第96話 『記者発表会』
主演決定から二週間後。
真優は大きなホールの控室にいた。
鏡の前。
何度も深呼吸する。
落ち着こうとしても落ち着かない。
それもそのはずだった。
今日は――。
『スターライト・クロニクル』制作発表会。
全国配信。
報道陣。
業界関係者。
ファン。
数え切れないほどの人が見ている。
しかも。
主人公役として初めて公式に発表される日だった。
「緊張する……」
真優が呟く。
すると隣から声が聞こえた。
「みんなそうだよ」
振り向く。
そこにいたのは白石紗月だった。
「白石さん!」
真優は慌てて頭を下げる。
白石は笑う。
「そんなにかしこまらなくていいって」
今回。
白石は主人公の師匠役に決まっていた。
つまり。
共演者だ。
真優は未だに信じられなかった。
憧れの人と同じ作品。
しかも重要な役同士。
夢みたいだった。
―――
開演十分前。
出演者全員が集まる。
ベテラン声優。
人気声優。
若手実力派。
そうそうたる顔ぶれ。
真優だけが新人に近い立場だった。
少し肩身が狭い。
だが。
白石が小さく言う。
「堂々として」
真優が顔を上げる。
「主演なんだから」
その一言で。
少しだけ背筋が伸びた。
―――
司会者の声が響く。
「まもなく本番です」
緊張が高まる。
出演者たちが舞台袖へ向かう。
真優も続く。
客席のざわめきが聞こえる。
大勢いる。
本当に大勢。
足が震えそうになる。
その時。
ポン。
誰かが肩を叩いた。
振り向く。
白石だった。
「楽しんできな」
真優は頷く。
「はい!」
―――
照明が灯る。
拍手。
歓声。
司会者が作品紹介を始める。
そして。
出演者紹介。
次々と名前が呼ばれていく。
大きな拍手。
そして――。
「主人公・ユナ役、真優さん!」
歓声が上がる。
真優はステージへ歩き出した。
眩しい。
ライトが眩しい。
観客席が見えないほどだった。
それでも。
前を向く。
一歩ずつ進む。
主演として。
作品の顔として。
堂々と。
席へ座った。
―――
発表会は順調に進む。
作品紹介。
PV上映。
キャストトーク。
真優も少しずつ緊張が解けていった。
だが。
イベント終盤。
プロデューサーが突然言った。
「ここで皆様に重大発表があります」
会場がざわつく。
出演者たちも顔を見合わせる。
真優は聞いていなかった。
何の話だろう。
プロデューサーは笑った。
そして。
スクリーンに映像が映る。
大きく表示された文字。
『劇場版同時制作決定』
会場がどよめいた。
さらに。
次の文字が現れる。
『海外同時展開プロジェクト始動』
歓声。
拍手。
報道陣が一斉にカメラを向ける。
真優は固まった。
「え……?」
劇場版。
海外展開。
想像していたより遥かに大きい。
すると。
白石が小声で言った。
「とんでもない作品に入ったね」
真優は思わず苦笑する。
本当にその通りだった。
そして――。
発表会終了後。
真優のもとへ一人の女性が近づいてくる。
見知らぬ女性。
だが。
首から下げたスタッフ証には海外企業の名前が書かれていた。
女性は流暢な日本語で言う。
「真優さんですね」
「はい」
女性は微笑む。
そして。
驚く言葉を口にした。
「少し、お話ししたいことがあります」
その表情は真剣だった。
真優はまだ知らない。
この出会いが。
彼女の人生をさらに大きく変えることになることを――。
第96話 完




