第90話「結果発表」
――新人声優アワード当日。
大きなホール。
華やかな照明。
多くの関係者。
報道陣。
業界関係者。
そして全国へ配信される授賞式。
真優たちは控室にいた。
普段のアフレコ現場とは違う。
独特の緊張感。
誰もが少しだけ落ち着かない。
真優 「無理」
美優 「何が?」
真優 「心臓がうるさい」
葵 「朝から五回は聞いた」
玲奈 「正確には七回です」
真優 「数えてたの!?」
三人が笑う。
少しだけ緊張が和らいだ。
だが。
時間は止まらない。
スタッフが声をかける。
「皆さん、まもなく本番です」
四人は立ち上がる。
運命の時間が近付いていた。
―――
授賞式開始。
次々と賞が発表されていく。
会場から拍手が響く。
真優たちは最前列で見守っていた。
そして。
ついに。
司会者が口を開く。
「続いて」
「新人奨励賞の発表です」
会場が静まる。
大型スクリーンに候補者が映る。
真優たちは息を呑む。
司会者が封筒を開いた。
「新人奨励賞は――」
一拍。
「美優さん」
拍手。
会場が沸く。
美優は目を見開いた。
「え……」
真優が笑顔で肩を叩く。
「おめでとう!」
葵 「行ってこい」
玲奈 「おめでとうございます」
美優は立ち上がる。
まだ信じられない顔のまま。
壇上へ向かった。
―――
続いて。
「新人奨励賞――葵さん」
大きな拍手。
葵は静かに立ち上がる。
だが。
その目は少し潤んでいた。
真優は気付く。
葵も緊張していたのだ。
葵は短く言った。
「行ってくる」
「おめでとう!」
―――
さらに。
「新人奨励賞――神崎玲奈さん」
玲奈が固まる。
数秒動けない。
真優が笑う。
「玲奈ちゃん!」
玲奈 「は、はい!」
会場から少し笑いが起きる。
玲奈は慌てて立ち上がった。
壇上へ向かう背中。
その肩は少し震えていた。
―――
そして。
残ったのは真優一人。
客席に座る。
周囲の音が遠くなる。
心臓だけが聞こえる。
ドクン。
ドクン。
ドクン。
司会者が最後の封筒を手に取る。
「それでは」
「新人大賞の発表です」
会場が静まり返る。
全国の配信視聴者も見守っている。
真優は拳を握る。
司会者が読み上げる。
「今年の新人大賞は――」
長く感じる一秒。
そして。
「真優さんです!」
―――
歓声。
拍手。
大きな拍手。
会場全体が沸いた。
真優は動けなかった。
頭が真っ白だった。
司会者が再度呼ぶ。
「真優さん」
ようやく現実が追いつく。
「……私?」
客席から笑いが起こる。
美優も笑っている。
葵も笑っている。
玲奈も拍手している。
真優の目に涙が浮かぶ。
「行ってこい」
美優が言う。
「うん」
「胸張って」
葵が言う。
「うん」
玲奈も笑った。
「おめでとうございます」
真優は立ち上がった。
大きな拍手の中。
壇上へ向かう。
一歩。
また一歩。
夢みたいだった。
―――
トロフィーを受け取る。
重かった。
でも。
その重さが嬉しい。
司会者がマイクを向ける。
「受賞コメントをお願いします」
真優は客席を見る。
監督。
スタッフ。
仲間たち。
応援してくれた人たち。
たくさんの顔が見えた。
そして。
自然と言葉が出た。
「ありがとうございます」
拍手。
真優は少し笑った。
「正直」
「私が取れると思ってませんでした」
会場が静かになる。
「一人じゃここまで来れませんでした」
「仲間がいて」
「スタッフさんがいて」
「応援してくれる皆さんがいて」
声が少し震える。
「だから」
「この賞は私一人のものじゃありません」
真優は振り返る。
壇上にいる美優。
葵。
玲奈。
三人を見る。
「みんなで取った賞だと思っています」
会場から大きな拍手。
三人も笑っていた。
―――
授賞式終了後。
控室。
真優はトロフィーを抱えていた。
まだ実感がない。
すると。
美優が言う。
「おめでとう」
葵 「新人大賞」
玲奈 「さすがです」
真優は首を振る。
「違うよ」
三人が首を傾げる。
真優は笑った。
「みんながいたからだよ」
少し照れくさい空気。
だが。
誰も否定しなかった。
本当にそうだと思ったから。
ライバルだった。
仲間だった。
支え合った。
競い合った。
だからここまで来られた。
そして――
新人賞はゴールじゃない。
ここから先。
もっと大きな舞台が待っている。
真優たちはまだ知らない。
数日後。
彼女たちの人生を変える。
新たな挑戦の話が舞い込むことを――。
第90話 完




