第81話「光の海」
拍手はなかなか鳴り止まなかった。
生アフレコが終わった後も。
会場中に響く歓声。
真優はその光景を見つめていた。
夢みたいだった。
ほんの数年前まで。
テレビの向こう側で見ていた世界。
憧れていた場所。
その舞台に。
今、自分が立っている。
司会者が笑顔で言う。
「皆さん、まだまだ盛り上がれますかー!」
「おおおおおおおお!!」
会場が揺れる。
歓声が天井にぶつかる。
「それでは!」
「イベント後半戦!」
「ライブパートです!!」
大歓声。
照明が落ちる。
ステージが暗闇に包まれる。
真優は袖へ下がった。
美優。
葵。
三人が並ぶ。
誰も喋らない。
さっきまであれだけ話していたのに。
今は違う。
ライブはまた別だ。
声優としてではなく。
パフォーマーとして立つ時間。
失敗できない。
失敗したくない。
そんな思いが胸を埋める。
すると。
真優が小さく笑った。
「緊張してる?」
美優は苦笑した。
「してる」
葵も短く答える。
「してる」
真優は頷いた。
「私も」
三人は顔を見合わせる。
そして。
自然と笑った。
不思議だった。
一人なら押し潰されそうなのに。
隣に二人がいるだけで。
怖さが少しだけ小さくなる。
その時。
スタッフが近づいてくる。
「まもなくです」
三人は頷く。
「お願いします」
ステージの向こう。
観客席には無数のペンライト。
赤。
青。
緑。
紫。
黄色。
様々な光が揺れていた。
まるで星空みたいだった。
真優は思わず息を呑む。
「綺麗……」
美優も見つめる。
「すごいね」
葵も静かに言った。
「想像以上だ」
そして。
イントロが流れ始めた。
会場が沸く。
歓声。
拍手。
期待。
全てが混ざり合う。
スタッフが合図する。
「どうぞ!」
三人はステージへ飛び出した。
――瞬間。
景色が変わった。
眩しい照明。
埋め尽くされた客席。
揺れるペンライト。
そして。
響き渡る歓声。
「真優ー!!」
「美優ちゃーん!!」
「葵ー!!」
名前が聞こえる。
あちこちから。
何度も。
何度も。
真優は目を見開いた。
本当に自分たちを呼んでいる。
応援してくれている。
その事実だけで胸がいっぱいになった。
音楽が始まる。
最初の一曲。
アニメのオープニングテーマ。
真優が歌い出す。
少し震えた声。
だけど。
すぐに落ち着いた。
客席の笑顔が見えたから。
美優が続く。
透明感のある歌声。
観客が聞き入る。
そして葵。
力強く。
真っ直ぐな歌声。
三人の声が重なる。
会場の空気が変わる。
一つになっていく。
サビ。
観客のペンライトが大きく揺れる。
歓声も大きくなる。
真優は歌いながら思った。
楽しい。
ただひたすら楽しい。
練習の苦しさも。
不安も。
焦りも。
全部消えていた。
今はただ。
この瞬間を楽しみたい。
そう思えた。
曲が終わる。
拍手。
歓声。
大きな歓声。
真優は息を切らしながら笑った。
「すごい!」
客席から歓声。
美優も笑う。
「皆さん元気ですね!」
さらに歓声。
葵もマイクを握る。
「負けてられないな」
会場が沸く。
真優は客席を見渡した。
最前列。
後方席。
二階席。
どこにも笑顔があった。
それだけで嬉しかった。
胸が熱くなる。
すると。
司会者の声が響く。
「次が最後の曲です!」
一瞬。
会場がざわつく。
「えーっ!」
残念そうな声。
真優たちは思わず笑った。
でも。
その最後の曲こそ。
今日一番大切な歌だった。
『ツインスターズ・ストーリー』のエンディングテーマ。
三人が初めて一緒に録音した曲。
たくさん練習した曲。
何度も歌った曲。
思い出が詰まった曲。
照明がゆっくり落ちる。
静かにイントロが流れる。
真優は隣を見る。
美優がいる。
葵がいる。
二人もこちらを見ていた。
小さく頷き合う。
言葉はいらなかった。
全ては歌に乗せればいい。
三人は同時に前を向く。
そして――
最後の曲が始まった。
第81話 完




