第13話『選ばれ続ける側へ』
――ロサンゼルス・数日後。
武田真優は、次の仕事の打ち合わせに向かっていた。
車の窓の外では、同じような広告が流れている。
あのCMが、もう普通に街に溶けていた。
(ちゃんと広がってるんだな)
そう思った瞬間、胸の奥が少しだけ温かくなる。
でも、その温度はすぐに別の感情に混ざる。
「次は映画のオーディションです」
エミリーの声。
真優は顔を上げる。
「……映画?」
「はい。世界公開作品です」
その言葉は、もう驚きより“現実”として入ってきた。
一方、日本。
美優は、撮影現場の控室で静かに台本を見ていた。
次のCMはシリーズ最終章。
“日本CM女王”という言葉は、もはや業界では定着し始めていた。
スタッフの声がする。
「美優さん、このブランドの“顔”として完全に固定ですね」
美優は少しだけ笑う。
「固定って、いいのか悪いのか分かんないね」
その夜。
真優はオーディション資料を見ていた。
世界中から俳優が集まるプロジェクト。
ページをめくるたびに、名前が増える。
その中に、自分の名前もある。
「武田真優」
そこに違和感はない。
でも、少しだけ重い。
(私は選ばれる側なんだ)
その言葉が、静かに落ちる。
同じ頃。
日本。
美優はテレビCMの放送を見ていた。
自分の顔が何度も流れる。
何十万人、何百万人に見られている“日常”。
でもその中で、ふと気づく。
(私は“選ばれてる側”じゃなくて、“選ばれ続ける側”なんだ)
翌日。
真優のオーディション会場。
英語が飛び交う部屋。
世界中の俳優たちが座っている。
誰もが静かで、誰もが強い。
その中で、真優は思う。
(ここにいるだけで、もう競争なんだ)
名前が呼ばれる。
「MAYU TAKADA」
一歩前へ出る。
短い演技。
たった数分。
でもその数分で、すべてが決まる世界。
演技後。
沈黙。
審査員が話し合う。
真優は息を止めて待つ。
そして――
「We would like to proceed with you」
一瞬、意味が分からなかった。
でも、エミリーが小さく頷く。
「通過です」
真優は静かに息を吐く。
(まだ、残ってる)
同じ頃、日本。
美優は次のCM契約の話を聞いていた。
「次はグローバル展開です」
その言葉に、美優は少しだけ笑う。
「まだ伸びるんだ、それ」
夜。
二人はそれぞれの場所でスマホを見る。
連絡はない。
でも、同じニュースを見ていた。
『MAYU TAKADA、映画プロジェクト選出へ』
『MIYU、日本CM業界で独占的地位へ』
美優はつぶやく。
「ほんとに、別ルートだね」
真優もつぶやく。
「もう比べても意味ないかも」
でも、どこかで分かっている。
比べなくなった時が、一番危ない。
第13話 完




