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『君の笑顔が可愛すぎで好きだった!』  作者: 優貴(Yukky)


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第86話「完璧じゃない」

第二期の収録が始まって一か月。

現場は順調だった。

いや。

順調すぎると言ってもいい。

真優。

美優。

葵。

そして玲奈。

四人の演技が噛み合い始めたことで、作品全体の完成度も確実に上がっていた。

監督も満足そうだった。

「いいな」

収録後、何度もそう口にする。

スタッフたちも手応えを感じている。

誰もが期待していた。

『ツインスターズ・ストーリー Season2』

さらに大きな作品になると。

―――

そんなある日。

アフレコ中。

玲奈の順番だった。

「――だから私は!」

キャラクターの感情が爆発する重要なシーン。

しかし。

「カット」

監督の声が響いた。

スタジオが静かになる。

玲奈はマイクの前で固まった。

監督は台本を見ながら言う。

「悪くない」

「でも違う」

玲奈が目を伏せる。

「……はい」

もう一度。

録り直し。

しかし。

結果は同じだった。

「違う」

三回目。

四回目。

五回目。

それでもOKは出ない。

真優は違和感を覚えていた。

玲奈らしくない。

いつもなら。

もっと自然に演じられる。

なのに。

今日はどこか硬い。

どこか苦しそうだった。

―――

収録終了後。

玲奈は誰よりも早くスタジオを出ていった。

挨拶だけして。

足早に。

美優が心配そうに言う。

「大丈夫かな」

葵も頷いた。

「珍しい」

真優は迷った。

でも。

気になった。

「ちょっと行ってくる」

―――

スタジオの外。

非常階段。

夕方の風が吹いている。

そこに玲奈はいた。

一人で。

手すりにもたれながら空を見ていた。

「玲奈ちゃん」

声をかける。

玲奈が振り返る。

少し驚いた顔。

「真優さん」

「どうしたの?」

「……何がですか?」

「今日」

真優は遠慮なく言った。

「調子悪かったよね」

玲奈は答えない。

沈黙。

風だけが吹く。

やがて。

玲奈が小さく笑った。

「分かりますか」

「分かるよ」

「さすがですね」

その笑顔は寂しそうだった。

玲奈は視線を落とす。

「私」

少し迷う。

言うべきか悩むように。

そして。

ゆっくり口を開いた。

「泣く演技が苦手なんです」

真優は目を瞬く。

予想外だった。

玲奈ほどの実力者にも苦手なものがある。

「意外?」

玲奈が苦笑する。

「みんなそう言います」

「だって上手いもん」

「上手く見せてるだけです」

玲奈は静かに続けた。

「怒る演技」

「叫ぶ演技」

「戦う演技」

「全部好きです」

「でも」

そこで言葉が止まる。

「悲しい感情だけ」

「どうしても分からない」

真優は黙って聞いた。

玲奈は空を見上げる。

「昔から」

「泣くのが苦手でした」

「人前では特に」

「弱いところを見せるのが嫌で」

少しだけ笑う。

自嘲気味に。

「だから演技でも出せないんです」

―――

その時だった。

「なるほど」

聞き覚えのある声。

振り返る。

美優と葵がいた。

玲奈が驚く。

「聞いてたの?」

葵 「途中から」

美優 「ごめん」

玲奈はため息をついた。

「最悪です」

「今さらでしょ」

葵の返しに。

少しだけ空気が和らぐ。

美優は玲奈の隣に座った。

「でも」

「弱点があるのは普通だよ」

玲奈 「普通じゃないです」

美優 「普通」

葵 「普通」

真優 「普通」

三人同時。

玲奈は思わず吹き出した。

「なんですか、それ」

真優が笑う。

「私だってあるもん」

「私も」

「私も」

玲奈は少し驚いた顔になる。

完璧だと思っていた三人。

でも。

違った。

誰だって悩む。

誰だって苦手なものがある。

―――

帰り際。

玲奈はふと立ち止まった。

「真優さん」

「ん?」

「もし良かったら」

少し言いにくそうに。

それでも。

ちゃんと口にした。

「泣く演技」

「教えてくれませんか」

真優は一瞬驚き。

そして笑った。

「もちろん!」

その返事に。

玲奈も少し笑った。

今までで一番自然な笑顔だった。

夕暮れの空。

少しずつ距離が縮まっていく。

ライバルとして。

仲間として。

四人の物語はまた一歩前へ進み始めていた。

第86話 完

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