第7話『距離が生む違和感』
――日本・CM撮影スタジオ。
美優は撮影の合間、控室のソファに座っていた。
メイク直しのスタッフが行き来する中、スマホだけが静かに手元にある。
画面には、海外ニュース。
『MAYU TAKADA、世界配信イベントで大成功』
美優はしばらくその文字を見つめていた。
「……ほんとに、世界行ってるんだ」
小さくつぶやく。
嬉しいはずなのに、胸の奥が少しだけざわつく。
「次のCM、いきまーす!」
スタッフの声で現実に戻る。
美優はすぐに立ち上がる。
笑顔。
切り替え。
プロとしての顔。
「お願いします!」
カメラの前では、いつも通り完璧だった。
でも――
どこか“意識しないようにしている自分”がいた。
撮影後。
マネージャーが声をかける。
「美優、次の案件だけど」
「うん」
「海外展開の話も出てる」
美優の足が止まる。
「……海外?」
「日本のCMがそのままアジア圏で流れる可能性ある」
「へぇ……」
返事はできた。
でも、その意味はすぐには入ってこなかった。
その夜。
美優は一人で帰りの車に乗っていた。
窓の外には東京の夜景。
いつも通りのはずなのに、今日は少し遠く感じる。
スマホを開く。
真優からのメッセージ。
『イベント終わった』
たったそれだけ。
でも、その一文がやけに重い。
美優はしばらく考えてから返信する。
『おつかれ』
それだけ打って、送信。
すぐに既読がつく。
しかし、その先が続かない。
同じ頃。
海外。
武田真優はホテルの窓際に座っていた。
さっきの世界配信イベントの余韻がまだ残っている。
でも、心は少し落ち着いていた。
スマホを開く。
美優の返信。
『おつかれ』
短い。
それを見て、真優は少しだけ笑った。
「そっちも忙しいか」
ふと、画面を閉じる。
窓の外には知らない夜景。
そして思う。
(距離、開いてる気がするな)
それは物理的な距離だけじゃなかった。
翌日。
美優は新しいCMの打ち合わせ。
「次は“日本代表顔”としての起用です」
その言葉に、美優は少しだけ笑う。
「また重い肩書き来たなぁ……」
でも、嫌じゃなかった。
同時刻。
真優は海外のインタビュー準備中。
スタッフが言う。
「次はもっと大きなメディアです」
「……まだ大きくなるんですね」
真優は少しだけ遠くを見る。
二人はそれぞれ前に進んでいる。
でもその“進み方”は、少しずつズレていく。
同じスタートラインにいたはずなのに。
今はもう――別の道に見え始めていた。
第7話 完




