第11話『相談相手は、いつも一人』
――日本・夜。
美優は、スマホを握ったままソファに沈んでいた。
画面には、まださっきの数字が残っている。
1億4,500万。
「……これ、現実?」
ぽつりと呟いた瞬間、インターホンが鳴った。
同じ頃。
海外のホテル。
武田真優もまた、ベッドの上でスマホを見ていた。
3,500万。
その数字が頭から離れない。
「どうすればいいんだろ……これ」
そのとき、メッセージが届く。
『雷斗、今時間あるって』
――共通の兄。
雷斗。
三人が最も信頼している“現実側の人間”だった。
数時間後。
ビデオ通話がつながる。
画面に映る雷斗は、いつも通り落ち着いていた。
「で、今日はどうした?」
最初に口を開いたのは美優だった。
「……給料の話」
雷斗は一瞬だけ目を細める。
「また重い話持ってきたな」
美優が続ける。
「私、1億4,500万って言われたんだけど」
「ふーん」
「ふーんって何」
「普通にすごい」
あまりにも冷静な反応に、美優は逆に不満そうになる。
その横で、真優が少し遅れて話す。
「私は3,500万」
雷斗は少しだけ考える。
「海外案件込みだろ、それ」
「うん」
「じゃあ妥当」
あっさりした評価。
沈黙。
美優が先に口を開く。
「ねぇ、それさ」
「うん」
「差、でかくない?」
雷斗はすぐに答えない。
少し間を置いてから言う。
「でかいな。でも、それが何?」
その言葉に、二人は黙る。
雷斗は続ける。
「金額は“今の評価”なだけだろ」 「実力の順位じゃない」
美優は小さく反論する。
「でも分かりやすいじゃん」
「だから危ない」
画面越しの雷斗は、少しだけ真剣な顔になる。
「数字で自分の価値決め始めると、終わるぞ」
真優がぽつりと言う。
「でも、気になっちゃうよ」
雷斗は即答する。
「気になるのは普通」
少し間を置いて続ける。
「そこで止まるかどうかの問題だ」
沈黙。
外ではそれぞれ違う国の夜。
同じ兄の言葉だけが、三人を同じ場所に繋いでいた。
美優が小さく言う。
「じゃあさ」
「うん」
「私、このままCMだけでいいの?」
雷斗は即答しない。
その代わり、短く言う。
「決めるのはお前」
真優も続ける。
「私は……海外でこのままでいいのかな」
雷斗は静かに答える。
「“今の場所”に満足してるなら、それでいい」
そして一言。
「でも、お前らはそうじゃないだろ」
沈黙。
その一言だけが、やけに重かった。
通話が終わった後。
――日本。
美優は天井を見ていた。
「……ムカつくくらい正しいんだけど」
――海外。
真優は窓の外を見ていた。
「……まだ、上があるってことか」
同じ夜。
同じ兄の言葉。
それは慰めでも肯定でもなかった。
ただ一つだけ――
二人の“次の段階”を決める言葉だった。
第11話 完




