第8話『ロサンゼルスで、再会』
――アメリカ・ロサンゼルス。
乾いた空気と、強い日差し。
日本とはまったく違う時間の流れの中で、撮影スタジオは朝から慌ただしく動いていた。
「カメラ位置OK!照明もう少し上!」
英語と日本語が混ざる現場。
その中心に、二つの名前があった。
武田真優。
そして――美優。
「……ほんとに来たんだ」
スタジオの入口で、美優は小さくつぶやいた。
その視線の先には、すでに衣装を着た真優がいた。
少しだけ大人びた雰囲気。
でも、目だけは昔のままだった。
「美優……!」
真優が気づいて駆け寄る。
二人は数秒、言葉を失ったまま止まる。
そして――
「海外で会うって何それ」 「それはこっちのセリフなんだけど」
ほぼ同時に笑った。
「まさか同じCMとは思わないよね普通」
美優が腕を組む。
真優は苦笑する。
「私も知らなかったんだけど」
今回の案件は、日米共同の大型ブランドCM。
テーマは「挑戦する若者」。
そして、アジアと世界を繋ぐ“象徴”として二人が起用された。
監督が二人に説明する。
「あなたたちは対立でもなく、競争でもない」 「“同じ夢を違う場所から追っている存在”です」
美優は真優を見る。
真優も美優を見る。
少しだけ、昔を思い出す空気。
「じゃあさ」
美優が軽く笑う。
「ここでも競争っぽくなるわけ?」
真優は少し考えてから答える。
「……ちょっとだけ、負けたくないかも」
「やっぱりね」
二人はまた笑った。
撮影開始。
セットは巨大な街並み。
“世界に挑戦する若者”というコンセプト通り、走るシーンが多い。
「アクション!」
監督の声。
美優が走り出す。
自然な笑顔。
軽さ。
“CMの強さ”。
スタッフがすぐにうなる。
「やっぱり美優、映えるな……」
次のカット。
「武田真優!」
真優が走る。
最初は少し硬い。
だが途中から――
表情が変わる。
迷いが消えていく。
「カット!」
監督が叫ぶ。
そして少し間を置いて言う。
「今のいい。さっきより“世界の顔”になってる」
真優は息を吐く。
休憩中。
二人はセットの階段に並んで座っていた。
「なんかさ」
美優が空を見上げる。
「ここまで来ると、笑うしかないよね」
真優も同じように空を見る。
「うん……でも、まだ途中って感じする」
「分かる」
少し沈黙。
美優がぽつりと言う。
「最初さ、同じスタートだったのにね」
真優は少しだけ目を細める。
「今も同じだと思うけど」
「え?」
真優は続ける。
「ただ、見えてる景色が違うだけ」
美優は少し黙って、それから笑った。
「なにそれ、かっこつけ?」
「かも」
二人はまた笑った。
夕方。
最後のシーン。
二人が同じ方向に走るカット。
カメラが回る。
光が差す。
「アクション!」
二人は並んで走る。
息が合う。
競うでもなく、揃うでもなく。
ただ同じ方向へ。
監督が叫ぶ。
「OK!最高!」
スタジオが拍手に包まれる。
撮影後。
スタッフが言う。
「このCM、絶対世界で話題になるよ」
その言葉に、美優は真優を見る。
真優も美優を見る。
美優が小さく言う。
「じゃあさ」
「うん」
「次は、どっちが先に“本物の世界の中心”行くかね」
真優は少し笑って答える。
「それ、もう始まってるかも」
夕焼けのロサンゼルス。
二人の影が長く伸びる。
同じ場所に立っているのに、少しだけ違う方向を見ている。
でも、そのどちらも――前を向いていた。
第8話 完




