第18話 『撮影開始』
朝。
スタジオはすでに戦場のように整えられていた。
照明、カメラ、衣装、メイク、スタッフの動き。
すべてが秒単位で流れていく。
その中心にいるのは、美優と真優。
でも今日だけは、“モデル”と“起用された人”じゃない。
ブランドの顔と、その象徴だった。
「本番入ります!」
声が響く。
空気が一気に締まる。
最初のカットは、シンプルな白シャツ。
背景は何もない、ただの白い空間。
余計な演出は一切ない。
“二人だけで成立する世界”を撮る構図だった。
カメラの前に立つ。
美優と真優。
数メートルの距離。
監督が言う。
「会話して。自然でいいです」
一瞬の沈黙。
真優が先に動く。
「自然って一番難しいんだけど」
小さく言う。
美優は少し笑う。
「いつも通りでいいんじゃない?」
真優は視線を向ける。
「いつも通りって何」
「知らない」
即答。
スタッフが小さく笑う。
緊張が少しだけほどける。
カメラが回る。
その瞬間。
空気が変わる。
美優の目が、仕事の目になる。
真優も同じだった。
さっきまでの“仲直りした距離”が、一気に引き締まる。
監督が小さく呟く。
「いい……今のまま」
シャッター音。
連続。
真優が一歩近づく。
白い空間の中で、距離が縮まる。
「この服さ」
小さく言う。
「着てると、逃げられない感じする」
美優は少しだけ目を細める。
「逃げる予定だった?」
「ないけど」
即答。
一瞬だけ、目が合う。
それだけで、画面が成立しているような感覚。
監督が言う。
「次、少しだけ距離詰めて」
真優が動く。
もう一歩。
今度はかなり近い。
声の距離。
真優が小さく言う。
「これ、変な感じだね」
美優も同じくらいの声で返す。
「何が?」
「仲直りしたあとに、仕事で近いの」
美優は少しだけ笑う。
「嫌?」
真優は一瞬考える。
そして答える。
「嫌じゃない」
その言葉のあと。
シャッター音が一段階増える。
監督が手を止めないまま言う。
「今の、もう一回」
何度も繰り返される撮影。
距離は近くなり、目線は重なり、空気は馴染んでいく。
でも不思議と、完全には混ざらない。
それが“二人らしさ”だった。
休憩。
スタッフが散る。
真優が水を飲みながら言う。
「これさ」
「成功すると思う?」
美優は少しだけ考える。
「成功させる」
即答。
真優は笑う。
「そういうとこ、変わらないよね」
美優も笑う。
「真優もね」
少しの沈黙。
でももう、気まずさはない。
真優が小さく言う。
「明日もあるんでしょ?」
「ある」
「じゃあさ」
一拍。
「まだ終わってないね」
美優は頷く。
「まだ始まっただけ」
スタジオのライトがまた点く。
二人は立ち上がる。
第18話 完




