第20話『公開』
0秒。
世界が動いた。
SNS、ニュースサイト、ファッション系メディア。
一斉に同じ映像が流れ始める。
『MIYU ORIGINAL APPAREL PROJECT』
最初の数秒は静か。
白い空間。
何もない背景。
そこに、美優が立つ。
次に、真優が現れる。
何の説明もない。
ただ“同じ世界にいる”という事実だけが提示される。
字幕もナレーションも少ない。
ただ一言だけ。
《作る側と、選ばれる側の境界》
コメント欄が一気に動き始める。
「これ誰?」
「美優ブランドやばい」
「真優ってあの映画の?」
「空気感えぐい」
スタジオのモニターでも、リアルタイムで反応が流れる。
プロデューサーが小さく言う。
「……想定以上ですね」
美優は画面を見たまま動かない。
真優も同じ。
数分後。
トレンド1位。
ブランド名が検索急上昇。
「成功ですね」
誰かが言う。
でも、美優はすぐには頷かない。
そのとき。
真優のスマホが震える。
少しだけ見て、画面を美優に向ける。
そこには一通の通知。
《海外映画プロジェクト:最終候補決定》
真優は小さく息を吐く。
「タイミング、最悪だね」
美優は少しだけ笑う。
「最高じゃない?」
真優が顔を上げる。
「何が?」
美優はモニターを見たまま言う。
「今の私たち、どっちも“選ばれる側”じゃなくなってる」
真優は黙る。
数秒後。
「……ほんとに?」
美優はゆっくり振り向く。
「私はもう“選ぶ側”に片足入ってる」
一拍。
「真優はまだ“選ばれる側”だけど」
真優が少しだけ眉を動かす。
美優は続ける。
「でもさ、それって別に上下じゃないよね」
静かな沈黙。
真優が言う。
「じゃあ何?」
美優は少しだけ間を置く。
そして答える。
「役割」
その言葉で空気が変わる。
真優は小さく笑う。
「それ、逃げ道にも聞こえる」
美優も笑う。
「かもね」
でもその笑いは、前よりずっと軽い。
スタッフが声を上げる。
「追加でインタビュー依頼来てます!」
「海外メディアも!」
世界が一気に広がる。
その中で、二人だけが少し静かだった。
真優がぽつりと言う。
「ねえ、美優」
「なに」
「これからさ」
一拍。
「もっと面倒になるよね」
美優は即答する。
「うん」
「でも」
少しだけ笑う。
「それでいい」
真優も笑う。
「同意」
カメラの向こうで、数字が跳ね続けている。
でも二人はもう、それを“結果”としてしか見ていなかった。
美優が小さく言う。
「まだ終わってないよ」
真優が頷く。
「むしろ始まった」
光が強くなる。
世界の注目が二人に集まっていく中で。
それでも二人の距離は、最初より少しだけ近かった。
第20話 完




