第19話 『公開前夜』
スタジオ撮影が終わってから三日。
編集室には、完成間近の映像が並んでいた。
モニターの中には、美優と真優。
でももう“撮影現場の二人”ではない。
ブランドとして切り取られた、別の存在になっていた。
プロデューサーが静かに言う。
「これ、いけますね。かなり強い」
マネージャーも頷く。
「SNS公開したら一気に話題になります」
美優はモニターを見つめたまま、何も言わない。
画面の中の真優は、ほんの少しだけ美優に近い距離で立っている。
あの日の空気が、そのまま残っているようだった。
「公開は明日の夜でいきます」
その言葉で、決定が下る。
夜。
美優の自宅。
静かすぎる部屋。
机の上には何もないのに、頭の中だけが忙しい。
スマホが鳴る。
真優から。
『いよいよだね』
短い。
美優は少しだけ考えて返す。
『うん。緊張してる?』
すぐ既読。
返事は少し遅い。
『してない』
『たぶん』
『たぶん?』
数秒後。
『こういうの、初めてだから分からない』
美優はその文を見て、少しだけ笑う。
(真優でも分からないことあるんだ)
『私も同じ』
送信。
すぐ既読。
真優から続く。
『でもさ』
『失敗してもさ』
一拍。
『まあ、二人でやったならいいかって思える気がする』
美優は一瞬止まる。
その言葉は、軽いのに重かった。
『それは甘い』
すぐ送る。
真優から即返信。
『だよね』
『でもそう思っちゃう』
美優はスマホを見つめる。
少しだけ息を吐く。
『じゃあ、明日はちゃんと仕事しよう』
送信。
真優から最後の返信。
『了解。負けない』
美優はスマホを置く。
窓の外は静かで、東京の夜だけが動いている。
翌日。
朝のニュースサイトには、まだ何も出ていない。
でも業界関係者の間ではすでに話題になっていた。
「美優ブランド、初公開」
「武田真優起用」
そして夜。
公開まで、あと1時間。
スタッフが慌ただしく動く中。
美優と真優は、別室で待機していた。
真優が言う。
「ねえ」
美優が振り向く。
「なに」
「これ、出したらさ」
一拍。
「もう戻れないよね」
美優は少しだけ笑う。
「戻る必要ある?」
真優は黙る。
そして小さく笑う。
「ないか」
カウントダウン。
10分前。
二人は画面の前に並ぶ。
もう会話はない。
でも、距離は遠くない。
0。
公開ボタンが押される。
第19話 完




