第15話『再会の条件』
東京。
美優は、ブランド立ち上げの最終会議にいた。
テーブルの上には、完成に近づいたデザイン資料と、キャンペーンの方向性。
その中の一枚に、まだ空白の欄がある。
《キャンペーンモデル:未定》
プロデューサーが言う。
「ここ、海外展開も見据えてるので、ただのモデルじゃ弱いんですよね」
美優は資料を見ながら答えない。
そのとき、マネージャーが静かに言った。
「……一人、候補います」
「誰?」
数秒の間。
「武田真優さんです」
空気が止まる。
美優の指が、紙の上で一瞬止まる。
「……真優?」
プロデューサーが資料をめくる。
「映画のオーディションも通過ラインにいる子ですよね。海外経験もある」
「はい。でも、イメージが合うと思います」
沈黙。
美優はゆっくり息を吐く。
「それ、私に決めさせるの?」
マネージャーは頷く。
「ブランドが“美優そのもの”なら、関わる人もあなたが選ぶべきです」
その言葉が、重かった。
その夜。
美優は一人でデザインルームに残っていた。
机の上に、真優の写真資料。
映画用の宣材写真。
見慣れた顔なのに、少し遠い。
(仕事で会うって、どういう感じなんだろう)
スマホが鳴る。
真優からではない。
「武田真優サイド、スケジュール確認入りました」
事務的な連絡。
まだ本人の意思ではない。
美優は画面を見つめたまま、少しだけ笑う。
「もう決まる前に、動いてるじゃん」
数日後。
オンライン会議。
画面に、真優が映る。
久しぶりの“仕事モードの顔”。
「今回のブランド、キャンペーンの出演オファーをいただきました」
淡々とした声。
美優はカメラ越しに見る。
真優も、少しだけ美優を見ている。
でも、どちらも表情は崩さない。
プロデューサーが説明する。
「今回のテーマは、“作る側と選ばれる側の境界”です」
その言葉に、美優の眉がわずかに動く。
真優が先に口を開く。
「それ、私が出る意味ありますか?」
鋭い。
会議室が少し静かになる。
真優は続ける。
「私はまだ“選ばれる側”の仕事をしています。そこに“作る側の象徴”として入ると、意味が混ざる」
美優は黙って聞いている。
プロデューサーが答える前に、美優が言った。
「じゃあ逆に聞くけど」
真優が画面の向こうで目を上げる。
「私のブランドに出ることで、“選ばれる側のまま終わる自分”になるの、嫌?」
一瞬、空気が変わる。
真優は答えない。
数秒。
そして、少しだけ笑った。
「……嫌かもね」
その一言で、方向が決まる。
会議終了後。
画面は切れたまま。
美優は椅子に座ったまま動かない。
「やっぱ、あの子強いな」
小さく呟く。
そのとき、スマホが震える。
真優からメッセージ。
『仕事としては受ける。でも一個だけ条件』
美優はすぐに開く。
続きが来る。
『美優がちゃんと“私を選んだ理由”を言って』
美優は画面を見て、少しだけ目を細める。
(これ、逃げられないやつだ)
外は夜。
東京の光が、静かに滲んでいた。
第15話 完




