第92話 『運命のオーディション』
オーディション当日。
真優は会場の前に立っていた。
大手スタジオ。
何度も名前を聞いたことがある場所。
だが入るのは初めてだった。
胸が高鳴る。
緊張している。
新人賞の授賞式とは違う。
今回は評価される側だ。
失敗したら終わるかもしれない。
そんな不安もあった。
「……よし」
小さく呟き、扉を開く。
―――
控室。
そこには多くの声優がいた。
若手。
中堅。
そして有名な人気声優まで。
真優は思わず固まる。
テレビやアニメで何度も聞いた声の持ち主たち。
憧れの人もいる。
「うわ……」
思わず声が漏れた。
レベルが違う。
全員が実力者だった。
だが。
逃げるわけにはいかない。
ここまで来たのだから。
―――
番号が呼ばれる。
「23番、真優さん」
ついに来た。
真優は立ち上がる。
足が少し重い。
でも前へ進む。
扉の向こうには審査員席。
監督。
音響監督。
プロデューサー。
原作者。
そうそうたる顔ぶれだった。
「よろしくお願いします」
真優は深く頭を下げる。
「では始めましょう」
台本を握る。
呼吸を整える。
目を閉じる。
主人公になる。
真優ではなく。
物語の中の彼女になる。
―――
演技開始。
最初のセリフ。
声が出る。
次のセリフ。
感情を乗せる。
さらに続く。
怒り。
悲しみ。
決意。
希望。
主人公の人生を生きるように。
一言一言を届ける。
気付けば。
緊張は消えていた。
ただ演技だけに集中していた。
―――
数分後。
演技終了。
静寂。
会場が静かになる。
真優は少し不安になる。
やってしまっただろうか。
すると。
監督が口を開いた。
「なるほど」
音響監督も頷く。
原作者も資料を見ながら微笑んでいる。
だが。
表情からは結果は読めない。
プロデューサーが言う。
「ありがとうございました」
それだけだった。
オーディションは終了。
真優は一礼して部屋を出る。
―――
廊下。
扉が閉まる。
その瞬間。
力が抜けた。
「終わった……」
壁にもたれかかる。
やれることは全部やった。
後悔はない。
結果がどうであれ。
今の自分を出し切った。
そう思えた。
―――
その夜。
美優たちに報告する。
『終わったー!』
グループチャットに送る。
すぐ返信が来た。
美優 『お疲れ!!』
葵 『全力出せた?』
玲奈 『結果よりまずは休んでください』
真優は少し笑う。
『うん。全部出した』
それだけで十分だった。
……はずだった。
その時。
スマホが鳴る。
画面にはマネージャーの名前。
「え?」
真優は首を傾げる。
オーディション当日の夜。
普通なら結果はまだ先のはず。
電話に出る。
「もしもし?」
マネージャーの声は少し興奮していた。
『真優さん』
『今、話せる?』
「はい」
短い沈黙。
そして――
『実は監督から直接連絡があった』
真優の心臓が跳ねる。
『至急、明日また来てほしいそうだ』
「……え?」
『詳しい話は明日』
『でも』
マネージャーの声が少し震える。
『たぶん、すごいことになる』
真優はスマホを握りしめた。
明日。
何が待っているのか。
まだ誰も知らない――。
第92話 完




