、普通は止める人がいるんですけどね」
真優が言う。
「止める人は最初から入れてない」
数週間後。
ショー会場。
都内とは思えないほどの規模のホール。
海外メディア、国内メディア、招待客。
バックヤード。
緊張が走る。
スタッフが走り回る中、美優と真優は一度だけ立ち止まる。
鏡の前。
同じデザインの服を着ている。
ただ違うのは、立つ側かどうかだけ。
真優が言う。
「ねえ」
美優が見る。
「なに」
「ここまで来たの、早い?」
美優は少し考える。
「遅いくらい」
真優が笑う。
「相変わらず」
アナウンス。
「開場です」
光が落ちる。
音が止まる。
そして、ランウェイが始まる。
M&Mの最初の一歩。
その中心にいるのは、“ブランド”ではなく二人だった。
美優と真優。
並ぶように、少しだけ前に進む。
第26話 完




